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「…ねぇ、」
「うん?」
「…すきだよ、」
「知ってる」
「(よっし大正解!)…えへー」
「なに?いきなり」
「んーん、なんでも」
「気になるよ」
「…いや、あのね?ミクシのバトンで、どっちが萌え?みたいのがあって」
「うん」
「『愛してる』と、『ずっと君の傍に』ならどっちが良い?ってあったの」
「へぇ。…言ってほしいの?」
「話をさいごまで聞こうよ」
「ごめんごめん、許して?(くすくす)」
「…まぁいいや。うん、でね?あたしならどっちが良いかなって考えたんだけど、どっちもあんまりピンと来なくて」
「そうなの?」
「嬉しいんだけどね、言われたらどっちも。でもそれよりも、『すき』って言った時に『知ってるよ』って返してもらった方がときめくなぁって思ったの」
「…なに、それじゃ僕は正解だったんだ?」
「うん、大正解。さすが」
「お褒めにあずかり光栄です」
「あ、ねぇねぇあなたは?」
「僕?」
「うん、どっちがいい?」
「ふむ。…そうだな、君に言われるならどっちもぐっとくるけど」
「そういうものなの?」
「君限定だけどね」
「…なんか、照れる…かも。そんな風に言われると」
「そう?…あ、でも」
「?」
「…ねぇ、」
「なに?」
「…これが、いちばんグッとくる、かな」
「これ?どれ?何が?」
「今の」
「今のって?あたし『なに?』しか言ってないんですけど…」
「うん、そうだね」
「えぇえ何それ意味分かんない…!気になるよっ」
「あはは。ほら、おいで?」
「こーいうときって絶対教えてくれないよねー…(しぶしぶ)」
「良いんだよ、君は知らなくて」
(呼びかけたら振り向いてもらえて)
(おいで、の声に応えてくれる)
「…この距離にいてくれることが一番うれしい、なんてね」
(だって君は僕の世界でいちばん愛しい女の子!)
立ち止まって動けなくなって、行く道も帰る道すらも忘れてなくして。
立ち尽くして何一つ分からなくなって、自分がどこに居るのかも思い出せなくて見つけられなくて。
途方にくれて。
ただ、ただ、くちびるばかりが震えて。
こぼれた息が、意味をなさずにとけていく。
音も出ないよ。
声なんて知らない。
助けてって縋る方法も、とっくの昔に亡くしちゃった。
怖いよ、さむいよ。
くるしい、誰か助けて。
さまよう手。
ぬくもりをうしなってから、もうどれくらい?
※『彼と彼女。』、天使シリーズ。
ハンモックに寝そべって本を読んでいると、下の方でごん、と鈍い音が聞こえた。
「…?」
不審に思って下を覗き込む。
四角い部屋のほぼ中央、僕の左斜め下あたりで床に突っ伏しているご主人さまを確認。
このサイコロの城に似つかわしい小振りで真っ白いノートパソコンの前、彼女はまるで死んだみたいに動かない。
あぁ、またか。
もうすっかり、とまではいかないけれど二度もこの光景を見れば慣れてくるというもの。
僕は仕方なく本に栞をはさんで、彼女の元に舞い降りる。
「…風邪ひくよ」
冷たく硬い床の上、彼女はすやすやと寝息を立てている。
ひとつ溜息を吐きだして、僕は眠り姫を抱えあげた。
…眠りと相性の悪いご主人さま。
けれど人間はどうしたって眠らなくちゃいけない生き物で、無理が過ぎれば必ず身体はSOSを発するというもの。
三日も徹夜に近い状態が続けば、どこかで電池が切れるのは必然だ。
涼しいからと言って床に寝そべって彼女はパソコンで報告書を書いていたようだけど、今回はそこでエネルギーが切れたらしい。
ほんとうに潔いくらい唐突に彼女は眠りの世界に落ちて、その度に僕は(絶対に言ってやらないけれど)心臓が止まる思いがするのだ。
「…人間は脆いんだよ」
ねぇ、知っているの?
心の中で問う。
僕ら天使は眠らなくても、食事をしなくても、神に愛された御魂が穢れることがなければ生きていられる。
だけど人間はそうじゃないんだろう?
眠らなければ、食事を食べなければ、あっという間に衰弱してしまうのに。
一人で眠るには広すぎるベッドに、彼女を横たえる。
真っ白なシーツに長い黒髪が散らばって、はっとするくらいにそれはうつくしい。
「…ばかだな、」
呟いて、その細い肩に毛布をかけた。
ゆる、と微笑んで君は深く息をつく。
「…いったいどんな夢を見ているんだろうね?」
そこに僕は居るのかな。
柄にもないことを考えた自分がひどく可笑しい。
ぼくこそ夢でも見ているようだ、そう思いながら少しだけわらう。
「…おやすみ、眠り姫」
一瞬躊躇ってから、その髪に指を伸ばした。
見た目どおりにさらさらとつめたいそれを二三度梳いて、僕はそっとベッドから離れる。
背を向けた僕の名を、夢の中に漂う彼女が呼んだのは現だと思ってもいいのだろうか?