※階段の神様。
そうして始まったのは、信じがたいくらいに穏やかな日常。
「セツ、」
「おはよ、今日も寒いね」
学校のある日は、昼休みと放課後に俺は屋上に通った。
屋上というか、そこに出る前の階段というのが正しいか。
真冬に外で過ごすのはあまりに寒くて、屋内の方が少しはマシだろうと彼女から提案されたのだ。
人目に付く場所には居られない。
彼女はあのあとそう言った。
自分はイレギュラーだから、とも。
彼女と臆面なく一緒にいられるのは、この階段だけだった。
「厚着してるから俺はそこまで寒くはないけど…セツのが見てて寒そう」
「私は別に寒さは感じないんだけどね…でもごめん、確かに視覚的に寒いね」
彼女はそう言って笑う。
相変わらず(当然かもしれないけど)彼女はセーラー服だけで、開いた首元はいかにも寒そうだ。
しろい階段にふたりで座って、他愛もないことを話す。
恋人と友人の間をゆるく行き来してるような。
子どもっぽいような恋愛だと、思わないわけではないけれど。
それでも、一緒に過ごせるだけで今のところ満足してると胸を張れる。
ゆっくりと、ゆるやかに。
世界を柔らかく染めていくような、そんな恋愛があったって良いんじゃないか。
先のことなんか憂えたってどうしようもないのだ、少なくとも俺たちの間では。
だったらどうか、一瞬を切り取って笑えるように。
「今日の英語のテスト悲惨だった…」
「あれ、絆って英語苦手なんだっけ?」
唯一かわったのは、お互いの呼び名くらい。
彼女は俺を「絆」と呼んで、俺は彼女を「セツ」と呼ぶ。
別に何かを取り決めたわけではなくて、いつのまにかそう変わっていた。
そんな穏やかな変化に、たがいに微笑む。
「ねぇ、絆」
「うん?」
呼ばれて振り返ると、セツはわらう。
「すきだよ、」
少しだけ切なそうに、それでも幸福そうに告げられるその言葉。
それだけで、俺を幸せにするには十分すぎるくらいだ。
「…俺も、すきだよ」
告げると、君はもっと笑う。
ほら、もうひとつ。
小さな幸福の瞬間だけを集めていられたら、きっとこの先世界を恨まずにいられる、よ。
(優しげな変化と物狂い)
淡々と進む階段世界のおはなし。
そしてやっと二ケタになりました。
目指す雰囲気はこう…中学生みたいな淡い感じの恋?
絆のキャラ的に激しい恋愛には向かなそうなので、必然的にこんな形になりました。
最後の「物狂い」は、いかに本人が納得していようとも彼らは世界から見たらただの狂人。
そもそも、そこに幸福を見出だしてることこそが狂った証なのかもしれないなぁ、と思いながらつけてみた。
でもきっと、本人がそれで良いと言えば、きっと良いんです。
周りが何と言おうと、幸福の価値なんて本人にしか決められないのですから。
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