「その格好、」
「はい?」
言ったきり、俺は思わず口をつぐんだ。
対する彼女は相変わらずの澄まし顔で、俺の顔をそのまま見返す。
えぇと、と言葉を探しながらぼそぼそと答えた。
「どうしました?」
「いや…なんか、珍しい格好してるな、と思って…」
「あぁ、これですか?」
今日の彼女の格好は、見慣れないもの。
柔らかそうな明るいグレイのニットに、ボルドーのミニスカート。
そこからわずかに肌がのぞき、その下はオーバーニーのソックスに続いている。
普段ならボトムは膝丈が基本ですと言わんばかりに、清楚な格好をしているのだが。
大きなリボンがトレードマーク、な彼女の年下の友人を彷彿とさせるような格好だ。
「どしたの、それ」
「似合いませんか?」
「いや、似合ってるけど…」
言葉を濁す俺に、すこしばかり不満気な目が向けられる。
ねぇ勘違いしないでよ、似合ってるのは本当なんだ。
物珍しさもあるけれど、こういう活発な格好もすごく可愛い。
可愛い、んだけど。
「それ……スカート、短すぎない?」
猜疑が見え隠れする瞳から逃れるように、俺はやっとの思いで口にする。
「……はい?」
「だから、その…スカートが短くないかって」
制服はもちろん、私服でもめったに拝めないその白い太腿。
こうも無防備にちらつかせられたら、なんていうか…ねぇ?
そんなニュアンスのことを(もちろんぼかしながらだけど)伝えると、その瞳はますます呆れたように細められた。
さらにはふぅ、と軽くため息をつかれてしまう。
「……先輩って」
「なに」
「………ムッツリ、なんですねぇ…」
しみじみと、心のそこから呆れたように。
彼女はそう言って、額を手で抑えて瞑目する。
「ちょ、なんでそうなるの!?」
「だって人の太腿を見て興奮してたってことでしょう?これだからムッツリは…」
「やめて人を男子中学生みたいな言い方しないで!」
なんだかひどい言いがかりだ。
そりゃ確かにちょっとは興奮しなかったわけでもないけれど、それだって常識の範囲内(のはず)だ。
「だって普段そんな短いのはかないじゃん…」
「あのですね、先輩?わたし19ですよ。年齢を考えたらこれくらいの格好は普通だと思いますけれど」
キャンパスに通う女の子たちなら、まぁ当然とも言える格好なのだろう。
というか、普段のクラシカルなお嬢さん然とした格好のほうがこの年頃だと珍しいのかもしれない。
言葉に詰まったのをいいことに、彼女は憂えたような口調で続ける。
「はぁ…そうか、23にもなった男がムッツリか…」
「ムッツリを連呼しないでくれる!?ていうか恥ずかしくないの君は…!」
「いえ、特には。わたし弟がいるんですよ?これくらいの耐性はありますよ」
さて、と彼女は通る声をだした。
ソファから俺を優雅に眺めて、いかにも女の子らしい、やわらかな脚をそっと組み替える。
「……なに」
「先輩がお望みでしたら」
にっこりと。
これまためったに見ることのない、無邪気な笑顔。
「このままデートも、してあげますけど?」
ああ、なんて晴れやかな表情。
さきほど思い出したのはポニーテールがよく似合うあの娘のことだけど、いま脳裏に浮かんだのはその恋人である彼のこと。
……なんていうか、笑い方がそっくりだ。
「………君さぁ」
「はい」
「性格、確実に歪んできたよね……」
「あら、そうですか?」
お嫌でしたら着替えます。
そう宣って、彼女は俺の反応を待つ。
まぁ、答えなんて当然決まっているのだけど。
俺は棚から車のキーを取り上げて、苦笑交じりにもう片方の手を差し伸ばす。
「…いこうか、お嬢さん」
「はい、先輩」
うれしそうに笑ってくれたから、良しとしましょうか。
(今日はどちらに参りましょう)
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