[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「オンナノコって、何て言って褒められるのがいちばん嬉しいんだろうね?」
淡い笑みをのせて問うと、彼女はすこし驚いたような顔をして。
それから、苦笑めいた笑顔で小首を傾げる。
「さぁ…どうでしょうね、褒められるなら何でも嬉しいとは思いますけど」
「そういうもの?…でも、上手に褒めないと怒らない?」
「あぁ、洋服褒めると『服だけなの?』とか?」
「あはは、そうそう、そういう感じ」
昔の恋人にはよくそう言って拗ねられた。
こちらとしてはしっかり褒めているつもりでも、恋人にはちょっと不満だったらしく。
『別にいいけど』なんて言って膨れていたのもずいぶん前のことだ。
そう言うと、君は穏やかに笑う。
「『新しいスカート可愛いね、よく似合うよ。俺はそれ好きだな』まで付ければ完璧だと思いますよ」
「口下手な男には厳しくない?それ」
「ふふ、でもお得意でしょう?」
「そこまで苦手ではない、ってとこかな?」
探り合うように間合いを詰めて。
一瞬でぱっと身をひるがえす。
互いに柔らかく笑んだまま、真意をかすかに香らせて。
俺たちにはそれくらいがちょうどいいのだと思う。
「でも、私としては楽で良いと思いますけどね?服とか、持物を褒められた方が」
「『楽』なの?嬉しいとかじゃなくて」
「…失言。嬉しいですよ?もちろん」
わざとらしい。
けれど君は知らんふりを決め込んだらしく、こころもち顔を上げて続ける。
作り物めいた澄まし顔。
俺としてはなかなか好みなんだけどね?もちろん、言ってはあげないけれど。
「その方が嫌みなく応じられますからね、お世辞もわざとらしくなりませんし。それに『ありがとう、どこそこで買ったの。でも次は貴女が着てるようなスカートを狙ってるんだ、それはどこで買ったの?』って言えば、あとは向こうが勝手に話してくれるでしょう?」
…他人の話を引き出して、自分のことは語らない。
相変わらずお上手だ、そうでなくちゃ受付嬢なんて勤まらないのかもしれないけど。
「ふふ、性格悪いね?君も大概」
「そっくりそのまま打ち返して差し上げます」
まぁ、確かに『可愛いね』だの『優しいね』だの、そういった抽象的な褒め言葉は返しにくい。
『君の方が可愛い』『貴方の方が優しい』、そういう言葉はどこか嘘くさく響くから面倒くさいのも分かる。
それにこういう言葉ってヘタしたらとんでもない皮肉かもしれないわけで、裏を読まなくて良いぶん『そのスカート良いね』なんていう単純な言葉の方が素直に受け取れるのだろう。
「まぁ言われてもにっこり笑って『ありがとうございます』って返しちゃいますけどねー。嫌みだって解ってても」
「それは君が何を言われても本気では受け取ろうとしないからだろう?」
「いちいち本気にするから振り回されるんですよ。ハナから嘘だと思ってればなんの損失も受けません」
まるで他人なんて信じてないように笑う君。
そんなに強いオンナノコじゃないくせに、と俺は喉の奥で笑う。
ホントは脆くて、弱くて、傷付き易くて。
言わないから癒えないんだよ?今も過去も。
「本心からかもしれないのに」
「私にはそれを判断することはできませんから」
「…他人を完全に理解なんてできないから?」
「えぇ、そうです」
いつだったか交わした会話だ。
向こうもそれを覚えているらしく、くすくすと可憐に笑い声をあげた。
他人を信じない君。
否、信じまいとしてそれを仕切れない君。
その瞳に俺がどう映っているのかは、未だにわかりはしない。
「ま、イイトコ性格の悪い上司、かな」
「何がです?まぁ、性格が良いとは言いませんけど」
「えー、否定してくれたって良いじゃん」
「すみません、私嘘がつけなくて…」
それこそ嘘みたいな話だね?
俺の視線に、彼女は肩をすくめる。
「…嘘つき」
「そちらこそ」
嘘つき二人。
君となら世界すら欺けるかもしれない、なんて思ったのは秘密だ。