モスグリーンの軍服がほとほと似合わない女の子。
不釣合な柔らかい頬を緩ませて、けれど彼女は凛と言う。
「大丈夫ですよ、大丈夫」
歌うようにあっさりと。
あたしは思わず顔を上げる。
見つめた瞳は普段と何一つかわらない穏やかさで、あたしはまるで自分のほうが間違ってるみたいな錯覚を覚えてしまう。
「大丈夫、わたしがあなたを守ってみせますから」
あたしよりもずっと弱く、守られるべき存在のはずの彼女は言う。
なにせあたしは化物じみたおかしな力を持っていて、守られるなんて考えたこともなかった。
だからやっぱり彼女のいうことは間違っていて、そう思うのだけれど。
「…ねぇ、覚えてる?あたしの力のこと」
「えぇ、覚えてますよ。それがなにか?」
彼女はそっとあたしに手を伸ばす。
それは遠慮斟酌なしにあたしのほっぺたを引っ張り、抗議の声も妙にむにゃむにゃとしてしまう。
「いひゃいいひゃーい、ひゃにすんの」
「ねぇ、あなたこそ忘れてません?」
忘れるって、なにを。
ようやく彼女は手を話し、今度はいたわるように同じ場所を撫でた。
そんなんじゃほだされないんだから。
警戒心も顕なあたしをくすくすと笑う彼女の声が、妙に耳にくすぐったい。
「忘れるって?」
「だってわたし、ふたつもお姉さんなんですよ?」
「それは覚えてるけど、」
でも、それに一体何の関係が。
あたしは人間じゃなくて、化物で、だからそれで。
硫黄とした言葉は、彼女の指先に封じ込められる。
「だからですよ。年長者の言うことは素直に聞くものですよ?」
なんにも心配しなくていいんですよ、そういって彼女は微笑んだ。
言いたいことはいろいろあって、だけど文句は不思議なくらいにしゅるしゅるしぼむ。
ねぇ、いいのかな。
あたしが普通の、かよわい女の子のような顔をしても。
守られていても、いいのかな。
あたしよりもうんと童顔な、けれどもふたつ年上の彼女は。
ひどく大人びた表情で、ひとつだけ頷いてみせた。
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