あおい光に沈む塔。
向かい合うのは少年と少女。
「…僕は、君が嫌いだ」
少年が呟いた。
思いつめたような声で、床の一点を睨みつけながら。
彼のしろいシャツは、窓から差し込むその儚げなあおい光を映しては揺れる。
「…うん」
少女は頷いた。
穏やかな声で、俯く少年を見つめながら。
彼女のながいスカートは、あおい水底をおよぐ魚のひれのように踊る。
「君が嫌いだ、大嫌いだ」
「うん」
「顔も見たくない。こうして向かい合ってるだけで苦痛だよ」
「うん」
「君のことなんて、大っきらいだ」
「うん、知ってる」
繰り返されるひどい言葉。
それこそ、泣いてしまってもおかしくないような。
けれど少女は微笑んで、決して交わらない視線をただ少年に向けている。
ぱちりと瞬くおおきな瞳を、少年は見返すことができないまま。
何もかも見透かされて透き通されてしまいそうな気がして、それが彼には怖かったから。
「嫌いだ」
「そうだね」
抵抗するように絞り出す声。
あっさりと頷かれ、少年は窮したように肩をよせる。
少女はその様子を見て、視線を柔らかににじませた。
ひたすらに俯く少年に、少女の顔は見えない。
「…君のことが、嫌いだよ」
「分かってるわ」
「なんで怒らないんだよ。なんで、泣かないんだよ」
わたしだってきらいだと。
そう、言えば良い。
祈るような気持ちで、少年は繰り返す。
「嫌いだって言えば良いだろ。何でそんなこと言うのって、泣けばいいだろ」
「…」
「僕のことなんか、嫌いだって、」
「――わたしは」
少年の言葉をただひたすらに肯定し続けていた少女が、不意に。
割りこむようにして、口を開く。
続く言葉を想像したのか、思わず少年は少女の顔を見る。
「…っ」
「それでも、わたしは。君のことが――好きだよ」
柔らかに、それこそ、とけてしまいそうなくらい。
彼女は甘やかに微笑むのだ、ようやくこちらを見た少年の瞳に向かって。
魔法にかかったように目線を逸らすことが出来なくて、彼はただ小さく息をのんだ。
「わたしは君が好きだよ」
繰り返されて、ようやく彼はそっぽを向く。
けれどその顔は、このあおい部屋に似つかわしくないくらいにあかくて。
世界が、染まる。
鮮やかに、音を立てて、見事なくらいにうつくしく。
変わる、浮かび上がる、ふたりきりの世界が。
「…ばか、じゃないのか」
「そうね。それも知ってる」
それは、それは――僕だって。
言いかけた言葉はただ呑み込んで、少年は少女の頬に触れる。
(とけいとうのきんぎょひめ)
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