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書きたいものを、書きたいときに、書きたいだけ。お立ち寄りの際は御足下にご注意くださいませ。 はじめましての方は『はじめに』をご一読ください。
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    別れの言葉を花束に。

    ※仮想世界にて、藍と風姫。
    大半が藍のモノローグ。
    前半暗いので注意。



    この手で守れるものって、いったい何なんだろう。

    小さな、とても小さな鳥を見つけた。
    それは怪我をしていて、うまく飛べないみたいだった。

    「……」

    それを、その鳥を。
    怪我が治るまで飼ってやろうと、そう思った。

    鳥を飼うには、カゴが居る。
    鳥籠を買ってこよう、居心地のよさそうな、綺麗なやつを。
    考えてからの、行動はとても速かった。

    お腹が空かないようにたくさんの餌と、水の入ったお皿を大きめの箱に入れた。
    その中に傷ついた鳥をいれて、寒くないようにとタオルも入れて。
    割りばしで上に覆いをかけた。

    「行ってらっしゃい」

    意気揚々と出かけていくおれの背中に、兄ら二人はただただ視線を向けていた。
    穏やかな声を受けながら、自転車を走らせてホームセンターに向かう。

    「(どういうのが良いのかな)」

    鳥は小さかったから、カゴもあまり大きすぎないものの方が良いのだろうか。
    それともあちこち飛び回れるように、大きめの方が良いのかもしれない。

    動物を保護するなんて初めてのことで、考えるのがすごく楽しかった。

    結局、買ったのは少し大きめのもの。
    止まり木が上下二段についていて、水飲みもセットになった奴。
    きっとこの中なら、あの小鳥も快適に過ごせるだろう。
    そう、思った。

    「おかえり」

    帰って来たおれを迎えたのは、変わらず静かな兄の声。
    そして、あの小さな鳥は、息をしていなかった。

    「…もともと、長くはなかったんだ」

    蒼兄さんは、囁くみたいにそう言った。
    冷たい小鳥、あぁ、可哀想な事をしたなとぼんやり思った。

    「無駄じゃなかったよ、お前がしたことは」

    青にーさんは、掠れた声でそう言った。
    飛ぶことのなかった小鳥、なんてあっけないんだろうと感じた。

    奪うばかりで、いつだって。
    おれは、おれたちは、きっと神様に見放されてる。
    それくらい最初から分かっていたことで、だからこそ守れる命なら守ってやりたかったんだ。

    「…これ、どうにかしてくる」

    一度だって小鳥が入ることのなかった鳥籠。
    抱えて踵を返したおれを、兄らは静かに見守っていた。

    +++

    「藍くん?」

    鳥籠を抱えたまま歩いていたおれの前。
    見知った彼女が通りかかった。
    ポニーテールに纏められた髪が揺れて、セーラー服のスカートが翻って。
    それを見ながら、機械的に頭を下げる。

    「どうしたの?珍しいね、こっちの方までくるなんて」

    よく変わる表情。
    笑って、拗ねて、驚いてはまた笑って。
    時折怒って、そして丁寧に泣く。

    おれと違って、呼吸の宿った感情を持った人。

    「…藍、くん?どうしたの、元気がないね」

    ほら、今も。
    姫はそう言って、気遣うような表情を見せる。
    それからおれの腕の中で沈黙する、空っぽの鳥かごを見つめた。

    「…それを、捨てに行くの?」

    恐ろしいくらいに察しが良い。
    そう思って、笑った。
    だけど上手く笑えていたかは、彼女の少し険しくなった表情を見るにどうやら失敗していたらしい。
    こと、とこちらに歩み寄ってくる姫のローファーが音を立てた。

    「そう、もう使わないから」

    ふれた金属は、冷たくて。
    あの小鳥はもしかしたら、こんなに冷たい籠に入ることがなくて幸せだったのかな、と無理やりのように考えた。
    あぁだけど、おれはこの中で囀る小鳥が見たかったのかもしれない。

    別に、それほど執着していたわけじゃないんだ。
    だって、見つけてからまだほんの少ししか経っていなくて。
    変わらないだろう?何もかも、元通りだ。
    何も持っていない両腕が、残っただけの話。

    なのにどうしてかな、ひどく空洞めいた感情だけがあるのは。

    「…ねぇ、藍くん」

    人形めいた指が、鳥籠を撫でる。
    顔をあげると、けれど彼女はおれを見てはいなかった。

    まるで、この中に。
    飛び回る小鳥が居るみたいに、姫は目を細めて。

    「泣かないと、忘れちゃうのよ」

    謳うように、そう言った。

    「反復しないと、感情って忘れちゃうの。学習なのよ?感情を表現することって」

    淡々とした声。
    誰かに似ている気がして、眉を寄せた。
    だけど残像を結ぶことなく、声だけが流れていく。

    「悲しい時は泣かなくちゃ。でないと、大切な時に泣けなくなってしまうよ?」
    「…別に、悲しくはないよ。もともと、なかったものだから」

    この手でなにかを包めると思ったことが、そもそもの間違いだったんだから。
    返す俺に、姫は悲しそうに哀しそうに微笑んだ。

    「だめだよ、忘れちゃ。感情をひとつ忘れると、みんな忘れてしまうから」

    そう言って、彼女は。
    おれの腕から、抱きとめるようにして鳥籠を奪う。
    あ、と思った時には、姫は背中を向けていた。

    「――姫、」

    現実感のないその人は、振り返らずに視界から消えた。
    変わらずからっぽの腕の中、あぁだけどそうだ、確かにここにはいたのだと理解する。

    ――嗚呼、嗚呼。

    「…っ」

    視界がぶれた。
    目の奥が熱くて、喉が焼けそうで。
    痛い、いたいイタイ。
    ああ、どうしてこんなにも心臓が痛いんだろうな。

    頬を濡らして、袖口を濡らして。
    告げることすら躊躇ったささやかな「さよなら」を、おれは初めてその小鳥に捧げた。

    (カゴには惜別の花束を飾りましょう)




    ランを泣かせてみたくて書いてみた。
    不器用でなかなか泣けない住人達が愛おしいのです。

    しんみりなネタで申し訳ない…次はちゃんと明るいのを書きたい(希望)
    がしがし書くぞー!
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    1990/10/10
    職業:
    学生。
    趣味:
    物書き。
    自己紹介:
    動物に例えたらアルマジロ。
    答えは自分の中にしかないと思い込んでる夢見がちリアリストです。
    前向きにネガティブで基本的に自虐趣味。

    HPは常に赤ラインかもしれない今日この頃。
    最近はいまいちAPにも自信がありません。
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