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書きたいものを、書きたいときに、書きたいだけ。お立ち寄りの際は御足下にご注意くださいませ。 はじめましての方は『はじめに』をご一読ください。
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    金色ロマンシング。

    ※彼と彼女。
    黄金週間ですね。
    改訂版。



    「…ねぇダーリン」
    「なに?あ、これハニィとか言った方が良い?」
    「…もう五月だよ!?」
    「え、何なんでそんな吃驚してるのそうだよもう五月だよそれがどうしたの?そして僕の質問は丸ごとシカトしたねハニィ」

    「わぁノンブレス。噛まないのが地味に尊敬ポイントなんだけど。そしてちゃんとハニィって言ってくれるあたりが愛だよね」
    「うん、まぁ愛なんだけど、えーと、君は僕にそんなことを伝えたいわけじゃないんだよね?」
    「あ、うん。…やー、もう五月なんだなぁって思ったらなんかびっくり…」
    「…お祖母ちゃんじゃないんだから」

    「まぁ、それはどうでも良くて…あ、いやどうでも良くない?」
    「どっち」
    「どっちでも良いや。…もうゴールデンウィークですよお兄さん」
    「そうですねお嬢さん」
    「なのに、なんであたしと君は不健康に部屋に引きこもって本なぞ読んでいるのでしょうか?」
    「知らないよ君が『「真夏のシンデレラ」の最終巻買ったの、読みにおいでよー』って言ったからでしょ」

    「くっ…その通りなんだけど、その通りなんだけどなんか悔しい…!」
    「えぇえこれ僕が悪いの?」
    「でも『真夏のシンデレラ』の最終巻はやっぱり面白かったよねっ」
    「何が言いたいの僕のお姫様は」

    「やー…遠まわしにデートでも行きませんかダーリン、ってことなんだけど」
    「だったら最初っからそう言いなよ…あんまり素直じゃないとどこぞの軍人さんみたいになっちゃうよ」
    「怒られるよ?」
    「内緒にしといて」

    「…っていうかさ、君気付いてたでしょう。あたしがデート行きたがってるってこと」
    「うん?当然じゃない、それくらい」
    「わぁああ性格悪い…!!」
    「その性格悪い男が好きなのは誰だっけ」
    「あ、その台詞どこぞの軍人さんの恋人に似てる」
    「…怒るよ?」
    「きゃー、こわーいっ(けらけらっ)」

    「さてと、ハニィ」
    「どしたの、ダーリン?」
    「映画?買い物?それとも水族館とかの方が良いかな」
    「へ、え?」
    「なぁに、その反応。せっかくお言葉通りデートに行こうと思ったのに。…それとも、行きたくない?」
    「い、行くっ!」
    「そうこなくっちゃ。とりあえずは、どこかにお昼を食べに行こうか」

    (君とならば、何処へでも)




    黄金週間だぜやっほい!ということで書いてみました。
    でもうちの学校はふつーに29日は学校あったし、今日は一日家の掃除で潰れたんだぜ…。
    あんまりゴールデンじゃない(笑)

    さてさて、皆さまはどうお過ごしですか黄金週間。
    どっかお出かけとかするんでしょうかねーやっぱり。
    わたしはいま猛烈にプラネタリウムに行きたいです!!(いきなり)

    あ、ちなみに文中の「真夏のシンデレラ」は実在しませんよ(当たり前)
    わたしがむかーし書いたお話でした。
    ツンデレ少年と能天気少女の恋物語、っていう今読むと恥ずかしい感じのお話ですが。
    でもそのうち手直しして、こっちにもちょっとずつ上げていきたいです。
    っていうかサイトを作った方が良いんだろうな…でもわたしパソオンチなんだ、残念なことに。
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    空っぽの神殿

    ※カレとカノジョ。
    考えすぎなのは、誰でしょう?



    「…感情が、なければよかったのにって思いません?」
    「うーん…時と場合に、よるかな」
    「あぁ、そうですね。その通りです」

    わたしはそっと笑う。
    別に、何かが可笑しくてとか、そんなことではないのだけれど。
    そうして口にしてから、こんな風に議論を持ちかけるふりをしてでもわたしはこの人に甘えたかったのだと気付いて苦笑する。

    あぁ本当に、弱くて脆くて。
    わたしの精神は、どうにも思うようには働いてくれない。
    もっと冷静で、それこそ感情なんてなくても良かったのと思うのと同時。
    感情がなければ、彼の傍に居てこんな風に微笑む術さえないのだということも考えた。

    見透かしたように彼は微笑んで、わたしの手を取った。

    「また、何か考えているの?」
    「考えている、というか…」
    「悩んでる?」
    「くだらないことばかり考えて、迷っている、というのが適当かしら」

    もう一度、わらう。
    今度は明確に、自嘲の為に。
    それに気付いたのだろう、先輩は咎めるような眼を向ける。

    「くだらないことって?」
    「例えば、人間の感情とか」
    「人間の感情は、くだらないこと?」
    「少なくとも、今のわたしにとっては」

    言葉にしながら、わたしは泣きそうになる。

    あぁ今だってそう。
    この感情だって明日になったら色を変えていて。
    ほんの一瞬のことであるはずなのに、どうして耐え難い苦痛のように感じるのだろう。
    そしてわたしは、どうしてそれを感じようとしてしまうのだろう。
    考えたところで、変わってしまうのに。
    結局のところ、心を砕くだけ無意味かもよとどこかで声がする。

    痛い。
    だから、これを亡くしてしまいたい。
    痛いと思うのは、感情?だったら、それを亡くしてしまいたい。
    だけど、その痛みを掬い上げているのもわたしの感情なのだ。

    分からないまま、迷走を続けている気分。
    子供みたいに、泣いてしまいたいとどこかで思う。

    そしてもっと驚いたことに、痛みを享受し続けたら救われると「わたし」が思っているのだ。
    救われる、例えば誰に?
    わたしは神様の類は信じていないし(そう言えばあの紅い瞳の彼と、翡翠の瞳の彼女。彼らも神様を信じていないと言っていた。自身がその存在の証であると、言ってもよさそうなものなのに)、救済なんて決めるのは当人だと思っている。
    なのに、それなのに。

    わたしは未だに、祈りが人を救うと夢を見たがっている。

    「…ごめんなさい」

    気付いたら俯いていた。
    声を振り絞ったわたしの髪に触れて、目の前の彼が首をかしげた気配がする。

    「どうして謝るの」
    「いえ…ちょっと、情緒不安定みたいなんです」

    祈りが人を救うのか。
    祈りを捧げられた相手が、そのだれかが自分の為に祈ってくれたという事実に対して感謝して、心が救われたと感じた時にはじめてそれは救済になるのだろう。
    祈りだけでは、祈っただけでは願っただけでは、きっとだ誰も救えない。

    そして、わたしの祈りではどう足掻いたって人は救えないことも分かっていた。

    「声が揺れてるね」
    「ごめんなさい、」
    「ううん、怒ってないよ。ただ、少し心配かな」
    「…心配?」

    君は自虐趣味だから、そう言って彼は微笑む。
    ぎこちなくそれに笑みを返して、確かにそうだと胸の中だけで納得した。

    祈りが人を救う。
    そう願って、信じて、だけどわたしにはそれが出来ないと突き放して絶望する。

    たぶん、どれもこれも。
    わたしがまだ、許しを乞うている証拠だ。
    泣きそうな気分のまま、絶望的な答えに立ち尽くす。

    「無理に考えて、答えを出さなくても良いよ。水面が凪ぐのを待ったって、悪だとは思わないけど」
    「…わたしが、思いたくても?」
    「俺が、思いたくないんだ」

    背筋が緩んだ。
    息を吐き出して、頭を押さえて項垂れる。
    心得たように抱きしめられて、体温が欲しかったんだと回転の遅い頭で理解した。

    「…せんぱい、」
    「うん?」
    「少し、眠っても良いですか?」
    「構わないよ。疲れた?」
    「…そうかも」

    目を閉じた。
    髪に触れる手、すぐそばにある体温。
    絶対的な安心を見出して、今度こそわたしはほんの少しだけ睫毛を湿らせる。

    「…おやすみ」
    「おやすみなさい」

    世界の、どこかで。
    もしもわたしの祈りが、誰かを救う事があるとしたら。

    優しくてかなしいこの人を、救う事が出来たらいいのに。

    (人はかなしい生き物ですか)




    お題消化作。
    カレとカノジョ、の当初の姿に戻った感じですね。
    でもきっとバカみたいなノリも書くと思います(笑)

    祈りが人を救うのか。
    分からないけれど、救いになればいいとほんとに思います。
    そう思うこと自体、怠惰で傲慢なのかな、って気もしますけど。
    でも、救いであると思いたい、願いたい。

    最近は、そういう答えのないものばかり考えててちょっと脳みそ溶けそうです…!
    嫌な表現ですね!(ほんとにな)

    なんかもっとこう、ギャグっぽいのが書きたいですね。
    がんばろう。

    ガーデン・ブルー。

    ※カノジョと元彼。



    君は余計な事を考えすぎる、とはわたしの昔の恋人の談だ。

    昔、と言ってもそれほど昔のことではなくて、ほんの二年くらい前の話、というだけのことだが。
    その時のわたしは今よりももっと子供で、もっと色んなことに手足をばたつかせて足掻いていたように思える。
    けれどきっと今だって、あと二年先のわたしが振り返ったら変わらないくらいにみっともなくて、そう考えるといったい何時になったらわたしはわたしの望む落ち着きとか、余裕とかを手に入れられるのだろう。

    その恋人は、とにかく頭のいい人だった、という認識が一番適当なように思える。
    実際彼のとるノートはごく僅かで、いろんなことを板書以外にも書き足していくわたしのノートと比べると、その差は際立って見えた。

    整然と、単語ばかりが書きこまれたノート。
    彼の書く文字は薄く細く、自信に満ちたその口調に似合わないと常々思っていたことは覚えている。
    叩きつけるように濃い文字を書いてしまうわたしは、そのほっそりとどこか女性的な文字が好きだった。

    『ノートはつまり自分の思考を助けるツールだよ。自分の思考が整理できれば、本当は文字を書く必要なんてないんだ』

    テストの前なんかに彼のノートを見せてもらっては、これじゃ分からないと零すわたしに彼はよくそう言った。

    『だけどあった方がわたしは助かるわ』

    そう言って拗ねた顔をすると、彼はよく笑った。
    その赦すような表情に、わたしは安堵していたのかもしれない。

    彼はたぶん、いろんなものを見下していた。
    他人も、自分を縛る学校というシステムも、そうして自分自身も。
    そんな彼に赦されることが、優越感めいた甘い感情を誘ったのかもしれない。

    休みの日には、よく二人でひたすら話し込んでいた。
    今となってはもうほとんど覚えていないけれど。

    互いの世界観、というか、認識の仕方を。
    言葉にするのは複雑で、自分の中では組立っている世界を相手に伝えるのは難しい。
    一時間で良いから互いの思考回路を交換できたら、と二人してもどかしい想いで言い合った。

    『俺は世界のすべてが見たい』
    『すべて?すべてって、例えばどんなものを?』
    『言葉通りの意味だよ。…俺がいま何を考えてそう言ったか、君にそっくり伝えられるツールがあればいいのに』

    そう。
    今考えれば、恋人というよりは教師と生徒、或いは兄と妹のような関係だった気がする。
    わたしはひたすら彼に教えを乞うた。
    考える力は彼の方がずっと上で、わたしは彼の言葉を聞いて己の世界を再構築していく。
    それが純粋に楽しかったのだ。
    そしてたぶん、そうするのに一番都合のいい関係性が恋人だったから、そうしたというだけのことで。

    どこか歪な、奇妙にねじれた関係。
    気付かなかった、と言えば嘘になる。

    ある時、一度だけ喧嘩をした。
    いや、彼にとっては喧嘩ですらなかったかもしれない。
    突発的な感情のバグ、ただそれだけのことだったのだと思う。

    『君は、余計な事を考えすぎる』

    学校帰りの、小さなカフェ。
    わたしはキャラメルラテ、彼はカフェオレ。
    一瞬言われたセリフの意味が理解できなくて、珍しく押し黙って彼の顔を見つめたような気がする。

    『たどり着いたら答えはひとつなのに。どうしてそんな瑣末なことで悩む?』

    瑣末なこと。
    そう言われたことが悔しかったのか、それとも理論でしかものを言わない彼に腹を立てたのか。
    分からなかったけれど、その言葉は確かにわたしの神経を逆なでた。

    『プロセスがいくつあったところで、解答は一つだ。そして、その解答は最初から決まってる』
    『…きまってる』
    『そうだ。公式に数字を当てはめたら、答えが必ず出るのと同じこと』

    決まっている解答。
    そこにたどり着くまでの道のりで足掻くわたしを、憐れむような口調。
    次の瞬間わたしは激昂して、一緒に持ってきたお冷を彼の胸に向かって投げつけていた。

    滴る、氷水。
    色を変えたブレザーと、飛び散った水にぬれた髪、頬。
    一瞬驚いたように眼をみはった彼を残して、わたしはその場を後にした。

    『おはよう、』
    『あ…昨日は、その』
    『何が?どうした、そんな神妙な顔して』

    けれど翌日、彼は何事もなかったかのようにわたしに挨拶をしてきた。
    怒っているのかもとは思ったが、それは杞憂で。
    なんら変わりなく接されて、彼にとってあれは予想の範囲内のミスでしかなかったのかもしれないと考えた。

    奇跡的、と言うべきなのか。
    その事件が、わたしたちの別れの原因にはならなかった。
    別れの原因はただひとつ、物質的な距離が離れたからに他ならない。

    距離が離れたから、さほど熱心に言葉を交わして縮めたいものがなくなった。
    ただ、それだけのこと。

    考えてみたらそれでよくもまぁ付き合いを名乗れたものだと感心したくなる淡白さだが、彼との恋人期間が今でも薄くわたしの意識に残っていることは確かなのだろう。
    少なくとも、素直で可愛らしい恋人を、先輩にプロデュースしてあげられないところとか。
    縋ることすらできなかった恋人期間で、だからかな、わたしは今でもすこし怖い。

    今でも余計な事ばかり考えて、わたしは思考の海に溺れて。
    足掻いてもがいて、それでも浮かび上がれないことなんてしょっちゅうだ。
    それは対象がわたしにとっては大切だからで、だからこそここまで苦しくなるんだと、気付いたのもつい最近のこと。

    「…解答は決まってる、か」

    そうかもしれない。
    あれこれ思い悩んだって、なるようにしかならないのだから。
    それでも思考を止められないのは、きっとわたしが人間だからで。

    「ごめん、おまたせ」
    「遅いですよ、先輩」

    映画に行こうと待ち合わせた時刻の、五分過ぎ。
    先輩がわたしの前に腰を下ろして、申し訳なさそうに謝る。
    飲んでいたアイスティーを彼に向かって傾けると、ありがとうと言ってそれを半分ほど一気にあおる。

    「ごめんね、どれくらい待った?」
    「五分以上十分以下、ってところですね」

    思考の海に溺れて、ぼろぼろのまま浮かぶわたしを。
    苦しいのなら捕まればいいと、当たり前のように手を伸ばす人。
    名前のない怪物に怯えるわたしを、見つけてこの人は微笑んだ。

    わたしはこの人に出会ってようやく、自分がさほど強くないことを知った。

    「待っててくれて、ありがとう」

    あっさりとそう言って、先輩は笑う。
    わたしは少しだけ考えて、小首を傾げる。

    「…どういたしまして?」
    「うん、それで良い」

    綺麗に笑うと、先輩は恭しくわたしに手を差し伸べた。
    意図を察して掌を重ねる。

    「行こうか、」
    「はい」

    昔彼と行ったのと、よく似たカフェ。
    そこにたゆたう古ぼけた過去の欠片に、そっと微笑む。

    解答は確かにひとつ、それは事実ね。
    だけどプロセスが無限にあるからこそ、見つかる解答もうつくしい。
    そうは思わない?
    わたしは、そう願いたいよ。

    「どうしたの?」
    「いいえ。ねぇ先輩、わたしポップコーンはキャラメル味が良いな」
    「了解、」

    きっと過去のわたしは首をかしげて、それから軽やかに笑うのだろう。




    すごく長くなった…気がします。
    こういう文章をあまり書かないので、楽しかったです。

    余計なことばっか考えて、ぐるぐるして。
    胃が痛くなって、気持ちはもうどん底這ってて。
    そう言う時に、解答はひとつだと言われるのも、確かに救いかもしれません。
    だけどふっと隣に寄り添ってくれることだって、きっと十分に救いですよね。
    ただそれは難しくて、言葉を尽くすしかできなかったりもするのですが。

    なんか、みんな幸せなら良いのになぁって思いながら書きました。
    …そんな話には見えないが(笑)

    いつかの世界と白い花。

    ※仮想世界にて。
    微かな憧憬。



    「…」

    手元の雑誌には、大きな活字でGW特集と称して様々なテーマパークの説明が載っている。
    さして興味もないまま、青は退屈そうにあくびを漏らす。

    別に、もう遊園地ではしゃぐような年齢でもないし。
    そもそも行ったことがないから、どんなものかもよく分からないし。
    だから気になったりなどしないのだ、それはもう、絶対に。

    ぱら、ぱらとカラフルな写真ばかりが目に飛び込む。
    眩しすぎて目が痛い、そんな風にひねくれたことばかり考えた。

    「せーい君っ」

    雑誌をもう閉じようか、そう思ったところで、不意に後ろから明るい声が飛び込んだ。
    せいくん、なんて耳慣れない呼び名で自分を呼ぶのはただ一人で、そちらに目線を向けながら同時に彼女の名前をつぶやく。

    「…なんだよ、」

    風の愛し子、稀代の殺し屋の彼らを以てしても俄かには彼女の気配に気付けない。
    その事をなんとなく不服に思いながら、いつもと同じ決して素直ではない声を出した。

    「おはよ、」
    「…もう昼だろ」
    「最初に会ったらおはようで良いんだよー」

    それでも気にとめた様子もなく。
    彼女はにこり、と笑ってみせる。

    「何見てるの?」
    「や…別に、」
    「あ、ここの遊園地知ってる」

    軽やかなテンポで彼女は話を進めていく。
    彼女の恋人もそうだけど、こいつもこいつで人の話を聞かない、と青は思う。
    わざとなのか、無意識なのか。
    たぶん後者だから、なおさらタチが悪いのだ。

    「いいなー、ここアトラクションがすっごい可愛いんだよ。遊園地自体がね、アリスをモチーフにしてて。園内にウサギが隠れてて、それ全部見つけるとなんかプレゼント貰えるんだって」
    「…へー」
    「良いよね、行ってみたいよね」

    笑顔で振り返られて、思わず青は目を逸らした。

    …別に、行きたいわけじゃ。
    だって、こんなところではしゃぐなんて子供みたいだし、みっともないし。
    それに、遊園地なんて平和で幸福な場所、自分には絶対似合わないし向いてない。
    だから、そうだ。
    行きたくなんて。

    「…別に」

    顔ごと背けて、俯いた。
    そんな青を見て、風姫は小首を傾げる。
    しゃん、と黒い髪が清潔そうな音を立てるのを、彼は片隅で聴いていた。

    「…興味、ないし」
    「…そっか、」

    繰り返した青。
    彼女はふっと俯く。
    項垂れた白い首、それと一緒に本当は少し行きたかった自分の気持ちまで折れてしまったような心地がして、青はひどく居心地が悪くなる。

    そんな顔を、させたかったわけじゃなくて。
    こんな気持ちに、なりたかったわけじゃなくて。

    言えるものなら、とっくに口にしているさ。
    いちいち躊躇う、己が恨めしい。

    「…(ほんとう、は)」

    一度でいいから、こんな風に平和で明るい場所に、行ってみたかった。

    「…うん、分かった」

    彼女は呟いた。
    それは弱々しくない、きっぱりとした声。

    「おい、」
    「青くんが興味ないなら、それで良い。でも、」

    そこで、顔を上げて。
    わらう、とても楽しそうに。

    「でも、あたしが行きたいの。…だから、付き合ってくれるよね?」
    「え、」

    間抜けな声をこぼした青の手から、彼女は雑誌を奪った。
    それを持ったまま、彼女は恋人の背中に駆けていく。
    タックルに近い勢いで背中に飛びついて、弾んだ声で言うのが聞こえた。

    「ねぇねぇ、あたしゴールデンウィークここ行きたいっ」
    「遊園地?…あぁ、こういうの好きそうだねぇ」
    「すきー。ね、良いでしょう?みんなで行こうよ」
    「はいはい、お姫様の仰せのままに」

    了承を取り付けて、彼女は青に向かって笑顔で手を振った。
    はたから見たら我儘なカノジョのようで、だけど普段はさしておねだりの類をしないことも分かっていた。

    「…うわ、」

    当り前のように手を伸べられたことに、気付く。
    考えたらたまらなくなって、つい掌で顔を覆った。

    「(…やられた)」

    ――ゴールデンウィークは、目前。





    とりあえず前振り(笑)
    やっとなんか明るいのかけた気がする…自分はつくづくシリアス書きなのだなと実感する今日この頃。

    こういう優しさが好きです。
    そしてそれって、本人がきっと優しいからだよねって。
    優しい人の周りには、優しい人が集うのだと思いたいのです。

    愛しの愚者

    ※こころシリーズ。



    「…世界がね」

    「うん」

    「止まればいいと思うの」

    「…それはまた、どうして?」

    「傷ついた人の為に、世界は回るのを止めるべきなんだよ、きっと」

    「オリジナルの考えることは、唐突だね」

    「そんなことないよ。こんなお話があったもの」

    「そうなんだ」

    「恋を失った男の為に、世界は動くのをやめるんだって。彼の悲しみの為に、世界は回ることを止めるの」

    「彼の悲しみの為に、かぁ」

    「そう。失われた彼の恋に、殉じるために」

    「…へぇ、世界はやがて、動き出すの?」

    「たぶんね、そこまでは知らないけど」

    「オリジナルは、そう在りたいの?」

    「うん。…だって、哀しみも絶望も痛みも、不可侵のものだよ」

    「うん」

    「どんなに手を伸ばしても、叫んでも。他人には、その人のこころは分からない」

    「…そうだね。あたしの存在が、良い例だもの」

    「そうなんだよ。だからね、せめて世界は、寄り添うべきじゃないのかな」

    「痛みに?彼の人の」

    「そう。だってあたしの大事な人が泣いてるんだよ、傷付いてるんだよ。なのに、世界はどうして回り続けるの?どうして世界が、それでも回っていられるのか、あたしにはわからない」

    「…例え、どんなに尊い人が死んでも。世界は動くんだよ、オリジナル」

    「分かってるよ。だけど、だけどあたしは世界の理なんて曲げてしまいたいの」

    「ねぇ、可愛いオリジナル。それは不可能だよ」

    「…どうして?」

    「だって、あたしたちは世界の中に組み込まれて生きてるんだよ。世界は、あたしたちのモノじゃないから」

    「…だけど、あたしが生きてるのはあたしの、あたしだけが見てる世界だよ」

    「そうだね。だけど、とてもかなしいけど不可能だよオリジナル」

    「…かなしい、こと」

    「うん。オリジナルの世界は、マイノリティなんだよ。どうしたってそれは、変わらないんだよ」

    「…あたしの、世界なのに」

    「分かってるんでしょう?不可能だって事も、みんな」

    「…泣いてる、あの人の為に。今だけ、世界のスピードが、緩まればいいって。そう、思ったの」

    「そう、だね。止まってくれれば、良いのにね」

    「世界が止まれば、泣いてるところも見られなくて済むから。苦しいのに無理に笑ったり、しなくていいから。だから、あたしはあの人の為に世界を止めたかったの」

    「…」

    「あたしの、エゴだって分かってるけど」

    「…オリジナル」

    「なに?」

    「世界は止まらないけど、それが悪いことばかりではないよ」

    「…どうして」

    「世界が動くから、悲しい気持もほどけるんじゃないのかな」

    「…」

    「世界が回ると、時間も進む。時間はね、オリジナル。最高の名医なんだよって、聞いたことがあるでしょう?」

    「…うん」

    「回ることで変わるものもあるんだって、忘れないで?」


    (嗚呼、そうね、だけど)

    (世界よ、愛する人の為に泣きたまえ)



    お題消化作。

    そして世界は止まるべきなのですよ、という主張。
    いや、こころの言う事ももっともですけどね。
    っていうか、たぶん正論なんですけどね!

    でも、傷付いた人の為に、この恐ろしいくらいのスピードがちょっとだけ緩やかになっても良いんじゃないかな、とか。
    そんなお話でした。

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