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書きたいものを、書きたいときに、書きたいだけ。お立ち寄りの際は御足下にご注意くださいませ。 はじめましての方は『はじめに』をご一読ください。
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    涙フィルター。

    ※仮想世界。
    雨三部作、二つ目。


    あぁ、もう全くついてない。
    氷雨は思って、普段だったら絶対にしない舌打ちをひとつ。
    別に誰も見ていないのだから、構わないとやさぐれたことを考えた。

    腕の中に抱えたのは、頼まれて図書館に取りに行った資料。
    なかなか見つからなくて結局混雑したレファレンスサービスに頼みこみ、やっと手にしたものだ。
    予定よりだいぶ遅れて出てきた図書館、足早に歩く帰り道、雨に降られてこのざまだ。

    濡らすわけにはいかないから、仕方なく軍服の上着を脱いでそれにくるんだ。
    今の季節だから寒いとは思わなかったが、それでも気分的にはあまりよろしくない。
    こんなことならクリアケースでも持ってくるんだった、と己の考えのなさに溜息をつく。

    「…(このまま、降り続けるのかしら)」

    だったら傘を持ってきてもらった方が良いかもしれない。
    だけどぱっと浮かべた顔に、それが不可能であると気付く。

    恋人の優なら多分すぐにでも駆けつけてくれるけれど、就業時間中に氷雨が接するのは上司である五十嵐 優だ。
    そう簡単には呼び出せないのだ、いったい何を考えているのだろう。

    その時だ。
    ふ、と視界に色鮮やかな春が踊って、思わず視線を吸い寄せられる。
    向こうもそれに気付いたようで、透明な傘の向こう、ゆるりと見知った顔が表情を映す。

    「…春日、」
    「青、さん?」

    三兄弟の次男の、青だ。
    ピンク色の髪が微かに揺れて、彼の靴が水たまりを踏みつける。
    ぴしゃん、とはしゃぐような音が聞こえた。

    「…何してんだ?お前」
    「ご覧のとおり、雨宿りです」
    「ついてねぇな」
    「まったくですよ」

    珍しく彼は苦笑を見せて、ゆっくりと氷雨に近づいた。
    くすんだ雨のスクリーンに彼の髪色はひどく鮮やかで、目を奪う。
    甘く明るい春の色。
    いつだったか蓮が言っていたセリフを思い出した。

    「(…あぁ、そうねこれなら)」

    何処に居たって、すぐに見つけられる。
    そう思って氷雨は少し笑う。

    青だけじゃない。
    きっと彼ら兄弟は、彼らが想っているほど夜には溶け込めるわけがないのだ。
    それをするには、彼らはあまりに愛されているのだから。

    「…んだよ」
    「いえ、別に」

    すい、と青の視線が氷雨の腕の中に向けられる。
    あぁ、と彼女は呟いて、抱えた資料を軽く持ち上げて見せた。

    「図書館に行ってたんですよ。古い事件の新聞がどうしても欲しいんですって」
    「…軍部にないのか?図書館とかって」
    「うーん、資料庫がそれに近いものでしょうかね」

    交わす会話の間にも、雨脚は強まっていく。
    考えることは諦めて、氷雨は資料を抱えなおした。

    「…ん、」
    「え?」

    動きのなかった世界。
    不意に音を立てて回りだす。

    青は真っ直ぐ腕をのばして、氷雨に傘を押し付ける。
    思わず受け取って目を瞬かせた氷雨に、彼は呟くように答えた。

    「濡れると、困るんだろ、それ」
    「え、ちょ、青さ…っ」
    「どうせ安物だし、返さなくていいから」
    「ね、人の話をっ…」

    たん、と軽い足音。
    水たまりが大きく揺れて、雨の中彼の後ろ姿が遠くなる。
    灰色の世界にピンク色の髪はあっという間に溶けて行ってしまう。

    「…風邪ひきますよ?」

    聞こえないことばを囁いて、氷雨はそれでも苦笑した。
    まったく、むちゃくちゃだ。
    人に傘を貸してしまって、自分は濡れて帰るだなんて。
    此処から彼の家までは、それなりの距離があったはずなのに。

    彼は本当に。
    不器用で無愛想で、酷く優しい。

    「…仕方ない、なぁ」

    微笑む、透明な傘の下。
    仕方がないから、今度お礼がてら美味しいお菓子でも買って、差し入れてあげよう。
    駅前で売っているワッフル、あれなら彼も喜ぶはずだ。

    資料を抱きしめて、傘をしっかりと握って。
    氷雨は雨の中、一歩足を踏み出す。

    透明な傘の下から見る世界は、軒下で見ていたよりもずっと明るくて少し驚く。
    暗い気分は、雨の匂いと一緒に溶けた。




    やっと二つ目な雨三部作。
    氷雨と青ってちょっと珍しい組み合わせかもしれない。

    普段わたしが使ってる傘が黒いせいか(でもフリルが付いてて可愛いんだよ!)ビニール傘をたまに差すと世界が明るくてすごく驚きます。
    無意味にくるくるしてしまう。
    実は奴らは侮れないのかもしれませんね。

    そんなわけで、今度はちょっと明るい色の傘が欲しいです。
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    祈月 凜。
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    1990/10/10
    職業:
    学生。
    趣味:
    物書き。
    自己紹介:
    動物に例えたらアルマジロ。
    答えは自分の中にしかないと思い込んでる夢見がちリアリストです。
    前向きにネガティブで基本的に自虐趣味。

    HPは常に赤ラインかもしれない今日この頃。
    最近はいまいちAPにも自信がありません。
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