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書きたいものを、書きたいときに、書きたいだけ。お立ち寄りの際は御足下にご注意くださいませ。 はじめましての方は『はじめに』をご一読ください。
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    階段の神様  06

    ※階段の神様。



    「あれ、」
    「あら」

    次の日、少しだけ早めに入った教室で、この時間にいるのは珍しい人物と鉢合わせた。

    「おはよう、春日くん」
    「双葉さん」

    学校一の才女で、おまけにとんでもない美少女。
    我らがマドンナ、双葉嬢は、なんとなく扉の前で立ち止まった俺を見てにっこりと笑った。

    その笑顔に、あれ、ともう一度考える。
    脳裏に翻る記憶。
    よく似た笑顔が、かすめるように浮かぶ。

    「どうしたの?春日くん。おーい、なんでフリーズしてるの?」
    「え、あ、や。えーっと、おはよう」
    「うん、おはよ」

    非の打ちどころのない彼女だけど、朝にはめっぽう弱いらしい。
    遅刻ギリギリに飛び込んでくることも少なくはなく、同じクラスの有沢にしょっちゅう怒られている。
    それすらも微笑ましくうつるのは、彼女の美貌と仁徳か。

    自分の机に腰をおろしながら、俺は揶揄するようにわらう。

    「今日は早いんだね、双葉さん」
    「日直なのー。蓮に叩き起こされちゃった」
    「…らぶらぶだね?」
    「………兄と妹みたいだけどね」

    しばらくだまって何か考えていたけれど、観念したように双葉さんは笑った。
    それから背を向けて、開け放していた窓を閉めるその仕草に、さっきの記憶がぷかりと浮かぶ。

    疑問を辿るまでもない。
    似てるんだ、彼女は、あの子と。

    出来すぎた舞台に、さすがに苦笑をこぼしつつも。
    それでも確かめたくて、俺は顔を上げる。

    もしもこのとき、確かめずにいたら。
    少しだけ先の未来は変わっていたのかもしれないと、今でも時々考える。
    そんなことをしたって、変わらないことがあるんだって、ちゃんと分かっているはずなのに。

    「ねー、双葉さん」
    「んー?」
    「双葉さんて、従姉妹とかいる?」

    不躾な質問に、さすがに怪訝そうな顔が振り返る。

    「なんで?」
    「あ、や、別に詮索したいわけじゃなくて…似てる人がいたから」
    「似てる、ひと?」

    そこでますます双葉さんは眉を下げた。
    やばいやばい、これ以上困らせると有沢に殺される…!!
    あわてて謝ろうと口を開くけれど、それより先に彼女が言った。

    「…その人、桐弓の制服着てた?」

    桐弓は、俺たちの学校。
    つまりは、ここのことで。
    昨日会った彼女は、確かに目の前の双葉さんと同じセーラー服を着ていた。

    濃紺の襟に、一本ラインの入ったセーラー服。
    これといった特徴はないけれど、うちの学校は校章がやたら凝っているからすぐわかる。

    うなずくと、彼女は驚いたように、だけど妙な諦めも入り混じった顔で笑った。

    「双葉さん?」

    その顔に心配になる。
    妙なことを言ったから、困らせたのだ。
    そう思って謝ろうとするけれど、彼女はそれを制するように口を開く。

    「…そっか。その人は、お察しの通りあたしの従姉妹」
    「やっぱり。似てると思ったんだ、ふたりが」

    顔立ちとか、雰囲気とか。
    漂わせる感じがよく似てた。
    どこか安堵して頬を緩めるけれど、彼女はゆるゆると笑みを消す。
    それが妙に不穏で、緩めた頬が再び強張るのを感じた。

    そうして彼女は、とんでもなく信じがたいことを口にする。

    「…でも、雪姫ちゃんはもう居ないよ」

    ゆっくりとした、口調。
    穏やかで静かで、それゆえ彼女が嘘を言っているわけがないと確信させるような口調。
    けれど頭にうまく言葉の意味がしみこまず、俺は乾いた笑みを返す。

    「…え、」
    「もう、居ないの。雪姫ちゃんは――この世界には」

    もう、もう、どこにも。
    見渡す限り歩める限り。
    どこを探したって、君を見つけられない。

    そんなの――嘘だよ。

    「…そんな、」

    つぶやいた声は弱く細く、つながれた縁が軋む音を聞いた。




    11月の更新が恐ろしく少なすぎてびっくりしました。
    慌てて書いてみた…あわわわわ。

    絆くんと風姫たちは同じ学校でした、というお話。
    あと、ちょっとシリアス(ちょっと?)

    中途半端なところでぶった切ってしまったので、すぐに更新できるように頑張ります…!

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    ラプンツェルの櫛。

    ※カレとカノジョ。
    仮想世界の「蜜色キッス」の後日談。



    男子禁制の女子寮だけど、ちょっとした抜け道があるのはもう公然の秘密だ。
    越えるのは骨が折れる、高いフェンス。
    だけどそれなりの年月を経て劣化したそれは、ペンチでちょっと力を加えればすぐに切れる代物だ。

    数年前も変わらずに、恋しい彼女のもとへ馳せ参じた男がいたのだろう。
    そいつはジュリエットに会いに行くロミオさながらの情熱で、抜け道を作ったのだ。
    そうして今の俺たちも、その恩恵にあずかっている訳だけど。



    適当な小石をふたつ見繕って、窓に向ってそっと放る。
    こつんこつん、とぶつかって音を立てたなら、それが合図だ。

    「…あれ、」

    普段ならば窓を開けて、ラプンツェルみたいにあの子が笑うはずなんだけど。
    今日は部屋の主は顔を見せない。
    明かりが付いているから、外出しているわけではなさそうだけど、と首を傾げる。

    「…まぁ良いか」

    彼女の部屋は二階。
    もうすっかり登り慣れた木に手をかけて、身体を持ち上げる。
    特に苦労もすることなく、小さなベランダに降り立った。

    「入るよー」

    勝手知ったる人の家、とばかりに窓から侵入。
    小さなベッドルームは無人で、となると彼女がいるのはシャワールームしかない。
    おもちゃみたいなバスタブとトイレがついたそこに、時折あの子は籠城(という名の長風呂)を決め込むから。

    とりあえず来たことを知らせようと、形式的にノックをして扉を開けようとして――そこで、いきなり悲鳴が上がった。

    「ぎゃーっ!?み、見ないでください――っ!!」
    「は!?」

    耳で声を聞いて、頭で理解して。
    けれど理解したことを行動に移すまでには、少しばかりタイムラグがある。
    開けかけたドアを咄嗟に閉めることは出来なくて、ほとんど俺は浴室に顔をのぞかせる格好になる。

    肌が湯気に触れた、その瞬間。

    「こっち見ないでくださいってばぁ!!」
    「うわっ!?」

    ざば、と盛大に。
    かけられたのは、何とも快適な温度のお湯。
    …ただ、こんな形で浴びるのでなければ、もっと良かったんだけど。

    「「………」」
    「えーと…」

    しばしの沈黙。
    っていうか、濡れた前髪が張り付いて目が開けられない。
    タオルを探っていると、すぐそばでばしゃばしゃと水音がした。

    「ちょ、ちょっと待ってくださいね、今それなりに見られる格好にしますから」
    「あぁ…りょーかい」

    イマサラ見られる格好も何も、とは思うけれど。
    妙なこだわりを持つ彼女のことなので、おとなしく目を閉じたまま待つ。
    不意に手の上に、もこもことした手触りがのっかった。

    「えーと…とりあえず、これを」
    「あ、どうも」

    渡されたタオルで顔と身体を拭く。
    ようやく開いた目で、彼女を捉えた。

    ざっと身体を拭いた上から、パイル地のパーカーワンピースを被っただけの彼女がバツの悪そうな顔で俺を見上げている。
    しかし彼女が未だに膝下を浸しているお湯は乳白色で、この中で膝を抱えていたら扉を開けられたところで別に困った事態にはならないだろうにと内心で思う。

    「えぇと…すみませんでしたホント…」
    「や…俺も恋人とはいえ女子の入浴を覗くなんて無粋な真似を…」
    「あ、いえ、それは別にどうでもいいんですが…」

    どうでも良いって言ったよこのコ。
    女の子としてどうなのそれ…っていうか恋人として心配だ。

    「なに、他に理由があるの?」
    「えぇ、まぁ…っていうか先輩、とりあえずその濡れたTシャツどうにかしましょう」
    「…いえっさー」

    とりあえず彼女の寝巻き(ダボダボのTシャツ)を借りて、さっきと同じくベッドに腰かけた。

    「…で?」

    一体全体どういう理由で俺は水浸しになったのか。
    にっこり笑って首を傾げると、彼女は一瞬身を引きかける(失礼な)。
    それでも早々に観念したらしく、降参のポーズで息を吐く。

    「…ちょっと待っててくださいね」

    そう言い置いて、バスルームに戻る。
    こちらを向いた彼女が手に持っていたのは、ピンク色の…何だろうあれ。
    泥みたいな…でもそれにしてはピンクって…。

    「パックです、顔にべーって塗る」
    「あぁ、なるほど…」

    そういうことかと理解して、しげしげ眺める。
    ふたを開けると、ふわんと良い匂いが漂った。

    「…これ塗ってる最中の顔って、ジェイソンみたいなんですよ…本当に」
    「あぁ…それを俺に見られたくなかった、と」
    「御名答」

    だって、と小さな声でさらに言う。

    「…来週、久し振りのデートだし。……どうせなら、とびきり可愛くしたいじゃないですか」

    淡々とした、いつもと変わらない口調。
    可愛げのないふりをした、可愛い君。

    「…なんて言うか、本当に君は可愛いね」
    「……はい?」

    まったく意味が分からない。
    怪訝そうな顔に君にはとりあえず後で説明をするとして。

    柔らかなその頬に、そっとひとつキスをした。

    (ご褒美をあげよう)




    蜜色キッスのすぐ後にかけていたのに、アップするの忘れてた…すっかり上げた気でいました。
    久々のカレとカノジョ。
    相変わらずのテンションです。

    今回はどうしてもお湯ぶっかけられるカレが書きたかった(え)
    まぁパックしてる顔は見られたくないですよね…ジェイソンだし。

    女の子はいろいろと大変なんですよね、というお話でした(笑)

    蜜色キッス。


    ※仮想世界。
    女の子達のお買いもの。


    だんだんと夜が長くなり、空気も冷たさを増していき。
    気の早い店先には、赤と緑のデコレーションが目立つようになった。
    ぽつりぽつりと灯りはじめたイルミネーションに、ふわりと心が浮足立つ。

    その中でもとりわけ鮮やかで、甘い香りを漂わす店先で氷雨が足を止めた。

    「ね、ちょっとだけ寄っても良いですか?」
    「あら、ラッシュ」

    色とりどりの石鹸が並ぶ、小さなお店に桃花が微笑んだ。

    「すごーい、可愛い」
    「えー、あたしも見たいっ」

    楚夜と風姫も目を輝かせて、軽やかに足を踏み入れた。
    ふんわりと、鼻をくすぐるのは独特の甘い香り。
    たちまち女の子スイッチが入って、風姫がはしゃいだ声を上げる。

    「うわー、うわー…!すっごい可愛い…!!」
    「ね、可愛いよね」

    控え目に笑う楚夜に何度も頷き返し。
    可愛らしい石鹸を手に取って眺めた。

    「あ、ハンドクリームもあるのね」

    珍しい固形のハンドクリーム(ジンジャーマン型やハート型、イチゴ型など様々)を手に取って、桃花が呟く。
    お花屋さん、と言えば可愛らしく優雅なイメージが浮かぶけれど、実際は力仕事で水仕事。
    年中無休で冷たい水にさらされる彼女の手は、似合わないあかぎれや、切り傷でいっぱいだ。

    「あぁ、乾燥しますもんね…これからは特に」
    「そうなのよねー。ひとつ買っていこうかしら」

    そう言って桃花が手にしたのは、『とろけてハニー』というはちみつの香りのマッサージバー。
    神様の食べ物と謳われた金色のそれは、なるほど彼女によく似合う。

    冷たくなった指先を魔法のように操って、それでも辛いとも言わない彼女の強さには、何度触れても目をみはる思いがする。
    こっそりと、おまじないでも唱えるように目を閉じて、氷雨は自分も何か見繕おうと棚に目を向けた。

    「んー…どうしようかなぁ」

    オフィスの乾燥や睡眠不足、ストレスにあてられた肌は明らかに疲れ気味。
    本格的な冬を迎える前になんとかケアをしなければ、恐ろしいことになりそうだ。
    フルーツをたっぷり使ったカラフルなフェイスパックや、良い匂いの保湿クリームを見比べる。

    「氷雨さん、これは?『クリスマスのご褒美』だって」
    「ふふ、可愛いピンク色」

    楚夜が持ってきてくれたのは、クリスマス限定発売と書かれたピンク色のフェイスパック。
    濃く香る花の匂いに、思わずうっとりと目を細めた。

    「乾燥にも良いんだって」
    「じゃあ、これにしようかな」

    氷雨の無邪気な笑顔に、楚夜も嬉しそうな顔をした。

    氷雨はサンタクロースなんて信じない現実主義。
    軍人である彼女には、クリスマスだって関係ないけれど。
    たまにはその名前のとおり、たっぷりのご褒美をあげたって罰は当たらないだろうから。

    「楚夜ちゃんは何か買わないの?」

    ひょ、と風姫が横から顔を出した。
    彼女の桜色のくちびるを見ながら、楚夜はリップクリームを買わなくちゃ、と呟く。

    「あ、乾いてる」

    風姫にちょんとつつかれた。
    ついつい横着して、リップクリームを塗り忘れることが多い楚夜のくちびるは、時折皮がむけてしまうくらいにカサカサだ。
    レジのすぐ傍にならんだ、小さなケース入りのリップクリームに近づいた。

    「名前も可愛いね」
    「ね」

    ラッシュの特徴の一つは、石鹸に付けられた可愛い名前。
    読むだけで楽しくなるようなセンスには脱帽だ、そんなことを思いながらテスターで香りを確かめていく。

    「…これにしようかな」

    無香料のリップについ手が伸びたけど。
    キラキラとした雰囲気に酔ったせいか、いつもだったら選ばないものをチョイスした。

    「『おしゃべりアップル?』」
    「…うん、」

    アップルパイみたいな良い匂いにも惹かれたけれど、いちばん彼女の心を捉えたのはその名前。
    お喋りが苦手な自分でも、これをつけたら少しは軽やかにくちびるを動かせるだろうかと考えた。

    「…似合わないかな」

    そんな子供じみたことを考えた自分が照れくさくなって、無香料のものに取り変えようかと手を伸ばす。
    けれど風姫はふるふると首をふって、華やかに笑った。

    「そんな事ないよ、すごく似合う」
    「…そう、かなぁ」
    「だって楚夜ちゃん、白雪姫みたいだもの」

    風姫はにっこりと笑った。
    しろい頬に、くろい髪、あかいくちびる。
    ほら、君は白雪姫みたい。
    林檎の香りを纏ったら、きっと誰より可愛いよ。

    「…あり、がと」
    「うん?どういたしましてー」

    真っ直ぐすぎる風姫の言葉に、楚夜の頬が赤く染まる。
    それこそ林檎のような色。
    ほら、やっぱり可愛いと風姫はにっこりして、いよいよ自分の買い物をしようとスカートを翻した。

    「でも風姫ちゃんお肌も髪も綺麗だし、特にトラブルってなさそうだけど…」

    彼女の真っ白な肌やさらさらのストレートヘアを見て、桃花が小首を傾げた。
    それに対して風姫は苦笑を返す。

    「ううん、隠れてるけど肘とか踵はがさがさなんだよ」
    「あらあら、確かにそれは乙女として由々しき問題ね」
    「だよねぇ。フットローション、どれがいいかなー」
    「ね、これは?」

    桃花が持ってきたのは、『桃色キック』という名前のついたフットローション。
    甘そうな桃色に反して、ペパーミントの香りがするから不思議だ。
    見た目は恐ろしくクールなドール、なのに中身は無邪気に子供っぽい風姫とは、ある意味バランスが取れそうな一品である。

    「ん、これにするっ」

    潔いくらいに即決して、風姫が頷いたところで。
    それぞれ芳香を放つ自分へのギフトを手に、レジに向かう。

    「久しぶりだわ、こんな風に自分へのご褒美を買うなんて」
    「たまには良いですよね、こういうのも」

    くすくす、と。
    男子禁制のひそやかな楽しみに、自然とこぼれるのは笑い声。
    花のように笑って、小鳥のように歌って。
    嗚呼君は、そう誰よりうつくしい。

    「…使うのがたのしみ」
    「なんだかドキドキしちゃうよね」

    包みを開けるのすら勿体ないくらい。
    だけど早く開けてみたくてうずうずする。
    プレゼントを目の前にした、幼い女の子のような気持ちだ。

    「すみません、お会計お願いしてもいいですか?」

    まだまだクリスマスまでには時間があるけれど。
    とっておきの甘い香りを纏って、とびきりの聖夜に向けて支度をしよう。

    サンタクロースはもう来ないけど。
    透明な気持ちを持つ君たちは、それより幸福なプレゼントを知っている。

    (こっちを向いて、マイレディ!)



    …登場人物を絞ったのにちっとも短くならなかった件について←
    もう良いよ…仮想世界はこういう宿命なんだよ…(諦めた)

    今日は帰りに友人とラッシュに寄ってきました。
    手持ちがなくて何も買えなかったけど、幸せだった…!!
    ショップのお姉さんがカタログをくれたので、それを見ながら書いてました。

    いろいろ名前を出しちゃったけど大丈夫だろうか…(今更)
    でもどれにしようか考えるのはすっごい楽しかった!

    ラッシュは名前がいちいち可愛すぎると思うんだ…あと説明文?みたいなのも。
    きゅんきゅんする!
    そんなわけで今回のタイトルはラッシュをイメージしてみました。

    今度ラッシュに行ったときは、今回四人がどれを買ったのか探してみてください(笑)

    真夜中にワルツを。

    ※仮想世界。
    ハロウィンパーティのはじまり、はじまり。

     


    「「とりっく おあ とりーとー!!」」
    「相変わらずお前らテンション高いなオイ!!」

    10月31日、ハロウィン。
    本日は有沢邸にて、いつものメンバーによるハロウィンパーティが開かれていた。
    ドレスコードはもちろん仮装をしてくること。
    それぞれがハロウィンにちなんだ格好で、お菓子を片手に集まってきた。

    「ほらほら青くん、お菓子をお寄越し!」
    「風姫、お前はカツアゲでもする気か?」
    「あおくーん、はいこれチョコレート!」
    「鶴見、お前はハロウィンの概念をまず理解しろ」

    テンション三割増しではしゃいでいるのはもちろん風姫と晃。
    風姫は黒のワンピースにとんがり帽子で魔女の仮装を。
    晃は全身にぐるぐると包帯を巻きつけて、ミイラ男に扮している。

    「えっと…とりあえず、落ち着かない?二人とも…」

    それから風姫に半ば引っ張られるようにして連れてこられたのは、カボチャのお面を斜めに被った楚夜だ。
    楚夜は騒々しい二人のテンションについていけないのか、目を白黒とさせている。

    「とりあえずお前ら落ち着け。上杉が困ってるぞ。ほら深呼吸、それから『待て』」
    「「わふ、」」

    もうだいぶツッコミが板についてきたのは鳥海家の次男坊、青。
    しかし彼はラフな私服で、とくに仮装はしていない。
    …ただ、ポケットからキラキラしたハートのついたステッキが、にょん、と顔を出している。

    「青も仮装すれば良かったのに」

    ひょい、と三人を覗き込むようにして現れたのは優だ。
    三角のくろい耳に、首には大きな鈴。
    ふよん、と長い尻尾を揺らす、彼は黒猫の格好をしている。
    ……イイ歳した大人が、こんなコスプレまがいの格好をして恥ずかしくはないのだろうか、と全員が同じことを考える。

    「できるかよ…!」

    優の言葉に、青がふるふると拳を震わせた。
    ところで今日の仮装は前回風姫の家にみんなで集まった時に、くじ引きで決めたものだったりする。
    それぞれがひとつずつ案を出し合って、くじを作ったのだ。
    そして残念なことに、青の仮装は――

    「妖精の格好なんて、誰が出来るか!」

    なんとも似合わない、可憐なフェアリーだったのだ。
    さすがに可哀想だし、野郎の妖精コスなんて見たくはないので、青は仮装を免除されたという次第だ。
    その名残のように、可愛らしいステッキだけが装備されている。

    「えー、でも髪の色的に、ありなんじゃないの」
    「やめてくれ優、お前は俺の妖精が見たいのか?」
    「ううん、別に?」

    しれっと答える優に若干の殺意を覚えつつ、青はぐるりと辺りを見回す。
    茶色い三角耳を視界の片隅に捕らえて、青は呟く。

    「…だいたい、妖精が似合うのって桃花さんくらいじゃねーの、うちのメンバーだと」
    「あはっ確かに」

    ふんわりとまぁるい雰囲気、少女めいた笑顔。
    可愛い妖精の格好は、彼女にこそ似合いだと思うのだが、残念ながら彼女は狼人間に扮しているのだから嘆かわしい。
    会話が耳に入ったのか、ぴょこんと耳を揺らして桃花は振り返ると、楽しそうに手を振ってきた。
    それに手を振り返しながら、改めて友人のお坊ちゃま加減に舌を巻く。


    有沢邸の、広々とした一室を借りたパーティ。
    テーブルの上にはカラフルな輸入菓子やら、美味しそうな料理が所狭しと並べられ。
    焼き上げられたばかりのカボチャのパイの香りに、ぐるるる、とお腹が鳴った。

    「蓮、これ食って良いの?」
    「うん、もちろん。熱いうちにお食べよ」

    ヴァンパイアに扮した蓮が、にっこりと笑って料理を勧める。
    …彼の手の中にあるグラスに注がれた、赤い液体はぶどうジュースだと信じたい。
    未成年のくせに妙にアルコールに強い彼のことだから、望み薄だとは思うけれど。

    じゃあ遠慮なく、とパイを小皿に取り分けてぱくついていると、ふ、と傍に影が落ちた。
    横目でそれを見上げると、神父の格好をした蒼が感慨深そうに遠くを眺めている。
    涼しげな顔立ちの彼には、黒の衣服はよく似合う。

    ただし蒼は扱う武器が表すとおり、頭の中は純和風。
    ぱちぱち、と男にしては長い睫毛を瞬かせ、眩しそうに目を細める。

    「おぉお…ハロウィンとは、なんとも目に痛い行事だな…」
    「……頼むから兄貴、微妙にずれたコメントを発するのはやめてくれ」

    オレンジに黒に、紫。
    場合によっては金色に彩られるハロウィンは、確かに目に痛いけれど。
    それでも改めて発言することではあるまいと、心の中で脱力した。


    「あ、にーさん何食ってるの?美味しそーっ」
    「カボチャのパイですか?良い匂いですね」

    そこに揃って現れたのは、藍と氷雨だ。
    白と黒、対照的な色を身にまとって、青の左右からそれぞれ顔をのぞかせる。

    「ひーちゃん、そっちの小皿とって」
    「あ、藍さんわたしにもくださいな」

    仲良さげに話す二人は、本来であれば仲良しではいけない仮装をしている。
    真っ白な上着に、同じ色のパンツ。
    背中には輝く純白の翼をはやしている藍と。
    真っ黒な上着に、同じ色のスカート。
    背中に、コウモリのような黒い羽をつけた氷雨。
    天使と悪魔はきゃいきゃいと、カボチャのパイを頬張っている。

    「…なんで悪魔も真っ青なくらいに性格悪いお前が天使やってるんだよ、藍」
    「え?だってくじ引きだしー。それに似合うだろ?おれ」

    兄のツッコミに、少しも悪びれた様子なく藍は笑った。
    助けを求めるように青は氷雨に目を向けるが、彼女は軽く肩をすくめるだけだ。
    彼女も彼女でいろいろ思うところはあった、らしい。

    「お似合いですし、良いんじゃありませんか」
    「似合う似合わないじゃなくて、コイツが天使なのが問題なんだよ…」
    「えー、フェアリーよりマシでしょ」
    「てっめ…!!」

    俄かに騒がしくなる空気。
    反撃の為に無理やり飲み込んだカボチャのパイは、やけに甘い気がして目を見張る。

    夜が主役のパーティの熱は、まだまだ冷めそうにもない。

    (夜を歌え)

     


    ギリギリ間に合った仮想世界のハロウィンパーティ。
    椎さんとこでハブられてた次男をメインに据えてみた。
    …というわけではなくて、彼は書き易かったので…(えー)

    可愛いハロウィン絵は椎さんとこで見られますよ!!(宣伝)

    階段の神様  05

    ※階段の神様。



    「そういえば、セツキ先輩はこの寒いのになんで屋上に?」

    ふ、と。
    思い出したように掠めた疑問。
    顔をあげると。少し困ったような顔に出逢って驚いた。

    「えっと~…」
    「なんですか急に…っくしゅ!!」

    言いたくないなら無理に言わなくても。
    そう言おうとした矢先、情けないくしゃみが飛び出した。
    …忘れてたけど、寒い。
    指先が、今にもデジカメを取り落としそうなくらいに冷えていることに気付く。

    「あぁあぁ…もー、そんな格好で屋上でるからー!」
    「いや…でも俺セーター着てるし、」
    「ほらほら、風邪ひく前にはやく戻りなさい」

    でも、と言いかけた言葉を飲み込む。
    確かにこのまま外に居たら、ほんとに風邪を引きそうだ。

    「…ねぇ、絆くん」
    「はい?」

    扉の前まで来たところで、肩を突かれた。

    「…また、来てくれる?」

    振り返らないまま聞いた声が、なんだか妙に淋しそうで。
    頭で考えるよりも先に、俺は答えを出していた。

    「また来ます、絶対」

    背中で、ふわりと微笑がほどける気配がする。

    「嬉しい。ありがとう」
    「今度はちゃんと、あったかい格好で来ますよ」
    「そうだね、それが良いよ」
    「先輩も、セーターくらい着た方がいいですよ?風邪ひきます」

    この時期にセーラー服だけという苦行みたいな格好の彼女。
    クラスメイト達はすでに上にカーディガンを着こんだり、マフラーに顔をうずめたりしているのに、その恰好はものすごく寒そうだ。
    けれど彼女はふふ、と笑う。

    「女の子は中にいろいろ仕込んでるのよ」
    「そういうもんですか?」
    「そういうものです。さ、早く戻らないと」

    ぐ、と背中を押されて、扉の向こうに押し出される。
    けれど、それは俺だけで。

    「先輩は?」
    「私は、もう少しだけ」
    「でも、」

    ゆるりと首を振って、彼女は笑う。
    このまま中に戻る気はないらしい。

    「…風邪ひかないでくださいね」

    諦めて、苦笑した。
    彼女が残ると言うならば、俺にどうこういう権利はないし。
    あっさりした引き際に彼女はすこし驚いたような顔をしたが、すぐにありがとう、と言って扉を細くする。
    妙に白い光の中、姿は影のようになり、声だけが鮮明に響く。

    「またね、絆くん」
    「…えぇ、また」

    短いやり取りの後、灰色の重たい扉がばたん、と閉まった。
    急に暗くなった視界に、翻る濃紺がだぶる。

    「…中学生かよ」

    肩をひとつすくめて、階段を駆け降りた。

    (影法師の恋)



    階段の神様。でした。
    最初の出会いにどんだけ時間かけるんだ…。落ち着けわたし。

    なんとなく屋上って憧れがあります。
    高校のときはよくお弁当食べたりとかしてました。
    でもなんていうか、屋上ってちょっと特別な感じがします。
    普段はそんなに出ないからかな。


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    HN:
    祈月 凜。
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    34
    性別:
    女性
    誕生日:
    1990/10/10
    職業:
    学生。
    趣味:
    物書き。
    自己紹介:
    動物に例えたらアルマジロ。
    答えは自分の中にしかないと思い込んでる夢見がちリアリストです。
    前向きにネガティブで基本的に自虐趣味。

    HPは常に赤ラインかもしれない今日この頃。
    最近はいまいちAPにも自信がありません。
    MPだけで生き延びることは可能ですか?

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