[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
りりり。
ケータイが鳴った、ぱちん。
真白いそれを開いて、耳に押し当てる。
「もしもし」
『はろーまいだーりん』
「…はろーまいはにー?」
不機嫌とも不安ともつかないような声。
ふざけた呼びかけに、こちらも同じ調子で答えた。
電話の奥、一瞬君が黙る。
『…さて問題です』
「はい」
『わたしは今どこに居るでしょう?』
「君の家の中。ついでに言えば君の部屋、さらに言えばベッドの上」
問われた言葉には間髪入れずに答えてやった。
君はぐ、とうめく。
『…なんで』
「そのいち、電話の向こうで音楽が聞こえる。曲はボカロのだから、そうなると必然的に聞いてるのはパソコン。君のパソコンはデスクトップ型で、置いてある場所は君の寝室だからだよ」
『…音量上げてリビングに居るのかもよ」
「そのに、そんな非合理的で面倒くさいこと君がやるわけない。よって君は寝室に居るに違いない」
いよいよ不機嫌そうに彼女が押し黙った。
僕はそれに追い打ちをかけるように言葉を重ねる。
「そのさん、ベッドの上に居るって思ったのは君がしんどい時は大体その中に居るからだよ」
『…別に、しんどくなんか、』
「なら、言い変えようか?…泣きたいんでしょ」
返事はない。
それで構わない。
見知った家の中でさえ迷子になって、怯える君の心の中。
心細くてどうしようもなくて、縋る言葉すら見つからなくて。
ほんとは助けを求めるのだって怖くてたまらなくて、それでも僕に電話をかけてきた。
もっと早く言ってよ、助けてって。
そしたら飛んでいくのに、君の涙が落ちる前に。
やがて、酷く弱々しい声がこぼれおちた。
『…探しに来て、』
「了解、お姫様」
言いながらもう腕には上着を掛けて、足は真っ直ぐ玄関へ。
いよいよ不安定になり始めた君の呼吸を聞きながら、僕は声を押し出す。
「…そのよん、」
『な、に?』
「僕が君の居場所が分かるのは、君のことをあいしてるからだよ」
『…っ』
震える声。
大丈夫だよ、怖くないよ。
すぐに行くから待っていて。
『ばか、』
「君限定だけどね」
電話の向こう、ようやくお姫様がちょっとだけ笑ったのが聞こえた。