※階段の神様。
デジカメに、写真が増えていく。
赤くて小さな、姉からのもらいものだ。
冬晴れの空や寒そうな木々、放課後の校舎なんかを思いついたように撮っていたら、いつの間にかけっこうな枚数になっていた。
そういえば季節もゆっくりと、だけど確実に進んでいて、十二月になってからそれなりに時間が経つんだなぁとぼんやり思った。
徐々に徐々に、その季節の歩みを伝えるように撮られた写真を見るともなしに送っていく。
「何してるの?」
「セツ」
ふいに影が落ちたと思ったら、上からセツが覗き込んでいた。
彼女にデジカメを手渡すと、興味深そうにデジカメを操る。
「これみんな絆が撮ったの?」
「そうだよ」
「すごいねぇ、センス良いな」
「大したもの撮ってないけどなぁ…でも、ありがと」
「ふふ、うん。あ、私これ好き」
言って彼女が指したのは、誰もいない廊下を撮ったやつ。
夕方になり始めの、うすい黄色っぽい光が廊下全体を満たしてる、妙に明るい写真だった。
「この、ふんわり明るい感じが好き。なんか優しい色してるよね」
「三時過ぎるとさ、なんとなく陽射しが昼間とは違ってくるんだよな」
「あ、分かる夕焼け交じりになってくるんだよね、光が」
「そうそう。それってこの時期特有だよね」
同じものについて話していても、浮かべているものが違うというのはよく聞く話だ。
「赤い薔薇」と聞いたとき、一本の薔薇を思い浮かべるかそれとも百本の花束を浮かべるか、それは本人にしか分からないこと。
そんな本を、昔読んだことがある。
「夕方とも昼間ともつかないような時間は、なんか不思議な居心地がするよねぇ」
そう言って笑う彼女と、俺も笑う。
ねぇ、神様。
居るかも分からないけどさ、ねぇ誇らせてよ。
(世界で一番たいせつな)この女の子と、俺。
ふたりで今浮かべている世界は、きっと同じものだろうって。
胸を張らせてよ、それが幸せなんだってさ。
「ねぇ、セツ」
「うん?」
振り向いた顔に、すばやくシャッターを切った。
驚いた顔で彼女は固まって、それからくしゃりと笑う。
「もー、やめてよっせめて可愛い顔で写らせてよ!」
「えー…いつも可愛いと思うんだけどなぁ」
「あとその天然タラシ発言やめようよ」
「そんなことないって」
ぴぴ、と音を立てて表示された画面には、無防備に笑う君のかお。
(世界は優しく色づいた)
階段の神様。でした。
幽霊は果たしてちゃんと写真に写るのかしら、と余計なことを考えてみる。
心霊写真とかあるから大丈夫かな…アメリカの幽霊は堂々と写真に写りこむって言うし←
やさしい匂いのするような、そんな光景。
本当だったらもう届かないけれど、触れていたかったんだよって。
そういうお話でした。
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