※こころシリーズ。
「…世界がね」
「うん」
「止まればいいと思うの」
「…それはまた、どうして?」
「傷ついた人の為に、世界は回るのを止めるべきなんだよ、きっと」
「オリジナルの考えることは、唐突だね」
「そんなことないよ。こんなお話があったもの」
「そうなんだ」
「恋を失った男の為に、世界は動くのをやめるんだって。彼の悲しみの為に、世界は回ることを止めるの」
「彼の悲しみの為に、かぁ」
「そう。失われた彼の恋に、殉じるために」
「…へぇ、世界はやがて、動き出すの?」
「たぶんね、そこまでは知らないけど」
「オリジナルは、そう在りたいの?」
「うん。…だって、哀しみも絶望も痛みも、不可侵のものだよ」
「うん」
「どんなに手を伸ばしても、叫んでも。他人には、その人のこころは分からない」
「…そうだね。あたしの存在が、良い例だもの」
「そうなんだよ。だからね、せめて世界は、寄り添うべきじゃないのかな」
「痛みに?彼の人の」
「そう。だってあたしの大事な人が泣いてるんだよ、傷付いてるんだよ。なのに、世界はどうして回り続けるの?どうして世界が、それでも回っていられるのか、あたしにはわからない」
「…例え、どんなに尊い人が死んでも。世界は動くんだよ、オリジナル」
「分かってるよ。だけど、だけどあたしは世界の理なんて曲げてしまいたいの」
「ねぇ、可愛いオリジナル。それは不可能だよ」
「…どうして?」
「だって、あたしたちは世界の中に組み込まれて生きてるんだよ。世界は、あたしたちのモノじゃないから」
「…だけど、あたしが生きてるのはあたしの、あたしだけが見てる世界だよ」
「そうだね。だけど、とてもかなしいけど不可能だよオリジナル」
「…かなしい、こと」
「うん。オリジナルの世界は、マイノリティなんだよ。どうしたってそれは、変わらないんだよ」
「…あたしの、世界なのに」
「分かってるんでしょう?不可能だって事も、みんな」
「…泣いてる、あの人の為に。今だけ、世界のスピードが、緩まればいいって。そう、思ったの」
「そう、だね。止まってくれれば、良いのにね」
「世界が止まれば、泣いてるところも見られなくて済むから。苦しいのに無理に笑ったり、しなくていいから。だから、あたしはあの人の為に世界を止めたかったの」
「…」
「あたしの、エゴだって分かってるけど」
「…オリジナル」
「なに?」
「世界は止まらないけど、それが悪いことばかりではないよ」
「…どうして」
「世界が動くから、悲しい気持もほどけるんじゃないのかな」
「…」
「世界が回ると、時間も進む。時間はね、オリジナル。最高の名医なんだよって、聞いたことがあるでしょう?」
「…うん」
「回ることで変わるものもあるんだって、忘れないで?」
(嗚呼、そうね、だけど)
(世界よ、愛する人の為に泣きたまえ)
お題消化作。
そして世界は止まるべきなのですよ、という主張。
いや、こころの言う事ももっともですけどね。
っていうか、たぶん正論なんですけどね!
でも、傷付いた人の為に、この恐ろしいくらいのスピードがちょっとだけ緩やかになっても良いんじゃないかな、とか。
そんなお話でした。
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