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書きたいものを、書きたいときに、書きたいだけ。お立ち寄りの際は御足下にご注意くださいませ。 はじめましての方は『はじめに』をご一読ください。
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    03 わざとらしい愛の告白。

    ※カレとカノジョ。
    仮想世界につながる話。



    正直、そこまで想われているなんて知らなかったわ。


    二月も半ばに近付いたある日のこと。
    珍しく先輩とふたりして倉庫整理をしていたときに、わたしはふと思い出した。

    忘れてたわけじゃないんだけど、近頃なかなかふたりっきりになる機会がかなくて、聞き出せなかったのだ。
    こんな薄暗くて殺風景な資料の山の中じゃロマンも何もあったものではないけれど、まぁ仕方ないかと苦笑する。

    「あ、ねぇ先輩」
    「んー?」

    埃っぽいキャビネットの間から顔をのぞかせた彼に、わたしは首をかしげて見せる。

    「先輩、『ディア オーロラ』の生チョコレートと、『アンジェリカ』のトリュフ。どちらがいいですか?」

    そう、もうすぐバレンタインなのだ。
    二月に入った途端に色めき立つバレンタイン商品。
    その中から彼の好みそうなものを選んで検討して、結果この二種類まで絞り込んだ。
    最終的にはどっちが良いか彼本人に聞いてみようと、この数日間考えていたのだ。

    「個人的に先輩は生チョコの方が好きかなー、とも思いましたが、トリュフもなかなかに捨て難くて。だからどっちか選んでもらおうと………って、先輩?」

    なんでこの人固まってるのかしら。
    わたしはようやく、彼が驚愕したような眼差しでわたしを見つめていることに気づく。

    「…どうしました?」
    「ねぇ、それ…本気?」

    いや、本気も何もガチですが。
    そう返すと、彼はそのままずるずると床に座り込んだ。

    「え、ちょ、先輩?」
    「えぇー…そこはさぁ空気読もうよー…」
    「はい?」

    意味が分からない。
    自分よりずいぶん低くなった頭を見つめていると、腕の隙間から彼が恨みがましそうに見上げてくる。
    …なんだなんだ、何なんだ一体。
    わたしが何をしたと…!!

    「…生チョコとトリュフだっけ?」
    「えぇ…」
    「それ、どっちもヤダ」

    え、と今度はわたしが固まった。
    どうしよう、バレンタインまであと一週間もない。
    ここから彼の気に入るチョコが選び出せるだろうかと焦るわたしに、彼はぷいっと顔をそむけて、拗ねたように言う。

    「俺は君が作ったチョコが食べたいの」
    「………先輩こそ、それ本気ですか」

    まさか、本気で言ってるのだろうか?
    わたしが作ったチョコが良い、なんて。
    ………弟が聞いたら、間違いなく彼をがっくんがっくん揺さぶって止めに掛かるに違いない、と思う。
    それくらい、わたしはお菓子作りの才能がない。

    「先輩…わたしの製菓レベル知ってますよね…?」
    「うん。台所でスライム錬成できるんだっけ?」
    「その通りでございます…」

    なら、なおさら何故。
    わたしがチョコレートなんて作ったら、きっととんでもない物体が仕上がるのに。
    この人はマゾなのかしら、えぇきっとそうに違いない。
    でなきゃこんなこと言いだすはずかないもの。

    「…今失礼なこと考えてたろ」
    「いいえ滅相もない」

    にっこりと笑って、それからわたしもしゃがみこんだ。
    目線を合わせて、説得するように問う。

    「わたしが作った食べられるかどうかも分からない物体Xと、間違いなく美味しい既製品のチョコレート。現実的に考えて、どちらが良いかは一目瞭然ですよね?」
    「やだ。やだったらやだ。俺は君のが良いの」
    「拗ねないで下さいよー…」
    「別に拗ねてないし」

    いや、膝抱えて口尖らせてそっぽ向いて、それで拗ねてないって言われても。
    もう完全に長期戦の体制に入ってるよこの人。
    困り果てて頬に手を当てると、珍しくまっすぐな目で見つめられた。

    「『ディア オーロラ』のチョコも『アンジェリカ』のチョコもお金さえ出せば買えるけど、君の作ったチョコはそうじゃないだろ」
    「…そう、ですけど」
    「だから、ねぇ。作ってよ、俺のために」

    …滅多に我儘なんて言わないこの人は、こういうときに切り札を持ってくる。
    そんな風に言われたらわたしに拒否権はなく、黙ったまま小さくうなずいた。
    途端に、にっこりと彼は笑顔を向ける。

    「やった。楽しみにしてる」
    「…胃薬用意しといたほうが良いですよ」
    「んー、むしろそれで腹壊すなら本望?」

    笑いながら彼は軽やかに立ち上がる。
    それを横目にわたしもゆっくりと立ち上がると、急に彼がこちらを向いた。

    「ねぇ、」
    「はい?」

    短い一歩で距離を詰められて、前髪をかきあげられた。
    むき出しの冷たい額に、あたたかな唇が押しあてられる。

    「…何ですか」
    「あいしてるよ、」

    心底嬉しそうな彼を見ながら、わたしはこの先待ちかまえてる試練を乗り越えるべく、必死で頭を回転させ始めたのだった。

    (何を錬成いたしましょう?)



    「甘い気持ちに~」につながる話。
    何故蒼さんが引っ張り出されることになったのか、というお話です。

    お菓子作りが上手な女の子に憧れます。
    なんていうか、すごい可愛い感じがするよね…!!
    わたしはガチでカノジョレベルなので(当然か)、いろいろと大変ですorz

    ちなみに『ディア オーロラ』とかはゴ●ィバとか、そういう系だと思ってください(笑)

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    スウィートスウィート・レクイエム。

    ※カレとカノジョ。
    記憶に絡めとられる。


    たまたま入った、コスメや雑貨なんかが置いてある小さなお店。
    見るともなしに眺めていると、不意に記憶がくるくると巻き戻る感覚に陥る。

    何が引き金になったのか、眉を寄せた瞬間に甘やかな桃の匂いが鼻先をかすめた。
    振り返ると、わたしの後ろで女の子がふたりはしゃいだようにかわるがわる香水を手にとっている。

    その中のひとつが、しゅっと音を立てて空気中に振りまかれた。
    途端、仄かに香る桃の匂い。

    「(…嗚呼、)」

    色あせたようなシュガーピンクの小瓶に入ったそれ。
    わたしが彼女たちくらいの年の頃――つい二年ほど前の話だけど――欲しくてたまらなかった香りだった。

    「(…まだ売ってたんだ)」

    期間限定の香水だったのだと思う。
    その時はぐずぐずと迷っているうちに売り切れてしまった。
    そういえば今も、あの時と同じ季節だとやっと気付いた。

    笑いさざめきながら別の一角に移っていった彼女らのあとを追うように、わたしはそのピンク色の小瓶を手に取った。
    リボンをかたどった小瓶も可愛くて、それも欲しい理由の一つだったっけ。
    いかにも女子高生が欲しがりそうなデザインだなぁ、と今更ながらに思う。

    そうやって、冷静に考えることが出来るわたしは、あの頃より確実にオトナになっていて。
    二年前のわたしが欲しかった香水にも、心が惹かれることもない。

    淋しいわけじゃないのに、心臓のあたりがすこしだけ痛む。

    「…何言ってるんだか」

    それに、わたしにはもうこの香りは似合わない。
    年齢自体はさほど変わっていないけど、あの頃は学生で今は社会人なのだ。
    まだまだへなちょこだけど、それでも仕事をする女にこの甘い香りはふさわしくない。

    だから――さよなら、だ。

    ことん、と小瓶を棚に戻した。
    指先に残る桃の香りに微笑んで、わたしはそこに背を向ける。

    少女だったわたしが、穏やかに目を伏せるのを視界の端でとらえた。

    (桃源郷には帰れないよ)


    香水が好きです。
    でもあんまりつけません(何故)
    瓶自体が可愛いから、なんか集めたくなるよねっていう。

    なんかイメージしてたのとはちょっとズレてしまった…まぁ良いか。

    星屑シュガー。

    ※カレとカノジョ。
    クリスマスのご予定は?



    「ねぇ、先輩。よかったらクリスマス一緒に…」
    「あぁ、ごめん俺当日は関東に居ないんだ」
    「(!?)」

    にっこりと笑顔で瞬殺されて、思わず凍りついた。

    「関東に居ないって…?」
    「その日は関西支部に行ってちょっと打ち合わせやら何やらを」
    「そう、ですか…」

    軍人にクリスマスは関係ない。
    通常業務はガッツリ入っているけれど、せめて夜だけでも恋人らしくふたりで過ごしたい。
    そんな淡い期待を抱いて可愛らしく小首をかしげてみたんだけれど、いっそ面白いくらいの瞬殺っぷりに思わず笑ってしまいそうになる。

    「ごめんねー」
    「いえ、別に。仕方ないことですし」

    申し訳なさそうに謝られて、ゆるりと首を振る。
    駄々をこねたって仕方ない。
    だって仕事なんだもの。
    わたしたちの仕事はそう、そうそう簡単に投げやっていいようなものじゃないから。

    「風邪引かないでくださいね?」
    「わかってるよ」

    うなずいたのを確認して、じゃあわたしも仕事に戻ります、と言って背を向けた。

    …まぁ、うん。
    別にわたしクリスチャンじゃないし、クリスマスだってそんなに好きじゃないし。
    どうせ仕事だし、年末だから残業かもしれないし。
    だから、別に。
    ――さみしくなんて。

    一瞬ぶれるようにしてかすむ視界。
    頭を振って追い払う。
    何を考えているんだろう、一緒にクリスマスを過ごしてほしかったなんて。
    分かっているでしょう、我儘なんて言っちゃダメ。

    颯爽と背筋を伸ばして踵を鳴らして。
    そうよわたしはもう大人なの、クリスマスなんかにはしゃぐような年じゃない。

    「…よし、こうなったらガッツリ残業して稼いでやる」

    黒いタイツを履いた脚先、包むのは黒のパンプス。
    こつんこつんと鳴る音で、自分はもう大人なんだと言い聞かす。
    時折忘れてしまいそうになるのよ、いつまでも追いつけない背中を見ているせいで。
    わたしはいつまで経っても子供のままのようで、それがたまらなくもどかしい。

    「(…この日のためにすっごい可愛いベビードール買ったなんて絶対言ってやんねぇ)」

    悔し紛れに呟いて、つまさき立ちでしか見られない世界に舌を出した。

    (強がり意地張り黒ウサギ)



    カレとカノジョ。
    続くような続かないような…最近ぜんぜんお話が書けなくて焦りのあまりこんなんができてしまったという。

    イベントにこだわりたがる女の子って、なんか可愛い気がします。
    こう、大事にしてる感じがするよね、何かを。

    実際わたしはハロウィンはものすごい頑張るけど、クリスマスはそんなにときめかないのです。
    何故だろう…あ、でもケーキ食べられるのはちょっと嬉しい。
    上にのってる砂糖菓子のサンタとかトナカイが気になって仕方ない。

    さて、皆さんはどんなクリスマスを過ごされますか?

    ラプンツェルの櫛。

    ※カレとカノジョ。
    仮想世界の「蜜色キッス」の後日談。



    男子禁制の女子寮だけど、ちょっとした抜け道があるのはもう公然の秘密だ。
    越えるのは骨が折れる、高いフェンス。
    だけどそれなりの年月を経て劣化したそれは、ペンチでちょっと力を加えればすぐに切れる代物だ。

    数年前も変わらずに、恋しい彼女のもとへ馳せ参じた男がいたのだろう。
    そいつはジュリエットに会いに行くロミオさながらの情熱で、抜け道を作ったのだ。
    そうして今の俺たちも、その恩恵にあずかっている訳だけど。



    適当な小石をふたつ見繕って、窓に向ってそっと放る。
    こつんこつん、とぶつかって音を立てたなら、それが合図だ。

    「…あれ、」

    普段ならば窓を開けて、ラプンツェルみたいにあの子が笑うはずなんだけど。
    今日は部屋の主は顔を見せない。
    明かりが付いているから、外出しているわけではなさそうだけど、と首を傾げる。

    「…まぁ良いか」

    彼女の部屋は二階。
    もうすっかり登り慣れた木に手をかけて、身体を持ち上げる。
    特に苦労もすることなく、小さなベランダに降り立った。

    「入るよー」

    勝手知ったる人の家、とばかりに窓から侵入。
    小さなベッドルームは無人で、となると彼女がいるのはシャワールームしかない。
    おもちゃみたいなバスタブとトイレがついたそこに、時折あの子は籠城(という名の長風呂)を決め込むから。

    とりあえず来たことを知らせようと、形式的にノックをして扉を開けようとして――そこで、いきなり悲鳴が上がった。

    「ぎゃーっ!?み、見ないでください――っ!!」
    「は!?」

    耳で声を聞いて、頭で理解して。
    けれど理解したことを行動に移すまでには、少しばかりタイムラグがある。
    開けかけたドアを咄嗟に閉めることは出来なくて、ほとんど俺は浴室に顔をのぞかせる格好になる。

    肌が湯気に触れた、その瞬間。

    「こっち見ないでくださいってばぁ!!」
    「うわっ!?」

    ざば、と盛大に。
    かけられたのは、何とも快適な温度のお湯。
    …ただ、こんな形で浴びるのでなければ、もっと良かったんだけど。

    「「………」」
    「えーと…」

    しばしの沈黙。
    っていうか、濡れた前髪が張り付いて目が開けられない。
    タオルを探っていると、すぐそばでばしゃばしゃと水音がした。

    「ちょ、ちょっと待ってくださいね、今それなりに見られる格好にしますから」
    「あぁ…りょーかい」

    イマサラ見られる格好も何も、とは思うけれど。
    妙なこだわりを持つ彼女のことなので、おとなしく目を閉じたまま待つ。
    不意に手の上に、もこもことした手触りがのっかった。

    「えーと…とりあえず、これを」
    「あ、どうも」

    渡されたタオルで顔と身体を拭く。
    ようやく開いた目で、彼女を捉えた。

    ざっと身体を拭いた上から、パイル地のパーカーワンピースを被っただけの彼女がバツの悪そうな顔で俺を見上げている。
    しかし彼女が未だに膝下を浸しているお湯は乳白色で、この中で膝を抱えていたら扉を開けられたところで別に困った事態にはならないだろうにと内心で思う。

    「えぇと…すみませんでしたホント…」
    「や…俺も恋人とはいえ女子の入浴を覗くなんて無粋な真似を…」
    「あ、いえ、それは別にどうでもいいんですが…」

    どうでも良いって言ったよこのコ。
    女の子としてどうなのそれ…っていうか恋人として心配だ。

    「なに、他に理由があるの?」
    「えぇ、まぁ…っていうか先輩、とりあえずその濡れたTシャツどうにかしましょう」
    「…いえっさー」

    とりあえず彼女の寝巻き(ダボダボのTシャツ)を借りて、さっきと同じくベッドに腰かけた。

    「…で?」

    一体全体どういう理由で俺は水浸しになったのか。
    にっこり笑って首を傾げると、彼女は一瞬身を引きかける(失礼な)。
    それでも早々に観念したらしく、降参のポーズで息を吐く。

    「…ちょっと待っててくださいね」

    そう言い置いて、バスルームに戻る。
    こちらを向いた彼女が手に持っていたのは、ピンク色の…何だろうあれ。
    泥みたいな…でもそれにしてはピンクって…。

    「パックです、顔にべーって塗る」
    「あぁ、なるほど…」

    そういうことかと理解して、しげしげ眺める。
    ふたを開けると、ふわんと良い匂いが漂った。

    「…これ塗ってる最中の顔って、ジェイソンみたいなんですよ…本当に」
    「あぁ…それを俺に見られたくなかった、と」
    「御名答」

    だって、と小さな声でさらに言う。

    「…来週、久し振りのデートだし。……どうせなら、とびきり可愛くしたいじゃないですか」

    淡々とした、いつもと変わらない口調。
    可愛げのないふりをした、可愛い君。

    「…なんて言うか、本当に君は可愛いね」
    「……はい?」

    まったく意味が分からない。
    怪訝そうな顔に君にはとりあえず後で説明をするとして。

    柔らかなその頬に、そっとひとつキスをした。

    (ご褒美をあげよう)




    蜜色キッスのすぐ後にかけていたのに、アップするの忘れてた…すっかり上げた気でいました。
    久々のカレとカノジョ。
    相変わらずのテンションです。

    今回はどうしてもお湯ぶっかけられるカレが書きたかった(え)
    まぁパックしてる顔は見られたくないですよね…ジェイソンだし。

    女の子はいろいろと大変なんですよね、というお話でした(笑)

    コットンキャンディ・ガール。

    ※カレとカノジョ。
    ひよこが大漁です。



    「先輩、あれやってきても良いですか?」
    「ん?」

    デート中、袖を引かれて振り向いた。
    彼女が指差したのは、ゲームセンターの入口に置いてあるUFOキャッチャー。
    というか、その簡易版?
    中にはなにやら黄色い物体がてんこ盛りになっている。

    「何?これ」
    「ひよこですよー」

    よくよく見ると、なるほどそれは確かにひよこ。
    まんまるい身体に、ちょこちょこっと嘴やら目やらが付いている。
    ころころとしたそれは、確かになんとなく愛嬌がある。

    「好きなんですよー、こういうの」
    「へぇー…そう言えば君、ふく助(※軍部のマスコットキャラクター。ピ●ポくんてきな存在)も可愛いとか言ってたね…」

    ふく助は、わが軍に親しみを持ってもらうことを目的として作られたマスコット。
    軍服を着たふくろうの人形なんだけど、まぁぶっちゃけ可愛くないというか…不気味というか…。
    それでも彼女はあっさりと可愛い、とのたまうのだ。

    「えー、ふく助はけっこう愛嬌があって可愛いですよ?」
    「そう…」

    言いながら、彼女は小銭を押し込んだ。
    うぃんうぃん、と音を立てて動くアームを操作して、こんもりとひよこが積み上げられたあたりにさしこんだ。

    「お、」

    アームが動いて、ひよこを掘り返す。
    ころころころ、と数個ひよこが下に落ちてきた。

    「やった、取れましたよ」

    嬉しそうにそう言って、しゃがみ込む。
    俺はそのまま上の部分を眺めていたのだが、そとでふと気付く。

    ひよこの落下が――止まらない。

    「あ、あれ?」

    彼女も気付いたらしい。
    取り出し口に腕を突っ込んだまま、困惑したような声をあげる。

    「え?え?嘘、ひよこが止まらな…」

    ころころころころころころころ。
    上の方のひよこが転がり落ちる際に、下のひよこを巻き込むという連鎖。
    うーん…彼女の狙いがよっぽど良かったのか…。
    下の取り出し口に向かって転がり続けるひよこは、なんかちょっとシュールだ。

    「先輩どうしようぴよが止まりません!」
    「止まらないねぇ」
    「えぇええどうしよう…!?」
    「あ、落ち着いた」

    …やっと止まった。
    最後に名残のように、ころ、と一匹転がり落ちて。
    そこで漸く、ものすごい勢いのひよこ落下は治まった。

    「はい、袋」
    「どうも…」

    さすがにそのままカバンに入れるのは大変なので、店の中に掛けてある袋を持ってきてやる。
    口を広げると、取り出し口からこんもりとひよこを掬って放り込む。
    その作業を数回繰り返して、とりあえず怒涛のひよこ攻撃は終わった。

    「…すごい、たくさん取れたね…」
    「えぇ…」

    一番小振りな袋だったけれど、その中にはこれでもかとひよこが押し込まれていて。
    …うん、やっぱりシュール。

    「それ、どうするの?」

    何匹いるかも数えたくないひよこ軍団。
    細いボールチェーンは付いているけれど、カバンやケータイにつけるにもちょっと数が多すぎるだろう。
    困った顔をするだろうな、と思っていたけれど、予想に反して彼女はにっこりと笑った。

    「配り歩きます」
    「あー…」

    言われて納得する。
    貰ってくれそうな連中は、確かにいっぱいいる。

    そのうち全員のケータイに、大量のひよこがぶら下がるんだろうなぁと苦笑する。
    女性陣はまだしも、イイ歳した大人のケータイにひよこ…うーん、まぁそれも悪くはないけど。

    「…ちょっと見ものだよねぇ」

    見下ろした袋の中。
    大量にひよこたちが、からかうようにがさりと音を立てた。

    (ぴよぴよぴよぴよ)



    たまーに売ってるんですよね、このまんまるいちっちゃいひよこのマスコット。
    ぴよりだま?ぴよだまり?とにかくそんな感じの…。
    可愛くて好きです、シュールだけど。

    今回はカレとカノジョでしたが、このまま仮想世界に続くと思われ。
    みんなでひよこ付ければ良いよ。
     


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    HN:
    祈月 凜。
    年齢:
    33
    性別:
    女性
    誕生日:
    1990/10/10
    職業:
    学生。
    趣味:
    物書き。
    自己紹介:
    動物に例えたらアルマジロ。
    答えは自分の中にしかないと思い込んでる夢見がちリアリストです。
    前向きにネガティブで基本的に自虐趣味。

    HPは常に赤ラインかもしれない今日この頃。
    最近はいまいちAPにも自信がありません。
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