目の前には冷えはじめたロイヤルミルクティー。
沈黙を守り続けるケータイ。
その向こうの窓の外には流れ続ける膨大な人影。
店内にかかっているのは軽やかなクリスマスソングで、わたしの隣にいるのは仲睦まじく肩を寄せ合うカップルが一組。
どれもこれもわたしには関係のない物ばかり。
ケータイの電源を落としてからもうずいぶん時間が経っているような気がして腕時計を見下ろすけれど、まだ一時間も過ぎていないことに気付いてつい苦笑した。
わたしは何を待っているのかな。
あんまりにも自分がくだらなすぎて、涙も出やしない。
真白いケータイを指先で弾くと、それは肝心な時には鳴らないくせに酷く乾いた音をたてた。
ざわざわと、さざめきが重なってまるで作られた一つの音楽のようだ。
ぼんやり窓の向こうを眺め続けるわたしの眼に映る人々は、みな足早に、何かに向かって歩いていく。
何処に行くのかしら。
それとも、帰るのかしら。
誰が待っているのかしら。
だれを、待っているのかしら?
この人たちすべてに、帰る場所があるのだ。
そう思うと不思議な気分で、それと同時にわたしは自分の傲慢さに少しだけわらう。
当り前のように自分を世界の中心に据え置いているけれど、それってある意味とてもとてもひどいことじゃないのかしら。
それとももしかしたら、世界っていうのはそういう一人ひとりの単純な思い込みで構成されているのかもしれないとも思う。
隣のカップルが席をたった。
カップに触れようともしないわたしを、彼女の方が一瞬怪訝そうな顔で見ていく。
腕をからめて店から出ていく様を、耳だけ傾けて送った。
ほうっておいてよ、今わたしは異邦人なんだから。
誰もわたしを知らない、この瞬間だけわたしは行方不明なの。
誰より何よりさびしがりなくせに、たまにこういう事をやりたがるんだからわたしは本当にばかだと思う。
「…誰か、みつけて、なんて」
我儘でしかないのにね。
そう思ったらなんだか泣きたくなって、けれど唇を噛んでしまえばそれだってたやすくやり過ごせる。
いつの間にか、心だって体だってなにもかもががらんどうで。
空っぽすぎて、何にもないから酷く悲しい。
「…逢いたい、な」
誰にともいえずに、冷え切ったミルクティーを飲みほした。
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