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※カレとカノジョ。
シリーズはこれにて終了。
『命題:ただひとりの愛しい人の命と、その他ひゃくにんの命。天秤にかけるならば、どちらをその手に?』
あー…まぁたどっちを選んでも悪者扱いされそうな問いかけだよねぇ…。
別に良いけどね、何言われようが。
そうだね、俺は。
どっちも助けない、かな。
驚いた?鳩が豆鉄砲食ったみたいな顔してるよ。
うん、俺はどちらも助けないよ。
…理由?それはたぶん、思ってるよりも簡単なこと。
俺がもしもね、制止を振り切ってでもカノジョを助けたとしたら。
…あの子は、きっと自分が背負った命の重みに耐えきれない。
いつだって傲慢な利己主義の顔をしているけれど、ほんとうはとても脆くて優しい女の子なんだよ。
だから自分の代りに助かるはずだった百人のことや、それを愛した誰かのこと。
そういうのを考えた時に、きっとあの子は幸せになることを放棄する。
そんなの、俺は嫌だね。
あの子は幸福そうに笑ってなくちゃいけないんだよ、本来ならば、俺の隣で。
だから俺は、彼女を助けない。
だけど、ね。
それが百人を助ける理由にはならないんだよねぇ、俺にとっては。
あの子の命を捨ててまで、助けたいと願った命じゃないからね。
平等なんじゃない?ある意味で、とても。
結果だけではあるけどね。
俺はどちらも、助けないよ。
シリーズ完結です。
構想は出来てたんだけどやけに時間かかったな…。
とりあえずこのシリーズ終わらせないと何もできないことに気付いて慌てて終わらせました(笑)
どうしてもカレはオチというか、最後に使いたかったのでカノジョとセットにできませんでした。
多分最初に彼を書けばよかったんだろうな…終わったことだし気にしませんが!
次は雨三部作に手をつけたい…!
五月とか言ってたけど余裕で梅雨に突入のお知らせですよ。
良かったのか悪かったのか…。
※こばなし。
珍しく名前を持ったキャラクターです。
たぶん、それが間違い。
そして、唯一無二の、始まりだった。
「千鶴ー、あんた今日サークルはー?」
「ごめーん、今日は出られない」
言いながら、私は荷物をカバンに放り込む。
ルーズリーフ、ペンケース、テキスト。
乱暴に詰め込んだプリントが、くしゃっ、と嫌な音を立てた気がして思わず眉をひそめた。
「またぁ?千鶴最近顔出さないじゃん」
「ごめんって。来週のはちゃんと行くからっ」
ごめんね、と笑って口にして、私は教室を出る。
最近どうにもさぼりがちだ。
そろそろサークルにも顔を出さないとマズいっていうのは分かっているんだけど、なんとなく気分が乗らない。
「(…まぁ、なんとなくっていうか)」
理由は、分かっているんだけど。
小さくため息をつくと、予想外に自分が疲弊していたことに気付いて苦笑がおちた。
顔を上げると、絶望的なくらい空が綺麗。
空があまりに美しいと死にたくなる、そう言った詩人は誰だっけ?
「…良い天気ー」
呟いた声は、酷く薄っぺらだ。
同じくらいに軽く靴音を鳴らして、人のまばらな廊下を抜けていく。
…やっぱり、私は欠陥品なんだと思う。
私は世界で生きるには、向いていない。
最初はあんなに楽しかったサークルだって、この時期、大学祭に向けてそろそろ準備をしようという頃になって急激に私の心は冷めてしまって。
みんなで頑張って良いものを、と意気込む仲間たちを前に、私は張り付いたような笑みを浮かべることしかできない。
熱くなることを馬鹿にしてるとか、そんなんじゃない。
ひたむきに頑張る彼らの姿は、確かに美しいし私の胸を打つ。
だけど、私はどうしたって当事者になれないのだ。
どうでも良い、といったら言い過ぎか。
だけど残念なことに、私には心底どうでも良かった。
大学祭でうちのサークルが成功しようが、失敗しようが。
何をするのかも、あぁそもそも大学祭っていつだったかな。
興味が欠片も持てないまま、体感温度はひたすらに下がっていく。
「…馬鹿みたい」
私、が。
あぁ、本当に馬鹿みたい。
冷めてしまうなら、最初から触れなければ良かったのに。
中途半端に手を出すからなおさら痛くて惨めになるってこと、分かっていたのに。
階段を降りきったところで、ふっと嫌な予感がした。
こういう時の違和感って当たるんだ、思いながらカバンを探る。
「…しまった」
予感的中、私は嘆息するように天井を仰ぐ。
教室に、暇つぶし用に持ってきてた文庫本を置いてきてしまった。
どうしようかか一瞬悩んで、けれど出した結論ははやい。
「…戻るか」
本を置いてくるのは、忍びなさすぎる。
それに、本の中にはあの栞が挟まってるし。
六階まで戻るのはそりゃあもう面倒くさいが、仕方ない。
階段を上がって(ちょっとしんどかった…運動不足だろうか)、すぐ脇の教室の扉に手をかけた。
中には誰も…いや、一人だけ。
私が座ってた席の、ふたつ後ろにまだ一人、男子生徒がまだ残っていた。
濃い茶色の後ろ頭が、小さく揺れる。
横を通るときにちらりと見下ろすと、思いの外首筋が華奢で少し驚いた。
「(あった)」
男子生徒を追い越して、私の席に。
文庫本は、入れたままの状態で机の中に入ってた。
ホッとしてぱらぱらページを捲ると、栞もちゃんと中に挟まっている。
たくさんの折り鶴の描かれた布でできた、手作りの栞。
下の方には丁寧に「ちづる」と刺繍されている。
「あの子」が私の為に縫ってくれた、栞。
『千鶴ちゃんの布だよ』
私の名前は千鶴、だから。
たくさんの折り鶴が描かれたこれは、私の為の布なのだと。
事実、あの子はこれと同じ布でウォークマンを入れる袋や、サブバックなんかを作ってくれた。
今でもそれらはすべて、微かな痛みを呼び起こしながらも私の手元にあり、いくつかは変えることもないまま使い続けている。
そこまで思い出して、不意にぐらりと世界が歪む。
唐突なめまい、咄嗟に掴んだ椅子がぎしりと鳴った。
「(…だめだ、)」
あぁ、まただ。
強く目を閉じる。
瞼の裏に黒と白が混じり合う。
「(だめだ、…だめ、なのに)」
…余計なことばかり、考えてる。
溺れる思考に、私は這い上がれなくなってしまう。
「(…何時まで経っても、上手くならないな)」
考えない練習は。
吐きだしたため息で、沈んだ思考を追いやる。
カバンに本をしまって、踵を返した。
はやく帰ろう。
はやく帰って、熱い紅茶でも飲もう。
そうしたらきっと、この曇った思考回路もクリアになるはずだから。
そう思って、数歩足を進める。
「…冬野 千鶴さん?」
やわらかな声に名前を呼ばれて、思わず足をとめた。
ちょうど真横に並ぶ形になった、男子生徒が顔をあげる。
にこり、と人好きのする笑顔に、一瞬警戒心がゆるむけど。
なんで、私の名前を?
「冬野 千鶴さん、だよね」
確認を取らずとも、分かっているような。
小さく顎を引いて肯定すると、彼はさらに笑った。
「俺は夏見。夏見 鷹乃だよ」
なつみ、たかの。
聞いたことのない名前だ。
これでも記憶力には自信があるのだ、いくら興味を失ったって人物を丸ごと忘れてしまうような頭はしてないはず。
だから私にはそんな知り合い、居ない。
距離をとろうと引いた足が、机にぶつかって思いの外大きな音を立てた。
彼の瞳は私の逡巡も何もかも見透かしているようで、酷く居心地が悪い。
あぁ、誰だろう。
誰かに、似ている気がする…酷く。
「…えっと」
絞り出した声は乾いていて、私の声じゃないような響きに戸惑う。
「うん?」
「どちら様?」
尋ねると彼は、夏見 鷹乃は大袈裟に驚いた顔をしてみせた。
それから、自信満々に胸を張る。
「君の救世主」
「は?」
救世主。
ふざけた言葉、だけど彼は真剣な顔をする。
「君を蝕むこの退屈な世界から、救ってあげる」
そう言って、丁寧なしぐさで私に掌を差し出した。
子供だって解るような、おいで、のポーズ。
そうして彼は、そのポーズのままの言葉を吐いて、笑った。
「おいで、千鶴。君に世界をあげよう」
――それは、悪魔の囁きだったのかもしれない。
けれどその声は魅力的で、私は何を血迷ったかその手を取ってしまったのだ。
「あ、」
「…ようこそ、」
我に返ったけど、もう遅い。
にぃ、と口の端を上げて、彼は咄嗟に引きかけた私の手をしっかりと握った。
見せつけられた先ほどまでとは明らかに種類の違う笑顔に、私は罠にかかったことを知る。
「…何者、なの。ほんとうに?」
問いには答えず、掌の温度だけが上がる。
いつの間にか窓の外は薄暗く、細い月さえ顔をのぞかせた。
「そんな不安そうな目をしないでよ。大丈夫、俺はちゃーんと救世主だよ」
「…その言い方がすでに不安なんだけど」
「あはは。まぁ、判断を下すのは千鶴だ」
歪に彩られた世界。
痛みはまだ、耳元で囁く。
「(…あぁ、でも)」
もし彼が救世主だと言うのなら、それに騙されるのも悪くはないのかもしれない。
わたしは知らず微笑んだ。
退屈な日常、上がらない温度。
それに終わりを告げる声を、確かに私は耳にした。
(最後の羊と救世主)
書くだけ書いて放置してたお話。
予定ではケース2、を上げる予定だったんですが、見つけたので。
実はこれすっかり忘れてたんだぜ…!!
まぁホントは上げなくても良かったんですが、せっかくなので乗っけてみます。
勿体ないからね、うん。
ちなみに教室に本を忘れて慌てて取りに帰ったのはわたしですよ!
流石にエレベーター使いました。
だって階段なんかで上がったら倒れること確実ですからね!(どんだけ)