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書きたいものを、書きたいときに、書きたいだけ。お立ち寄りの際は御足下にご注意くださいませ。 はじめましての方は『はじめに』をご一読ください。
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    階段の神様。  11

    ※階段の神様。



    デジカメに、写真が増えていく。
    赤くて小さな、姉からのもらいものだ。

    冬晴れの空や寒そうな木々、放課後の校舎なんかを思いついたように撮っていたら、いつの間にかけっこうな枚数になっていた。
    そういえば季節もゆっくりと、だけど確実に進んでいて、十二月になってからそれなりに時間が経つんだなぁとぼんやり思った。
    徐々に徐々に、その季節の歩みを伝えるように撮られた写真を見るともなしに送っていく。

    「何してるの?」
    「セツ」

    ふいに影が落ちたと思ったら、上からセツが覗き込んでいた。
    彼女にデジカメを手渡すと、興味深そうにデジカメを操る。

    「これみんな絆が撮ったの?」
    「そうだよ」
    「すごいねぇ、センス良いな」
    「大したもの撮ってないけどなぁ…でも、ありがと」
    「ふふ、うん。あ、私これ好き」

    言って彼女が指したのは、誰もいない廊下を撮ったやつ。
    夕方になり始めの、うすい黄色っぽい光が廊下全体を満たしてる、妙に明るい写真だった。

    「この、ふんわり明るい感じが好き。なんか優しい色してるよね」
    「三時過ぎるとさ、なんとなく陽射しが昼間とは違ってくるんだよな」
    「あ、分かる夕焼け交じりになってくるんだよね、光が」
    「そうそう。それってこの時期特有だよね」

    同じものについて話していても、浮かべているものが違うというのはよく聞く話だ。
    「赤い薔薇」と聞いたとき、一本の薔薇を思い浮かべるかそれとも百本の花束を浮かべるか、それは本人にしか分からないこと。
    そんな本を、昔読んだことがある。

    「夕方とも昼間ともつかないような時間は、なんか不思議な居心地がするよねぇ」

    そう言って笑う彼女と、俺も笑う。
    ねぇ、神様。
    居るかも分からないけどさ、ねぇ誇らせてよ。

    (世界で一番たいせつな)この女の子と、俺。
    ふたりで今浮かべている世界は、きっと同じものだろうって。
    胸を張らせてよ、それが幸せなんだってさ。

    「ねぇ、セツ」
    「うん?」

    振り向いた顔に、すばやくシャッターを切った。
    驚いた顔で彼女は固まって、それからくしゃりと笑う。

    「もー、やめてよっせめて可愛い顔で写らせてよ!」
    「えー…いつも可愛いと思うんだけどなぁ」
    「あとその天然タラシ発言やめようよ」
    「そんなことないって」

    ぴぴ、と音を立てて表示された画面には、無防備に笑う君のかお。

    (世界は優しく色づいた)



    階段の神様。でした。
    幽霊は果たしてちゃんと写真に写るのかしら、と余計なことを考えてみる。
    心霊写真とかあるから大丈夫かな…アメリカの幽霊は堂々と写真に写りこむって言うし←

    やさしい匂いのするような、そんな光景。
    本当だったらもう届かないけれど、触れていたかったんだよって。
    そういうお話でした。

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    階段の神様。  10

    ※階段の神様。



    そうして始まったのは、信じがたいくらいに穏やかな日常。

    「セツ、」
    「おはよ、今日も寒いね」

    学校のある日は、昼休みと放課後に俺は屋上に通った。
    屋上というか、そこに出る前の階段というのが正しいか。
    真冬に外で過ごすのはあまりに寒くて、屋内の方が少しはマシだろうと彼女から提案されたのだ。

    人目に付く場所には居られない。
    彼女はあのあとそう言った。
    自分はイレギュラーだから、とも。

    彼女と臆面なく一緒にいられるのは、この階段だけだった。

    「厚着してるから俺はそこまで寒くはないけど…セツのが見てて寒そう」
    「私は別に寒さは感じないんだけどね…でもごめん、確かに視覚的に寒いね」

    彼女はそう言って笑う。
    相変わらず(当然かもしれないけど)彼女はセーラー服だけで、開いた首元はいかにも寒そうだ。

    しろい階段にふたりで座って、他愛もないことを話す。
    恋人と友人の間をゆるく行き来してるような。
    子どもっぽいような恋愛だと、思わないわけではないけれど。
    それでも、一緒に過ごせるだけで今のところ満足してると胸を張れる。

    ゆっくりと、ゆるやかに。
    世界を柔らかく染めていくような、そんな恋愛があったって良いんじゃないか。
    先のことなんか憂えたってどうしようもないのだ、少なくとも俺たちの間では。
    だったらどうか、一瞬を切り取って笑えるように。

    「今日の英語のテスト悲惨だった…」
    「あれ、絆って英語苦手なんだっけ?」

    唯一かわったのは、お互いの呼び名くらい。
    彼女は俺を「絆」と呼んで、俺は彼女を「セツ」と呼ぶ。
    別に何かを取り決めたわけではなくて、いつのまにかそう変わっていた。
    そんな穏やかな変化に、たがいに微笑む。

    「ねぇ、絆」
    「うん?」

    呼ばれて振り返ると、セツはわらう。

    「すきだよ、」

    少しだけ切なそうに、それでも幸福そうに告げられるその言葉。
    それだけで、俺を幸せにするには十分すぎるくらいだ。

    「…俺も、すきだよ」

    告げると、君はもっと笑う。
    ほら、もうひとつ。

    小さな幸福の瞬間だけを集めていられたら、きっとこの先世界を恨まずにいられる、よ。

    (優しげな変化と物狂い)



    淡々と進む階段世界のおはなし。
    そしてやっと二ケタになりました。

    目指す雰囲気はこう…中学生みたいな淡い感じの恋?
    絆のキャラ的に激しい恋愛には向かなそうなので、必然的にこんな形になりました。

    最後の「物狂い」は、いかに本人が納得していようとも彼らは世界から見たらただの狂人。
    そもそも、そこに幸福を見出だしてることこそが狂った証なのかもしれないなぁ、と思いながらつけてみた。

    でもきっと、本人がそれで良いと言えば、きっと良いんです。
    周りが何と言おうと、幸福の価値なんて本人にしか決められないのですから。

    階段の神様。  09

    ※階段の神様。



    それは、あまりに陳腐でありふれた、愛の告白。
    彼女は心の底から驚いた顔で、俺を見つめる。

    色彩に恵まれなかった彼女の後ろ、冬晴れの空だけが鮮やかに蒼い。
    それだけで許せるような気に、ほんの少しだけ浸る。
    一度眼を閉じて、ひらいて。
    彼女に一歩だけ、近づく。

    「…絆くん、ちゃんと起きてる?」
    「ひどいこと言いますね」

    一世一代の告白を。
    苦笑するけれど、まだ理解が出来ないような顔で見返された。

    そりゃあ、まぁ。
    常識的に考えたら、おかしいのは俺だろうけど。
    でも、だれ一人幸せに出来ない常識なんて、そんなの捨ててしまえばいいと思うんだ。

    「…私は、ヒトじゃないんだよ?」
    「知ってます」
    「いつ居なくなるか分からない。あるいはずっとずっと、絆くんを縛るかもしれない」
    「それも、承知の上です」

    そんな覚悟は、とうに決めた。
    何時か被る痛みより、曖昧なまま消える境界線の方が俺はいやだよ。
    まっすぐ見返した先、泣き出しそうに君はわらう。

    「意味、わかんない。だって私はもう死んでるんだよ?」
    「それは理由になりませんよ」
    「……同情ならいらないから」
    「同情で告白なんてできません」

    淡々と、向かい合ったまま声を投げる。
    目は、逸らさない。
    挑むように互いを見つめたままだ。
    躊躇うように数度唇を開きかけて、彼女は問う。

    「………なんで、あたしなの」
    「そんなの、セツキ先輩が好きだからに決まってるじゃないですか」

    間髪入れずに叫んだ。
    嗚呼、そうだよ。
    俺はあなたが、雪姫先輩がすきなんですよ。
    誰が何と言おうと、例えそれが間違いでも。

    俺は、あなたが。

    「…ばか、じゃないの」

    ふわりと、ほどけるように彼女は笑う。

    「そうですね」
    「普通、考えないよ。幽霊と恋愛しようだなんて」
    「好きになった人がたまたま幽霊だっただけですよ」

    きっといつか俺は泣くだろう。
    それでもこの選択だけは、後悔する気が起きないよ。
    あなたを好きになったこと、それだけは嘘にしたくない。

    「……そろそろ諦める気になりました?」
    「…意外にしつこいんだね絆くん」
    「ご存じありませんでした?」

    姉を真似たにこやかな笑顔。
    ようやく根負けしたように、彼女は俺に近づいた。

    一歩、また一歩。
    じりじりと距離を詰めたと思ったら、次の瞬間いきなり飛びつかれた。

    「うぁっ!?」
    「……っ」

    不意打ちに驚いてよろめいた。
    すぐに体勢を立て直すと、自分とそう変わらない位置にある頭が肩口に押しつけられた。

    冷えてはいるけれど、それは確かに体温を持っていて。
    クラスの女の子たちと、なんら変わらないはずなのに。
    ――嗚呼、きみ、は。

    「……ねぇ、絆くん?」
    「はい」

    わたしも、すきだよ。

    涙交じりに返された答え。
    俺は笑おうとして、それよりも先に視界がぶれた。

    「……はい、」

    間違いだらけの俺たちの恋は、こうして密やかに始まった。


    (あいしてる、の魔法を)



    階段の神様。でした。
    何時か絶対泣くって分かってるのに、絆は無謀だなぁ、と思ったり思わなかったり。
    でも彼が自分で選んだ答えなので、きっと後悔はしないのでしょう。

    いまさらですがセツキにはちゃんと足はあります。
    透けてたりとかもしません。
    見た目は幽霊っぽくないです、大丈夫です(何が)

    そのうちちょっとした違いみたいのが書けたらなぁと思ってます、はい。

    階段の神様。  08

    ※階段の神様。



    「――おれ、には」

    つぶやいた。
    にぎりしめた拳が震える。

    「俺には、わからない、けど」

    どうしたら良いのかなんて、分からない。
    だって信じ込んでいた世界の理が、根底からひっくり返ってしまったんだ。
    無力に非力に立ち尽くして、それでも呑み込むしかない現実だけは妙にくっきりと浮かび上がって。

    そもそも間違いというのなら最初の出逢いからだろう、だってこれは本来ならばあり得ない邂逅だったのだから。

    触れた手も笑う顔もやわらかな声も。
    何もかもが間違いで、虚構で、嘘で。
    切り捨てるならば、それ以外の何物でもないんだ。

    「でも、だけど」

    嗚呼、ねぇだけど。
    失いたくないのは、本当なんだ。
    あなたがこんなにも悲しそうな顔をするのだって、見たくないんだ。
    どうにかして笑ってほしくて、そのために何かしたくて。
    そう思うことは、嘘にはなりえないと思うんだ。

    「――だから、」

    顔を上げる。
    もう良いよ、迷わないよ。
    ぜんぶ抱えて、さいごまで走るよ。

    「きずな、くん?」

    ぼんやりと、よく分かっていないような顔で首をかしげた彼女に、俺は微笑む。
    上手に笑えてるかは、分からないけど。
    それでもできるだけ穏やかに、わらう。

    「良いよ、良いんですよ、もう」
    「良いって…なに、が?」
    「ぜんぶ」

    そうだよ、もう良いんだ。
    立ってる場所が違っても、生きてる場所が違っても。

    ――俺は、あなたが、好きです。

    (決意には程遠く、けれどもそれは熱を帯び)



    ほぼ勢いだけで書いてみた階段の神様。第八話。
    英断とは呼べないような解答、それでも必死で彼に選んでもらいました。



    階段の神様。  ♯1

    ※階段の神様。閑話。




    「かれ」が居なくなった教室で、彼女はゆっくりと首をかしげた。
    広い教室にひとりきり、遠くなる足音に耳を澄ませながら。
    やがてそれが聞こえなくなって、それからゆっくりと目を伏せる。

    「かのじょ」によく似たかんばせで。
    祈るようにつぶやいた言葉は、誰も知らない。



    誰にも見つけられることなく泣く子どもを、かのじょはいとも容易く見つけた。
    何でもないことのように、手を伸ばして微笑んで。
    誰も触れることのなかったその手と、繋いだ。

    時間を共有することのなかった姉妹のように。
    不器用に、いびつに、けれども穏やかに緩やかに。
    重なり合ったふたつの影。


    かのじょの背を追うように、彼女は成長する。

    追いつけないことが幸せだった。
    先を歩く背中を見ていることが、幸福だった。
    凛とうつくしく、優しげな空気をはらむその背を見つめることが、彼女には嬉しかったのだ。

    嗚呼、なのに、それなのに。


    ある日かのじょの時間は止まり。
    彼女の時間は変わらず進む。

    どうしてだろう。
    あんなにはっきりと見えていた背中が、もう見えない。
    急に空恐ろしい気持ちになって振り向くと、いつの間に追い抜いてしまったのだろう。
    自分の後ろに、立ち尽くすかのじょが居た。

    微笑んだまま凍りつく。
    どうして、どうしてどうして。

    嗚呼、あたし、は。
    あの人、を――。



    神様がもしも居るのなら。
    彼女はそっと唇でつぶやく。

    ねぇ神様、あたしの父よ。
    どうか一度だけ、魔法をかけて。

    閉じた瞼で見つめた背中。
    変わらずうつくしく、そのことに少しだけ笑った。

    (やがて光をむすぶころ、)




    階段の神様。の閑話です。
    風姫と雪姫のお話。

    それにしても最近の放置っぷりに驚いた。
    がんばれ…もうちょっとお話が書きたい。
    しかしなかなか思うように書けない…うぬぬ。

    でも久々に楽しく書けました。
    つくづく自分はシリアス書きなんだとおもいます。

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    HN:
    祈月 凜。
    年齢:
    33
    性別:
    女性
    誕生日:
    1990/10/10
    職業:
    学生。
    趣味:
    物書き。
    自己紹介:
    動物に例えたらアルマジロ。
    答えは自分の中にしかないと思い込んでる夢見がちリアリストです。
    前向きにネガティブで基本的に自虐趣味。

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