※階段の神様。
「あれ、」
「あら」
次の日、少しだけ早めに入った教室で、この時間にいるのは珍しい人物と鉢合わせた。
「おはよう、春日くん」
「双葉さん」
学校一の才女で、おまけにとんでもない美少女。
我らがマドンナ、双葉嬢は、なんとなく扉の前で立ち止まった俺を見てにっこりと笑った。
その笑顔に、あれ、ともう一度考える。
脳裏に翻る記憶。
よく似た笑顔が、かすめるように浮かぶ。
「どうしたの?春日くん。おーい、なんでフリーズしてるの?」
「え、あ、や。えーっと、おはよう」
「うん、おはよ」
非の打ちどころのない彼女だけど、朝にはめっぽう弱いらしい。
遅刻ギリギリに飛び込んでくることも少なくはなく、同じクラスの有沢にしょっちゅう怒られている。
それすらも微笑ましくうつるのは、彼女の美貌と仁徳か。
自分の机に腰をおろしながら、俺は揶揄するようにわらう。
「今日は早いんだね、双葉さん」
「日直なのー。蓮に叩き起こされちゃった」
「…らぶらぶだね?」
「………兄と妹みたいだけどね」
しばらくだまって何か考えていたけれど、観念したように双葉さんは笑った。
それから背を向けて、開け放していた窓を閉めるその仕草に、さっきの記憶がぷかりと浮かぶ。
疑問を辿るまでもない。
似てるんだ、彼女は、あの子と。
出来すぎた舞台に、さすがに苦笑をこぼしつつも。
それでも確かめたくて、俺は顔を上げる。
もしもこのとき、確かめずにいたら。
少しだけ先の未来は変わっていたのかもしれないと、今でも時々考える。
そんなことをしたって、変わらないことがあるんだって、ちゃんと分かっているはずなのに。
「ねー、双葉さん」
「んー?」
「双葉さんて、従姉妹とかいる?」
不躾な質問に、さすがに怪訝そうな顔が振り返る。
「なんで?」
「あ、や、別に詮索したいわけじゃなくて…似てる人がいたから」
「似てる、ひと?」
そこでますます双葉さんは眉を下げた。
やばいやばい、これ以上困らせると有沢に殺される…!!
あわてて謝ろうと口を開くけれど、それより先に彼女が言った。
「…その人、桐弓の制服着てた?」
桐弓は、俺たちの学校。
つまりは、ここのことで。
昨日会った彼女は、確かに目の前の双葉さんと同じセーラー服を着ていた。
濃紺の襟に、一本ラインの入ったセーラー服。
これといった特徴はないけれど、うちの学校は校章がやたら凝っているからすぐわかる。
うなずくと、彼女は驚いたように、だけど妙な諦めも入り混じった顔で笑った。
「双葉さん?」
その顔に心配になる。
妙なことを言ったから、困らせたのだ。
そう思って謝ろうとするけれど、彼女はそれを制するように口を開く。
「…そっか。その人は、お察しの通りあたしの従姉妹」
「やっぱり。似てると思ったんだ、ふたりが」
顔立ちとか、雰囲気とか。
漂わせる感じがよく似てた。
どこか安堵して頬を緩めるけれど、彼女はゆるゆると笑みを消す。
それが妙に不穏で、緩めた頬が再び強張るのを感じた。
そうして彼女は、とんでもなく信じがたいことを口にする。
「…でも、雪姫ちゃんはもう居ないよ」
ゆっくりとした、口調。
穏やかで静かで、それゆえ彼女が嘘を言っているわけがないと確信させるような口調。
けれど頭にうまく言葉の意味がしみこまず、俺は乾いた笑みを返す。
「…え、」
「もう、居ないの。雪姫ちゃんは――この世界には」
もう、もう、どこにも。
見渡す限り歩める限り。
どこを探したって、君を見つけられない。
そんなの――嘘だよ。
「…そんな、」
つぶやいた声は弱く細く、つながれた縁が軋む音を聞いた。
11月の更新が恐ろしく少なすぎてびっくりしました。
慌てて書いてみた…あわわわわ。
絆くんと風姫たちは同じ学校でした、というお話。
あと、ちょっとシリアス(ちょっと?)
中途半端なところでぶった切ってしまったので、すぐに更新できるように頑張ります…!
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