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書きたいものを、書きたいときに、書きたいだけ。お立ち寄りの際は御足下にご注意くださいませ。 はじめましての方は『はじめに』をご一読ください。
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    どうか、その声で。

    ※久々にお題更新。
    今回は二十題です。




    01 嗚呼、愛しや泡沫の君
    02 心臓の痛みに耐えかねた魔女は(その、手で、)
    03 わざとらしい愛の告白
    04 どうか私を愚か者だと詰って
    05 それは、あまりにうつくしい恋心
    06 夏の日に君は消えました
    07 この雪が君を作ります
    08 祈りで人が救えるのか、その答はまだ見つからないのだけれど(それでも、僕は)
    09 優しく、やさしく裏切って
    10 壊れやすい君の瞳

    11 傷ついた腕にも、光は穏やかに降り注ぎ
    12 願っていました祈っていました、到底かなわないことと、知っていました
    13 血の匂いばかり嗅いでいたから、咲き誇る金木犀に気付けなかった
    14 彼女の眼に映る世界がうつくしく在る為ならば、僕は喜んで手を汚そう
    15 手にしたそれは凪いでいて、恨みに似た衝動が突き上げる
    16 こんなにも平和な世界なんて、望んでいなかった、よ
    17 グッバイ、カナリア
    18 その肩に舞い降りる、死神のてのひら
    19 君はそれを、許すのか、(この世の理を曲げてでも)
    20 こんなにも穢れた世界で、それでも前を向くことの愚かさ

    (僕に名前を与えてください)
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    別れの言葉を花束に。

    ※仮想世界にて、藍と風姫。
    大半が藍のモノローグ。
    前半暗いので注意。



    この手で守れるものって、いったい何なんだろう。

    小さな、とても小さな鳥を見つけた。
    それは怪我をしていて、うまく飛べないみたいだった。

    「……」

    それを、その鳥を。
    怪我が治るまで飼ってやろうと、そう思った。

    鳥を飼うには、カゴが居る。
    鳥籠を買ってこよう、居心地のよさそうな、綺麗なやつを。
    考えてからの、行動はとても速かった。

    お腹が空かないようにたくさんの餌と、水の入ったお皿を大きめの箱に入れた。
    その中に傷ついた鳥をいれて、寒くないようにとタオルも入れて。
    割りばしで上に覆いをかけた。

    「行ってらっしゃい」

    意気揚々と出かけていくおれの背中に、兄ら二人はただただ視線を向けていた。
    穏やかな声を受けながら、自転車を走らせてホームセンターに向かう。

    「(どういうのが良いのかな)」

    鳥は小さかったから、カゴもあまり大きすぎないものの方が良いのだろうか。
    それともあちこち飛び回れるように、大きめの方が良いのかもしれない。

    動物を保護するなんて初めてのことで、考えるのがすごく楽しかった。

    結局、買ったのは少し大きめのもの。
    止まり木が上下二段についていて、水飲みもセットになった奴。
    きっとこの中なら、あの小鳥も快適に過ごせるだろう。
    そう、思った。

    「おかえり」

    帰って来たおれを迎えたのは、変わらず静かな兄の声。
    そして、あの小さな鳥は、息をしていなかった。

    「…もともと、長くはなかったんだ」

    蒼兄さんは、囁くみたいにそう言った。
    冷たい小鳥、あぁ、可哀想な事をしたなとぼんやり思った。

    「無駄じゃなかったよ、お前がしたことは」

    青にーさんは、掠れた声でそう言った。
    飛ぶことのなかった小鳥、なんてあっけないんだろうと感じた。

    奪うばかりで、いつだって。
    おれは、おれたちは、きっと神様に見放されてる。
    それくらい最初から分かっていたことで、だからこそ守れる命なら守ってやりたかったんだ。

    「…これ、どうにかしてくる」

    一度だって小鳥が入ることのなかった鳥籠。
    抱えて踵を返したおれを、兄らは静かに見守っていた。

    +++

    「藍くん?」

    鳥籠を抱えたまま歩いていたおれの前。
    見知った彼女が通りかかった。
    ポニーテールに纏められた髪が揺れて、セーラー服のスカートが翻って。
    それを見ながら、機械的に頭を下げる。

    「どうしたの?珍しいね、こっちの方までくるなんて」

    よく変わる表情。
    笑って、拗ねて、驚いてはまた笑って。
    時折怒って、そして丁寧に泣く。

    おれと違って、呼吸の宿った感情を持った人。

    「…藍、くん?どうしたの、元気がないね」

    ほら、今も。
    姫はそう言って、気遣うような表情を見せる。
    それからおれの腕の中で沈黙する、空っぽの鳥かごを見つめた。

    「…それを、捨てに行くの?」

    恐ろしいくらいに察しが良い。
    そう思って、笑った。
    だけど上手く笑えていたかは、彼女の少し険しくなった表情を見るにどうやら失敗していたらしい。
    こと、とこちらに歩み寄ってくる姫のローファーが音を立てた。

    「そう、もう使わないから」

    ふれた金属は、冷たくて。
    あの小鳥はもしかしたら、こんなに冷たい籠に入ることがなくて幸せだったのかな、と無理やりのように考えた。
    あぁだけど、おれはこの中で囀る小鳥が見たかったのかもしれない。

    別に、それほど執着していたわけじゃないんだ。
    だって、見つけてからまだほんの少ししか経っていなくて。
    変わらないだろう?何もかも、元通りだ。
    何も持っていない両腕が、残っただけの話。

    なのにどうしてかな、ひどく空洞めいた感情だけがあるのは。

    「…ねぇ、藍くん」

    人形めいた指が、鳥籠を撫でる。
    顔をあげると、けれど彼女はおれを見てはいなかった。

    まるで、この中に。
    飛び回る小鳥が居るみたいに、姫は目を細めて。

    「泣かないと、忘れちゃうのよ」

    謳うように、そう言った。

    「反復しないと、感情って忘れちゃうの。学習なのよ?感情を表現することって」

    淡々とした声。
    誰かに似ている気がして、眉を寄せた。
    だけど残像を結ぶことなく、声だけが流れていく。

    「悲しい時は泣かなくちゃ。でないと、大切な時に泣けなくなってしまうよ?」
    「…別に、悲しくはないよ。もともと、なかったものだから」

    この手でなにかを包めると思ったことが、そもそもの間違いだったんだから。
    返す俺に、姫は悲しそうに哀しそうに微笑んだ。

    「だめだよ、忘れちゃ。感情をひとつ忘れると、みんな忘れてしまうから」

    そう言って、彼女は。
    おれの腕から、抱きとめるようにして鳥籠を奪う。
    あ、と思った時には、姫は背中を向けていた。

    「――姫、」

    現実感のないその人は、振り返らずに視界から消えた。
    変わらずからっぽの腕の中、あぁだけどそうだ、確かにここにはいたのだと理解する。

    ――嗚呼、嗚呼。

    「…っ」

    視界がぶれた。
    目の奥が熱くて、喉が焼けそうで。
    痛い、いたいイタイ。
    ああ、どうしてこんなにも心臓が痛いんだろうな。

    頬を濡らして、袖口を濡らして。
    告げることすら躊躇ったささやかな「さよなら」を、おれは初めてその小鳥に捧げた。

    (カゴには惜別の花束を飾りましょう)




    ランを泣かせてみたくて書いてみた。
    不器用でなかなか泣けない住人達が愛おしいのです。

    しんみりなネタで申し訳ない…次はちゃんと明るいのを書きたい(希望)
    がしがし書くぞー!

    ロンドン橋はどうなった?

    ※仮想世界にて。
    女装ネタとか好き勝手やっています、苦手な方はどうぞご注意を。




    「…なんか…ごめん、ひーちゃん…」
    「いえ…わたしの方こそ申し訳ない…」

    後悔先に立たず。
    藍と氷雨はその格言を身を以て理解したのだった。



    原因、というかその理由。
    みんなで有沢邸でお昼を御馳走になった。
    さすがにどれも料理はおいしくて、とても満足だったのだが。

    「「…」」

    藍と、氷雨。
    二人の皿には、嫌いなものがそれはもう丁寧に残されていた。
    互いの皿を横目で見て、咎めるように言う。

    「…食べなよ」
    「藍さんこそ」

    藍の目の前には、手つかずのピーチ・メルバ。
    隣の氷雨の皿の上には、付け合わせのグラッセ。
    食べられなければ言って下げてもらえばいいのだが、なんとなく言葉の応酬が続く。

    「…ひーちゃんはホントに偏食家だよね」
    「煩いですよ。藍さんこそ、甘いものが食べられないとバレンタインとか困りません?」
    「良いんだよ、おれは。貰っても食べないし。ひーちゃんこそ、まずいんじゃないの?社会人なんだし、一応」
    「一応ってなんですか?童顔とでもおっしゃりたいんですか」
    「そこまで言ってないよ。…それとも、自覚があった?」

    にこりと。
    互いに視線を交わして、にこやかに微笑み合う。
    ただし、その目は少しも笑っていない。

    「…召し上ったらどうです?せっかくのピーチ・メルバ、溶けてしまいますよ」
    「ひーちゃんもね。その芸術的な残し方、ある意味で称賛するけれど」

    にこにこ、にっこり。
    綺麗な顔を笑みで彩って、そのくせ声音は氷点下。
    よくもまぁそんなに器用な事が出来るものだと、斜向かいの青は不思議に思わずにはいられない。
    口を挟んだ途端に攻撃されるのは目に見えているので、もちろん突っ込んだりはしないけれど。

    「…別に、食べようと思えばば食べられますよ。そんな、子供じゃないんですから」
    「おれだって、食べられるよ。好んで食べないってだけで、嫌いとかじゃないし」

    どういうわけか、この二人は互いが絡むとどこか子供っぽくなるようだ。
    普段酷く大人びた横顔で世界を眺めている彼らにとって、それはもしかしたら良いことなのかもしれない。
    氷雨はフォークでグラッセを転がし、藍はピーチ・メルバを揺らす。

    「…本当ですよ?」
    「俺だって本当だよ」
    「じゃあ食べたら如何ですか」
    「ひーちゃんだって、食べたら?」

    もう一度、視線を交わして。
    澄ました顔を繕って、氷雨はグラッセにフォークを刺した。
    あとは口に入れるだけ、けれど一瞬躊躇うように間をおいた彼女を見て、藍が微笑む。

    「…ひーちゃん、食べないの?」
    「えぇ、良いですよ食べますよ、藍さんこそ、早くお食べなさいな」
    「分かってるよ、食べられなかったら罰ゲームでもなんでも持ってきなよ」

    売り言葉に買い言葉。
    周りの面々が面白そうに見守っているのにも気づかず、二人はさらに言い合いを過熱させていく。

    「あぁじゃあこうします?わたしがこれ食べ切れたら、馬鹿にしたお詫びってことで藍さん女装してくださいよ」
    「いーよ分かったよ、じゃあおれがこれ完食したらひーちゃん猫耳メイド着てよ!?」
    「なんでメイドなんですか!だったらふりふりロリータ服着せて差し上げます!」
    「ならひーちゃんはその恰好でゆーくんに『にゃーん』って言うんだよ!?もちろんポーズ付きでねっ」
    「分かりましたよやってあげようじゃありませんか!女に二言はありませんから!」
    「それはこっちの台詞だよ!」

    負けず嫌いの意地っ張り。
    普段は勝負事になんて興味がないくせに、どうしてこんなところで白熱してしまうのか。
    苦笑する兄弟や友人たちの前、二人はそう叫んでそれは勝気な笑みを浮かべた。
    そして次の瞬間、意を決したように二人同時に手をつける。

    無理やり流し込むようなはしたない真似は、絶対にしない。
    あくまでも優雅に、丁寧に。
    それこそきちんと味わって、グラッセとピーチ・メルバを胃に落としていく。

    「「…ごちそう、さまでした」」

    食器を置いたのはほぼ同時。
    ナプキンで口元を押さえ、軽く頭を下げた。
    勝利を確信したのはほんの一瞬、二人はすぐに先ほどの会話を反芻して、あれ?と首をかしげた。

    頭の中で巻き戻して。
    何かが可笑しいことに気付く。

    「「…ん?」」

    ちょっと待て。
    罰ゲームの条件は、何だった?

    「…わたしが食べ切れたら、藍さんが女装で?」
    「おれが食べきったら、ひーちゃんが猫耳メイド?」
    「「…あ、れ?」」

    食べきれなかったら罰ゲーム、ではなくて。
    食べ切れたら、罰ゲーム。
    これって結局――お互いが食べきってしまえば、どっちにも、利点はない。

    「「…しまった」」

    考えなしに突っ走って、可笑しなことを口走った。
    即座に代替案を出そうと口を開きかけるが、それより先ににこやかに手を上げたのは風姫だ。
    …その手には、たいそう可愛らしいヘッドドレスを持って。

    「はい、藍くん!」

    ふりふり、ひらひら。
    差し出されたのは、可憐なレースが叩きつけられた、オフホワイトのヘッドドレス。

    「…あぁ…うん…」
    「男に二言はない、そうよね?」

    確かに、可愛い。
    ただしそれを、自分が付けるのでなければと藍は遠い目をした。

    「…姫君、いったいそれどこから出したの…」
    「あ、ねぇねぇスカート小花柄とチェックとどっちが良い?」
    「えー、藍にはチェックの方が良いんじゃないの」
    「お願いだから蓮君ナチュラルにアドバイスとかしないでよ…」

    氷雨と自分だけだったら、すぐにもっと楽な代替案を出せたのに。
    風姫の笑顔には逆らえず、力ない手で藍はヘッドドレスを受け取った。
    人生は諦めが肝心だ、もう絶対に逃げられやしないことを悟った目をして。
    ゆるゆると傍らに目をやると、同じく絶望したような表情で氷雨がメイド服を受け取っている。

    「ねぇ蒼さんこれどっから…」
    「気にするなお嬢」
    「大丈夫だろ、春日なら似合うって」
    「ちっともフォローになってない慰めをありがとう、青さん」

    別にメイド服に偏見があるわけではないのだ。
    あの清楚でクラシカルな装いは、見ている分には確かに可愛いと思う。
    ただ、それはあくまでも見ている限りで在って、一応常識的な判断基準を持っていると思いたい氷雨としては猫耳メイドはちょっと恥ずかしすぎる。

    ヒートアップするとたまに暴走してしまうから、注意が必要だって思ってたのに。
    可笑しな方向に捻じ曲げた条件を出してしまった自分を、心から恨んだ。

    「…さて、とっ」

    風姫がにこりと微笑む。
    花のような、可愛らしい表情。
    けれどそれを見て、氷雨と藍の背筋は思い切り冷えた。

    「…手加減なんて、してあげると思ったら大間違いよ?」

    その言葉に深くふかく項垂れる二人が居たとかいなかったとか。

    (口は災いの角、言うでしょう?)




    第二回仮想現実ミーティングにて椎さんと話してたネタです。
    後半戦は気が向いたら書きます(笑)
    つまりは女装&メイドコスしてる最中のお話。

    ぜったい可愛いと思います、藍も氷雨も。
    きっと椎さんがイラスト描いてくれるから、みなさん要チェックですよっ☆

    くだらないネタにお付き合いいただきありがとうございました!(笑)

    オルゴールの人形劇。

    ※仮想世界。
    だけど出てくるのは優と氷雨だけです…すみません。
    二人が付き合いだすときのお話。




    「…かすが ひさめちゃん、だよね?」

    彼がその顔ににっこり笑みを浮かべると、対峙した彼女からは薄く淡く、当惑したような表情が向けられた。
    それから彼女はすぐに笑顔を作って、丁寧に顎を引く。

    綺麗な、表情。
    自分の魅力をきちんと知っていて、けれど最後にそれを突き放したような。
    己とよく似たにおいを嗅ぎ取って、彼は穏やかに微笑む。

    「えぇ、そうです。…えーと、五十嵐先輩、ですよね?」
    「覚えててくれて光栄だな」
    「格好良くて物腰の柔らかい、素敵な先輩がいるって聞いていましたから」

    今年は新入隊員の当たり年。
    誰かが囁くその噂は、すぐに彼、五十嵐 優の耳にも入った。

    どこそこに配属された子は可愛い。
    いやいやこちらは美人だ。
    そういった会話を、どこか冷めた面差しで受け流す。
    優はさほど可憐な美少女といった存在には興味を動かされなかったけれど、そんな中でたった一人、彼女だけは意外なほどに目を引いた。

    『かすが ひさめです。よろしくお願いします』

    春日 氷雨。
    甘い春の日に降る、冷やかな氷の雨。

    冗談のような名前を持った、新入隊員の一人。
    別にモデルのような華やかな顔をしているというわけでも、とびきりスタイルが良いわけでもない。
    どちらかと言えば子供っぽい顔立ちで、目の上で切り揃えられた前髪がそれをさらに印象付けていた。

    ただ、彼女はその幼い風貌――聞けば、高校卒業と同時に入隊したから二十歳にもなっていないのだ――とは不釣り合いなくらいに大人びていた。
    否、大人であろうとしていた。
    子供が背伸びして大人のように振る舞っている風ではなく、彼女は完全に「大人」をやっていたのだ。

    人好きのする態度を心得ていて、適度な間合いで絶妙な微笑を見せ。
    それでいて何もかもどうでも良さそうに突き放している。
    穏やかで甘い、完璧な笑顔の仮面は誰かが近づくことを徹底的に拒否する。
    そんな春日 氷雨に、優はものすごく興味を持った。
    だからこうして、滅多に近づけることのない己の世界を彼女に寄り添わせたのだ。

    悪戯っぽく見上げる氷雨の瞳に、大げさな苦笑を映してみせる。

    「おやおや、ずいぶんと買い被られたね俺も」
    「あら、ご謙遜を」
    「君こそ、頭が良くて可愛らしいコだって評判だよ?」
    「それは嬉しいお言葉ですね」

    よどみなく交わされる、テンポの良い言葉たち。
    おどけたような表情、けれど奥の見えない瞳。
    それはきっと、優も同じだ。

    「…ところで、氷雨ちゃん」

    優はすい、と顔を寄せる。
    女受けの良い、綺麗な顔を。
    ここで恥じらって頬でも染めたら可愛げもあるのだが、彼女は少しも動じない。
    チークをほとんどのせていない白い頬は、変わらずその色を保っている。

    「なんでしょう?」
    「君は、他人に興味がない。そうだろう?」

    唐突に浴びせかけられた質問に、今度は少し驚いたようだった。
    唇がわずかに動いて、けれど言葉を発することなくもとの形に戻る。

    「…唐突ですね」
    「そうかな。だけど事実だと思うよ」

    春日 氷雨は、世界に期待していない。
    それは、五十嵐 優にとっては紛れもなく真実だった。

    世界に期待も執着もしていない彼女。
    だからこそ誘いをあっさりと断れるし、適切な表情を瞬く間に作り上げることが可能なのだ。
    恐ろしく器用で、そのくせちっとも上手い手段ではないそれ。
    生身の自分で接することを諦めた、どうしようもない防衛本能。

    傷付くのが怖いからか。
    己の意識を預けることが不安だからか。
    それはまだ、誰にも分からないけれど。

    「ねぇ、だから」

    少しだけ青ざめたように見える氷雨の貌を見ながら、優は微笑む。
    別に君を怖がらせたいわけでも、傷つけたいわけでもないんだ。
    ただ、ただほんの少しだけ、その興味の欠片を俺にくれたら良い。
    そしたら、俺も興味の欠片を君に捧げるから。

    「――俺と、付き合ってくれませんか?」

    場違いですらあるような、声。
    最初と同じ、にこやかな笑顔で優は小首を傾げる。
    驚いた、というよりは呆れたような顔で、氷雨はゆっくりと顔を上げた。

    「…ほんとうに、唐突」

    ふっと短く息を吐いた。
    鉄壁の笑顔の仮面、だれしもに愛想を振りまきながら、そのくせ誰も認めず寄せ付けない壁。
    その下から、はじめて生身の彼女が顔をのぞかせたような、そんな顔で。

    「嫌?俺、けっこうお買い得だと思うんだけど」

    自分で言うのもなんだけど、頭も良いしルックスだってなかなかのモノだよ。
    女の子に優しく出来ないような男でもない。
    そう語る優の頬のあたりを眺めて、氷雨はすこし肩をすくめた。
    それを見て、さらに続ける。

    「俺は君に興味があるし、恋愛の対象として見ているよ。君はどう?俺に興味、あるでしょう?」
    「…そう、ですね。興味がないと言えば、嘘になりますけど」
    「じゃあ良いじゃない。大丈夫だよ、ちゃんと恋愛感情だって持たせてあげる」

    微笑めば、彼女も笑って。
    交渉成立、冗談めいた口ぶりで手を差し出す。
    その手と握手を交わして、それから優は彼女の手の甲に恭しくキスをしてみせた。

    「よろしく、氷雨」
    「えぇ、こちらこそ優さん」

    取り澄ました顔でそう言った彼女が、三ヶ月後にはぎこちなく顔を背けるようになったところを見ると、どうやら彼の宣言は果たされたらしい。




    藍くんに「なんでひーちゃんとゆーくんって付き合ってるの?」と聞かれたので書いてみた。

    うちの優と氷雨があんまり素直になれない理由的な。
    こんな風にお付き合いがスタートしてしまったので、なんとなくプライドが邪魔するのです。

    優が余裕ぶっこいてますが、先に惚れたのは彼の方。
    氷雨はまんまと彼の策略におちました。
    最後のは意識しちゃうと急に恥ずかしくなるよね、みたいな!

    …それにしても優が性格悪いな!(そう書いたのはだれだ)

    世界を繋いで。

    ※メモともこばなしともつかない、世界のどこかで誰かが呟いた独り言。



    大事な人に巡り合えた奇跡を、いったい誰に感謝すればいいのかを彼女は知らない。
    優しい人に、その人の見る景色がうつくしく在るようにと祈らずにはいられない人に。
    出逢えた素晴らしい一瞬を、誰に向かって感謝すればいいのか分からなかった。

    神様に感謝したら。
    彼女の母はそう言った。
    けれど彼女も、そしてその母親も、さほど神様を信じてはいないことに気付いて苦笑する。
    そこに感謝をささげるのは、もし居るとしたらその神様にだって失礼な話だ、と呟く。

    それでも、誰かに、何かに。
    感謝の言葉を言いたかった。

    どうしてこんなにも、自分の周りには優しい人がいるのだろうと考えた。
    あんまりにも幸福で、得難いと思っていたから。
    何を語る時よりも真っ直ぐに、彼らについて彼女は大好きだと叫べる。
    その人たちと縁を繋げたことは、彼女にとっては紛れもなく宝物だ。
    考えると穏やかに心音が落ち着く、そんな宝物。

    神様に感謝をするのが可笑しいというならば。
    ならば、と呟く。

    ならば、自分は。
    彼らと、わたしの世界に感謝をしよう。

    縁を繋いでくれた、愛しい彼らに。
    彼らが大切だと知っている、己の世界に。
    たくさんの愛と、感謝を捧げよう。

    どうかどうか、明日彼らが見る世界が優しく在ればいい。




    ちっさいメモ。
    どっちに分類していいか分からなかったので、とりあえず小話に。
    ちょいちょいこういうのがあるんですが、その度に実は悩んでます(笑)

    大事すぎてどうふれたらいいのか分からないくらいに、好きなのですよ、というお話。
    相変わらずぶきっちょな人々を描くのが好きです。
    でもなんか、そういう一生懸命な人が幸せだったら良いなぁ、と思います。

    目指せ世界平和!!(壮大だなおい)

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    祈月 凜。
    年齢:
    34
    性別:
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    誕生日:
    1990/10/10
    職業:
    学生。
    趣味:
    物書き。
    自己紹介:
    動物に例えたらアルマジロ。
    答えは自分の中にしかないと思い込んでる夢見がちリアリストです。
    前向きにネガティブで基本的に自虐趣味。

    HPは常に赤ラインかもしれない今日この頃。
    最近はいまいちAPにも自信がありません。
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