「…ココアになりたい?」
「は?何いきなりどうしたの大丈夫?主に頭とか」
「うわ、酷い。頭はいたって正常だよ、円周率でも唱えようか?」
「いや、それは良いよ」
「そう?残念、結構得意なんだけど」
「あれだよね、円周率を覚えるっていうそのエネルギーをもっと別のところに活用すればいいと思うんだけど」
「別のところねぇ…えーっと、合衆国憲法の暗唱とか」
「いや、それも良いよ。…ってどっちにしろ日常生活にはなんの役にも立たないわよね?しかも日本ですらねぇ」
「無駄なものにこそ意義があるんだよ、ワトソン君」
「ワトソン違うから。…じゃなくて。何でいきなりココア?しかも疑問形だし」
「前に君が言ってたじゃないか『薄めたカルピスになりたい』って」
「あー…それってずいぶん前でしょ夏くらい?よく覚えてるわね」
「そりゃあね。それでまぁ僕だったら何が良いかなぁって考えて、じゃあココアかなって」
「…甘いの嫌いじゃなかったっけ?」
「うん、嫌いだよ?何をいまさら」
「…あのね良い?ココアって基本的に甘いのよ、知ってる?」
「それくらい知ってるよ…君はたいがい僕を馬鹿にしすぎだよね」
「してないしてない。で、参考までにその理由をうかがっても?」
「あ、うん。…ほら、夏の夕暮れが迷子に最適なら、冬の夜は帰ってくるのに最適なんじゃないかなと思ってさ」
「…帰ってくる」
「そう。迷子の君が帰ってきたときに、あったかいココアとかあったらちょっと幸せじゃない?だからそれも良いかなぁって」
「…あたしのためなの?それ」
「当り前じゃないか。でなかったら誰が嫌いなココアになんてなるものか」
「…きみはたいがいあたしを溺愛しすぎだと思うんだけど」
「今頃知ったの?」
「…ううん、知ってた。…あ、でもさ」
「うん?」
「あたしココアよりも、紅茶の方がいいな。そしたら一緒に飲めるでしょう?」
「…自惚れるよ?僕。そんなこと言われたら」
「自惚れろって言ってるの。…だから、ちゃんと付き合ってよね」
(彼と彼女と熱い紅茶)
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