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書きたいものを、書きたいときに、書きたいだけ。お立ち寄りの際は御足下にご注意くださいませ。 はじめましての方は『はじめに』をご一読ください。
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    ラプンツェルの櫛。

    ※カレとカノジョ。
    仮想世界の「蜜色キッス」の後日談。



    男子禁制の女子寮だけど、ちょっとした抜け道があるのはもう公然の秘密だ。
    越えるのは骨が折れる、高いフェンス。
    だけどそれなりの年月を経て劣化したそれは、ペンチでちょっと力を加えればすぐに切れる代物だ。

    数年前も変わらずに、恋しい彼女のもとへ馳せ参じた男がいたのだろう。
    そいつはジュリエットに会いに行くロミオさながらの情熱で、抜け道を作ったのだ。
    そうして今の俺たちも、その恩恵にあずかっている訳だけど。



    適当な小石をふたつ見繕って、窓に向ってそっと放る。
    こつんこつん、とぶつかって音を立てたなら、それが合図だ。

    「…あれ、」

    普段ならば窓を開けて、ラプンツェルみたいにあの子が笑うはずなんだけど。
    今日は部屋の主は顔を見せない。
    明かりが付いているから、外出しているわけではなさそうだけど、と首を傾げる。

    「…まぁ良いか」

    彼女の部屋は二階。
    もうすっかり登り慣れた木に手をかけて、身体を持ち上げる。
    特に苦労もすることなく、小さなベランダに降り立った。

    「入るよー」

    勝手知ったる人の家、とばかりに窓から侵入。
    小さなベッドルームは無人で、となると彼女がいるのはシャワールームしかない。
    おもちゃみたいなバスタブとトイレがついたそこに、時折あの子は籠城(という名の長風呂)を決め込むから。

    とりあえず来たことを知らせようと、形式的にノックをして扉を開けようとして――そこで、いきなり悲鳴が上がった。

    「ぎゃーっ!?み、見ないでください――っ!!」
    「は!?」

    耳で声を聞いて、頭で理解して。
    けれど理解したことを行動に移すまでには、少しばかりタイムラグがある。
    開けかけたドアを咄嗟に閉めることは出来なくて、ほとんど俺は浴室に顔をのぞかせる格好になる。

    肌が湯気に触れた、その瞬間。

    「こっち見ないでくださいってばぁ!!」
    「うわっ!?」

    ざば、と盛大に。
    かけられたのは、何とも快適な温度のお湯。
    …ただ、こんな形で浴びるのでなければ、もっと良かったんだけど。

    「「………」」
    「えーと…」

    しばしの沈黙。
    っていうか、濡れた前髪が張り付いて目が開けられない。
    タオルを探っていると、すぐそばでばしゃばしゃと水音がした。

    「ちょ、ちょっと待ってくださいね、今それなりに見られる格好にしますから」
    「あぁ…りょーかい」

    イマサラ見られる格好も何も、とは思うけれど。
    妙なこだわりを持つ彼女のことなので、おとなしく目を閉じたまま待つ。
    不意に手の上に、もこもことした手触りがのっかった。

    「えーと…とりあえず、これを」
    「あ、どうも」

    渡されたタオルで顔と身体を拭く。
    ようやく開いた目で、彼女を捉えた。

    ざっと身体を拭いた上から、パイル地のパーカーワンピースを被っただけの彼女がバツの悪そうな顔で俺を見上げている。
    しかし彼女が未だに膝下を浸しているお湯は乳白色で、この中で膝を抱えていたら扉を開けられたところで別に困った事態にはならないだろうにと内心で思う。

    「えぇと…すみませんでしたホント…」
    「や…俺も恋人とはいえ女子の入浴を覗くなんて無粋な真似を…」
    「あ、いえ、それは別にどうでもいいんですが…」

    どうでも良いって言ったよこのコ。
    女の子としてどうなのそれ…っていうか恋人として心配だ。

    「なに、他に理由があるの?」
    「えぇ、まぁ…っていうか先輩、とりあえずその濡れたTシャツどうにかしましょう」
    「…いえっさー」

    とりあえず彼女の寝巻き(ダボダボのTシャツ)を借りて、さっきと同じくベッドに腰かけた。

    「…で?」

    一体全体どういう理由で俺は水浸しになったのか。
    にっこり笑って首を傾げると、彼女は一瞬身を引きかける(失礼な)。
    それでも早々に観念したらしく、降参のポーズで息を吐く。

    「…ちょっと待っててくださいね」

    そう言い置いて、バスルームに戻る。
    こちらを向いた彼女が手に持っていたのは、ピンク色の…何だろうあれ。
    泥みたいな…でもそれにしてはピンクって…。

    「パックです、顔にべーって塗る」
    「あぁ、なるほど…」

    そういうことかと理解して、しげしげ眺める。
    ふたを開けると、ふわんと良い匂いが漂った。

    「…これ塗ってる最中の顔って、ジェイソンみたいなんですよ…本当に」
    「あぁ…それを俺に見られたくなかった、と」
    「御名答」

    だって、と小さな声でさらに言う。

    「…来週、久し振りのデートだし。……どうせなら、とびきり可愛くしたいじゃないですか」

    淡々とした、いつもと変わらない口調。
    可愛げのないふりをした、可愛い君。

    「…なんて言うか、本当に君は可愛いね」
    「……はい?」

    まったく意味が分からない。
    怪訝そうな顔に君にはとりあえず後で説明をするとして。

    柔らかなその頬に、そっとひとつキスをした。

    (ご褒美をあげよう)




    蜜色キッスのすぐ後にかけていたのに、アップするの忘れてた…すっかり上げた気でいました。
    久々のカレとカノジョ。
    相変わらずのテンションです。

    今回はどうしてもお湯ぶっかけられるカレが書きたかった(え)
    まぁパックしてる顔は見られたくないですよね…ジェイソンだし。

    女の子はいろいろと大変なんですよね、というお話でした(笑)
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    1990/10/10
    職業:
    学生。
    趣味:
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    自己紹介:
    動物に例えたらアルマジロ。
    答えは自分の中にしかないと思い込んでる夢見がちリアリストです。
    前向きにネガティブで基本的に自虐趣味。

    HPは常に赤ラインかもしれない今日この頃。
    最近はいまいちAPにも自信がありません。
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