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書きたいものを、書きたいときに、書きたいだけ。お立ち寄りの際は御足下にご注意くださいませ。 はじめましての方は『はじめに』をご一読ください。
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    オルゴールの人形劇。

    ※仮想世界。
    だけど出てくるのは優と氷雨だけです…すみません。
    二人が付き合いだすときのお話。




    「…かすが ひさめちゃん、だよね?」

    彼がその顔ににっこり笑みを浮かべると、対峙した彼女からは薄く淡く、当惑したような表情が向けられた。
    それから彼女はすぐに笑顔を作って、丁寧に顎を引く。

    綺麗な、表情。
    自分の魅力をきちんと知っていて、けれど最後にそれを突き放したような。
    己とよく似たにおいを嗅ぎ取って、彼は穏やかに微笑む。

    「えぇ、そうです。…えーと、五十嵐先輩、ですよね?」
    「覚えててくれて光栄だな」
    「格好良くて物腰の柔らかい、素敵な先輩がいるって聞いていましたから」

    今年は新入隊員の当たり年。
    誰かが囁くその噂は、すぐに彼、五十嵐 優の耳にも入った。

    どこそこに配属された子は可愛い。
    いやいやこちらは美人だ。
    そういった会話を、どこか冷めた面差しで受け流す。
    優はさほど可憐な美少女といった存在には興味を動かされなかったけれど、そんな中でたった一人、彼女だけは意外なほどに目を引いた。

    『かすが ひさめです。よろしくお願いします』

    春日 氷雨。
    甘い春の日に降る、冷やかな氷の雨。

    冗談のような名前を持った、新入隊員の一人。
    別にモデルのような華やかな顔をしているというわけでも、とびきりスタイルが良いわけでもない。
    どちらかと言えば子供っぽい顔立ちで、目の上で切り揃えられた前髪がそれをさらに印象付けていた。

    ただ、彼女はその幼い風貌――聞けば、高校卒業と同時に入隊したから二十歳にもなっていないのだ――とは不釣り合いなくらいに大人びていた。
    否、大人であろうとしていた。
    子供が背伸びして大人のように振る舞っている風ではなく、彼女は完全に「大人」をやっていたのだ。

    人好きのする態度を心得ていて、適度な間合いで絶妙な微笑を見せ。
    それでいて何もかもどうでも良さそうに突き放している。
    穏やかで甘い、完璧な笑顔の仮面は誰かが近づくことを徹底的に拒否する。
    そんな春日 氷雨に、優はものすごく興味を持った。
    だからこうして、滅多に近づけることのない己の世界を彼女に寄り添わせたのだ。

    悪戯っぽく見上げる氷雨の瞳に、大げさな苦笑を映してみせる。

    「おやおや、ずいぶんと買い被られたね俺も」
    「あら、ご謙遜を」
    「君こそ、頭が良くて可愛らしいコだって評判だよ?」
    「それは嬉しいお言葉ですね」

    よどみなく交わされる、テンポの良い言葉たち。
    おどけたような表情、けれど奥の見えない瞳。
    それはきっと、優も同じだ。

    「…ところで、氷雨ちゃん」

    優はすい、と顔を寄せる。
    女受けの良い、綺麗な顔を。
    ここで恥じらって頬でも染めたら可愛げもあるのだが、彼女は少しも動じない。
    チークをほとんどのせていない白い頬は、変わらずその色を保っている。

    「なんでしょう?」
    「君は、他人に興味がない。そうだろう?」

    唐突に浴びせかけられた質問に、今度は少し驚いたようだった。
    唇がわずかに動いて、けれど言葉を発することなくもとの形に戻る。

    「…唐突ですね」
    「そうかな。だけど事実だと思うよ」

    春日 氷雨は、世界に期待していない。
    それは、五十嵐 優にとっては紛れもなく真実だった。

    世界に期待も執着もしていない彼女。
    だからこそ誘いをあっさりと断れるし、適切な表情を瞬く間に作り上げることが可能なのだ。
    恐ろしく器用で、そのくせちっとも上手い手段ではないそれ。
    生身の自分で接することを諦めた、どうしようもない防衛本能。

    傷付くのが怖いからか。
    己の意識を預けることが不安だからか。
    それはまだ、誰にも分からないけれど。

    「ねぇ、だから」

    少しだけ青ざめたように見える氷雨の貌を見ながら、優は微笑む。
    別に君を怖がらせたいわけでも、傷つけたいわけでもないんだ。
    ただ、ただほんの少しだけ、その興味の欠片を俺にくれたら良い。
    そしたら、俺も興味の欠片を君に捧げるから。

    「――俺と、付き合ってくれませんか?」

    場違いですらあるような、声。
    最初と同じ、にこやかな笑顔で優は小首を傾げる。
    驚いた、というよりは呆れたような顔で、氷雨はゆっくりと顔を上げた。

    「…ほんとうに、唐突」

    ふっと短く息を吐いた。
    鉄壁の笑顔の仮面、だれしもに愛想を振りまきながら、そのくせ誰も認めず寄せ付けない壁。
    その下から、はじめて生身の彼女が顔をのぞかせたような、そんな顔で。

    「嫌?俺、けっこうお買い得だと思うんだけど」

    自分で言うのもなんだけど、頭も良いしルックスだってなかなかのモノだよ。
    女の子に優しく出来ないような男でもない。
    そう語る優の頬のあたりを眺めて、氷雨はすこし肩をすくめた。
    それを見て、さらに続ける。

    「俺は君に興味があるし、恋愛の対象として見ているよ。君はどう?俺に興味、あるでしょう?」
    「…そう、ですね。興味がないと言えば、嘘になりますけど」
    「じゃあ良いじゃない。大丈夫だよ、ちゃんと恋愛感情だって持たせてあげる」

    微笑めば、彼女も笑って。
    交渉成立、冗談めいた口ぶりで手を差し出す。
    その手と握手を交わして、それから優は彼女の手の甲に恭しくキスをしてみせた。

    「よろしく、氷雨」
    「えぇ、こちらこそ優さん」

    取り澄ました顔でそう言った彼女が、三ヶ月後にはぎこちなく顔を背けるようになったところを見ると、どうやら彼の宣言は果たされたらしい。




    藍くんに「なんでひーちゃんとゆーくんって付き合ってるの?」と聞かれたので書いてみた。

    うちの優と氷雨があんまり素直になれない理由的な。
    こんな風にお付き合いがスタートしてしまったので、なんとなくプライドが邪魔するのです。

    優が余裕ぶっこいてますが、先に惚れたのは彼の方。
    氷雨はまんまと彼の策略におちました。
    最後のは意識しちゃうと急に恥ずかしくなるよね、みたいな!

    …それにしても優が性格悪いな!(そう書いたのはだれだ)

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    自己紹介:
    動物に例えたらアルマジロ。
    答えは自分の中にしかないと思い込んでる夢見がちリアリストです。
    前向きにネガティブで基本的に自虐趣味。

    HPは常に赤ラインかもしれない今日この頃。
    最近はいまいちAPにも自信がありません。
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