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書きたいものを、書きたいときに、書きたいだけ。お立ち寄りの際は御足下にご注意くださいませ。 はじめましての方は『はじめに』をご一読ください。
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    溶け落ちる舞台で。

    ※「氷上の喜劇」の続き。



    間近で響いた靴音。
    躍り出た『彼ら』は、舞台を駆ける「猟犬」。
    真っ直ぐに向け合った互いの武器が、鈍く光る。

    「氷雨さん…?それに、優さんも」

    蓮が先ず声を上げた。
    最初に彼が想い浮かべた、心当たりのある軍部の人間がこの二人だ。

    春日 氷雨と五十嵐 優。
    まだ年若いながらも優秀な軍人で、蓮は父を通じてこの二人を知っていた。
    優がにこりと、軍人にしてはずいぶんと上品な顔を笑みで彩る。

    「ご無事でしたか」
    「ねぇ、待ってこの人たちは、」

    言いかけて口を開くが、笑顔でそれを封じられる。
    第一、蓮は彼ら三人を語る言葉を持っていないことに気付いて口をつぐんだ。
    おぼろげな残像すら結べず、無力さに唇をかむ。

    不意に、氷雨が鉄パイプをかざしたまま訝るような声を上げた。

    「貴方…パーティの…?」

    見つめた先に居たのは、黒髪の青年。
    そしてこちらは悪いことに、『顔見知り』であった。
    ひと月ほど前に行われたパーティ会場。
    突然煙が上がってパニックに陥ったそこで、氷雨は彼に会っていた。

    彼――狙った標的を一度たりとも仕留め損ねたことはないという、稀代の殺し屋の兄弟。
    その長男である、鳥海 蒼と。
    続く弟は青、末の弟は藍。
    当然、彼と彼女にとっては敵であるはずの。

    「…貴方がたのこと、調べさせていただきました」
    「おや、それは嬉しいなお嬢さん」
    「ふざけないでいただけます?」

    返す声は、硬い。
    それは三人の目指すものを、心のどこかで認めているからかもしれないけれど。
    聞こえないふりをして、氷雨は三人をにらんだ。

    「…蓮様と風姫様を助けてくれたことには、感謝するけどねぇ」

    場違いに穏やかな声は、優のもの。
    柔和な笑顔を浮かべたまま、けれど彼の銃の先は蒼に向いたままだ。
    そしてそこに返されているのは、蒼の刀。
    互いに武器を向け合ったまま、にっこりと笑う。

    「一応今回は人命救助をしたつもりだが?」
    「救助の為に人を殺したら、意味がないと想わない?」

    ただし、それをされても文句を言えない人間だったのは事実。
    分かっているけれど、命がすべて平等であると説かなければいけない立場にいるのだ。
    こうして糾弾することしかできない己は、なんと弱いことか。

    …今回。
    こんな手段に出た人間は、恥ずべきことに軍の上層部にいる。
    上層部には蓮の父親の名前があるのだ、それを知っているからこその行動。
    自分の手を汚さずに舞台の向こう側で糸を引いているのは、優や氷雨の頭上にいる人間だと知っていた。

    「(…夢見た軍人には、程遠いね)」

    優は喉奥で笑った。
    軍は民の味方、正義を重んじ人の為に在るもの。
    そう信じてこの道を選んだ、だけどそんなの、嘘でしかない。

    真実を事実にできず、虚構に塗り固められた物語だけを告げ。
    それが彼らの存在意義になり変わっていた。

    「…ひとつ、質問をしても良いかな」

    武器は下ろさずに、優が問う。
    隣の氷雨が微かに眉を寄せたが、彼は微笑んだままだ。

    「参考までに聞きたいんだけど。どうして、こんなことをしたの?」

    本当に間違っているのはだれか、知っているのだろう?
    そう問うような、優の口調。

    誰が間違っていてだれが正しいのか。
    何が正義で、何が悪なのか。
    その答は、きっと誰もが持っている。

    「…そうだな」

    弟たちの視線を受けて、蒼は笑った。

    「正義のヒーローになりたかったから、かな」

    ふざけた応え。
    けれど彼の二人の弟は、確かに笑った。
    それを見ていた氷雨の顔が、泣きだしそうに歪む。

    やり方は間違っていることを知っている。
    だけど、これより他に取れる手段があっただろうか。

    ――気が触れていると、笑いたければ笑えば良い。

    「…正義のヒーロー、ね」

    嗚呼、嗚呼。
    失った正しさを見つけた気がして、優は悲しいくらいだった。
    そうして自分はなくしてしまったのか、その答すらもう見つからない。
    蒼がゆっくりと首を傾げる。

    「なぁ軍人さん。自分からも一つ、質問しても?」
    「俺に応えられるものならね」

    なら、と前置きされる。
    だけど優は、向けられる問いを知っているような心地がした。
    頭の中でそっくりそのまま、彼の言葉をシャドウのようになぞる。

    「なぁ、どうしてお前たちは軍人になった?」

    敢えて投げかけられたのは、複数形での形。
    氷雨が耐えきれないように眼を伏せた。
    細かく震えた睫毛、彼女には少しだけ酷かもしれない問い。
    項垂れた横顔を眺めて、優は口を開いた。

    「…そうだね。正義のヒーローになりたかったから、だよ」

    ――本当は、本当は。
    正義のヒーローに、なりたかったんだ。
    誰かの為だと胸を張って言えることを、したかったんだ。

    「(ごめん、ね)」

    夢を見ていた。
    この世界が本当に、清らかで正しいのだという夢を。
    それを守るために戦えるのだと、本気で信じていた。

    その想いに、嘘はない。
    ただ思っていたよりも、自分がいる場所が汚れていただけで。
    自分たちの手が、気付いたら汚れていただけで。

    「なれなかったけどね。俺は、…俺たちは」

    優は笑った。
    そして、蒼に向けていた銃をゆっくりと下ろす。

    「…何を?」
    「別に?」

    それどころか、あっさりと銃を戻してしまう。
    じっと見つめていた蓮と風姫が息をのみ、三兄弟たちも目を見張る。
    咎めるように氷雨が声をあげた。

    「優、さん?」

    けれどその声は、どこか弱い。
    だって彼女も知ってるのだ、正義を夢見た自分達が正義の為に出来る、限界を。
    正義の御旗のもとにいる自分たちこそが、正義からかけ離れた場所にいることを。

    軍が本当に正義であるならば、こんなところに『彼ら』はいない。

    「…はい氷雨は何も聞いてなーいっ」

    突然、ふざけた調子で優がそう言って、氷雨の耳を塞いだ。

    「え、ちょ、優さんっ!?何して…」
    「申し訳ありませんね、蓮様。このことはどうぞご内密に」
    「…だいたい話は読めた」

    蓮が苦笑する。
    それを了承の合図に、優は自分の後ろの窓を目線で示した。
    彼らがいる部屋のすぐ下には、張り出した屋根がある。
    そこに上手く降りられれば、楽に地面に降りることが可能だ。
    おそらくここが一番手軽で安全な脱出ルートだが、それを知っているのは軍の人間だけだった。

    「この窓からなら、楽に外に出られるよ。今なら見張りもいないし」
    「…教えちゃって、言いわけ?」

    背後にあるのは、嵌め殺しの窓。
    それを示す優に、三兄弟が訝るように眼を細くした。
    けれど優は笑って、同じ言葉を繰り返す。

    「早く逃げなよ。人が来る」
    「…それで、良いのかよ?軍人のくせに」
    「…優さん、」

    不意に、氷雨が耳をふさぐ優の手にふれた。
    察して手をどかすと、彼女は手にしていた鉄パイプを握りなおして。
    何をするかと思っていると、いきなりそれを振りかぶった。

    「うわっ!?」

    砕け落ちる窓ガラス。
    叩き割るというよりは突き破ったせいか、音は鈍く耳に響いて。
    見た目に似合わない行動を取った彼女を見つめると、顔をそむけたまま吐き捨てられる。
    それが彼女に出来る精一杯なのだと、理解するのは容易かった。

    願った正義は、まだこの手の中に在るのだろうか?

    「…早くお逃げになったら如何ですか」

    正義を夢見たヒーローは、此処にも。
    ちいさく苦笑をこぼして、蒼は弟たちを促す。

    「行くぞ」
    「「了解」」

    窓に足をかけると、彼らの背後を声が追う。

    「またね、ヒーローさん」

    笑ったのは風姫だ。
    振り返れば、蓮も隣で唇に指を立てていて。
    はまったピースの音は、誰もが聞いていたことを知る。

    遠くなる足音を聞きながら、優はふっと笑った。

    「さて、蓮様に風姫様。ちょっとその辺に座って茫然としててもらっていいですか?」

    つまりは口裏を合わせろってことか。
    合点がいった蓮は肩をすくめて、言われたとおりに風姫と二人、床にぺたりと座りこむ。

    「あー、泣いててあげようか?怖かったよって」
    「目薬、お使いになられます?」
    「あ、あたし貸して欲しい」

    氷雨の手から目薬を受け取って、風姫が目尻にそれを注す。
    思い切り眉根を寄せれば、見る者誰もが胸を痛めるような泣き顔の完成だ。
    それをかばうように氷雨が肩を抱いたところで、ようやく彼らの援軍の足音が聞こえてくる。

    知らず彼らは、祈るように目を伏せていた。
    どうかヒーローよ、君たちの目指すところにこそ正義が在ればいいと。

    蓮と風姫の顔から、表情が消える。
    それを見てすぅ、と優と氷雨は息を吸い込んだ。
    出来る限り精一杯の、心配そうな表情を作って肩をゆする。

    「――大丈夫ですか、しっかりしてください!」

    愛すべき我らがヒーローの為に。
    思いおこしたら笑ってしまうような茶番を、演じてみせましょう。



    お…終わった…。
    すごい書きたかったのに書き始めたらもうグダグダです。
    そのうちさりげなく手直しとか加えておきたいです。
    こっそりと、えぇこっそりと。

    「歯車」と関係ないとか言いながらちょっとだけ関係させてみました。
    でもたぶん書いても書かなくても問題ないレベルなんだぜ…!!

    とりあえず根詰め過ぎたのでそろそろ眠いです。
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    氷上の喜劇。

    ※仮想世界にて。
    でも「神様も知らないような世界を見つめるあの人の横顔」から繋がっています。
    ちょっと真面目に出会ってみようか、な人々です。
    改訂版。



    遠くの方で、銃声が聞こえた気がした。
    猟犬のような動きで、蓮と風姫は顔を上げる。

    「…!?」
    「なに、いまの…」

    否、銃声のような音、という方が正しいか。
    自分たちの存在の方がよほど現実味を欠いているというのに、彼らにとってそれはドラマや映画の中でしか聞いたことのない、現実感のない音だから。
    けれど徒に首筋を駆け上がる寒気が、恐怖と焦燥を誘っていく。

    「…」

    向かってくる足音は、三つ。
    扉を開けるのは、天使か悪魔か。
    それでも縋るほかないのだろう、そう思うと自然笑みがこぼれた。

    無意識に呼吸を数えて、足音が近づいてくるのを待つ。
    がこん、と一度だけ鈍い音がして、その重たげな扉がゆっくりと開いた。

    「!?」
    「あ、居たよ兄さん」

    扉の向こう。
    ひょい、と顔を覗かせたのは――少年。
    しかも、自分たちとさほど年の変わらない、まだ幼げな風貌をしている。

    思わず警戒心を解きそうになるが、よくよく考えてみたらこんなところに一般人が入れるわけがないのだ。
    思い至って、すぐに眉根を寄せる。

    「だ、れ…?」
    「あぁ、こいつらか」
    「なんだ、まだガキじゃねぇか」

    続けて顔を出したのは、長い黒髪がうつくしい青年。
    それから、鮮やかなピンク色の髪の少年だ。
    誰に警戒をしていいのかさっぱり分からず、蓮と風姫は顔を見合わせる。

    一体何が起こっているのか。
    説明してくれる人物がいるなら、是非ともお願いしたいところだ。
    青年は、気遣うように蓮たちを見る。

    「怪我はないか」
    「え、えぇ…」
    「…誰なの?貴方たちは」

    蓮の思い切り不審そうな声に、三人はくすりと笑った。
    どうしてここで笑えるのかが、蓮には理解が出来ない。
    信用に値する人物なのかも判断がつかず、ただ己の腕を強く抱いた。

    「…いや、驚かせて悪かったな。自分たちは、君ら二人を助けにきた、とでも言えばいいのかな」
    「…助けに、きた?」

    蓮はますます眉を寄せる。
    彼を助けに来るというのならば、本来であれば彼の家のSP(こう見えても富豪の大事な一人息子なのだ)が真っ先に駆け付けるだろう。
    或いは、父のツテで軍部の誰かか。
    幾人か思い浮かぶ顔はあるものの、そのどれとも三人は結びつかない。

    「…その割には、知らない顔だけど」

    異分子が紛れ込んだ時に、すぐに判断がつくように。
    蓮は自分の周りの人間のデータを、ほぼ完璧に頭に入れてある。
    何度検索しても出てこないのだ、彼らは蓮の知らない人間と判断して良いだろう。

    青年は、穏やかに微笑んでみせる。

    「さすが、有沢の御曹司様だ。ご自分の取り巻きを把握しておられるとは」
    「馬鹿にしているの?」
    「いや、褒めてるさ」
    「まぁ、実際お前ら助けに来たって言うと語弊はあるけどな」

    引き継いだのは、ピンク色の髪の彼。
    鮮やかに目を奪う春の色だと、そんな事を思える状況ではないのにそう考えた。

    彼はつかつかと蓮と風姫に歩み寄ると、抵抗する間も与えず腕を取る。
    最初から理解しているように、袖口をまくりあげた。
    そこに在るのは、彼らの力を封じている奇妙な文字。

    「なに、するの?」
    「黙ってろ」

    そう言って、彼は小さなプラスチックのボトルをポケットから取り出した。
    それを逆さにして、不可解な文字が描かれた腕に注ぐ。

    「…なに、これ?」
    「どうなってるの…」

    すると、こすったわけでもないのに、見る間に文字が消えていく。
    先ほどあれだけ爪を立てて掻き毟って、それでも掠れすらしなかった文字が。

    一本ボトルを開けるころには、二人の腕には文字の片鱗すらもう見えなくなっていた。
    驚きを以て顔を上げるが、彼は何も答えない。

    「…別にね、二人を助けに来たわけじゃないんだ」

    この場にそぐわないくらいに明るく言ったのは、末っ子と思しき少年。
    小型のノートパソコンを抱えて、にこりと笑う。
    硬質なガラスの向こう、茶色の瞳がすぅ、と細くなる。

    「おれたちの仕事はね、君たち二人を誘拐した人間の――抹殺」

    …ふ、と。
    血の匂いが香ったのは、気のせいだろうか。
    目眩すら覚えて、風姫は一度強く瞬きをする。
    それに気付いたのか、かれは ひらひら手を振った。

    「だからまぁ、君たちを助けるのは副産物?大丈夫だよー、危害は加えないから」
    「任務にないからな。安心して良い」
    「…そう言われても、ね」

    蓮はちいさく笑った。
    言われたところで、そうそう簡単に警戒心が解けるわけではない。

    知らぬ間に閉じ込められて、力すらも封じられて。
    そこに突然現れた人間を信用していいかどうか、瞬時に判断がつくものだろうか。
    ヘタを打てば、殺されるかもしれない。
    そう思わせるような何かが、彼らにはあるような気がした。

    そう、今だって。
    意識せず後ろに引いた足すら見抜かれて、惑う。

    「…(あぁ、だけど)」

    腕の文字を消したところを見ると、彼らは自分たちの『力』のことを知っているのだろう。
    神という名の化け物に愛されたが故の、異形の力。
    封じてしまえば自分たちはただの子供だ、だけどそれを敢えて解いたのだから。
    そこに意味だって、隠れているのかもしれないと。

    信用すべきか、否か。
    知らず噛んだ唇、じわりと血の味がにじむ。

    「…分かった」

    けれど、蓮よりも先に判断を下したのは風姫だった。
    彼女はふわりと両手を広げる。
    見つめた瞳は穏やかですらあって、その事は少しだけ兄弟たちをも驚かせた。

    「その口調だと、あたしたちのこと知ってるんでしょう?」

    彼女が指すのは化け物の、それ。
    凶器もなく、一瞬で世界を壊せる力のことだ。
    真っ先にあの文字を消したのだ、知らないと言えば嘘だろう。
    知っていてそれを解くというならば、それでもう十分なのではないだろうか?

    あっさりと腹をくくった彼女を、少年が笑う。

    「おねーさん、潔いね?そういうのおれ、好きだよ」
    「ふふ、ありがとう。ねぇ、それで知ってるの?」
    「ま、調べてはある…ってとこかな」
    「すごいね、最近のパソコンってそんなことも調べられちゃうの?」
    「おれのは特別なの」

    気の抜けたような会話に、蓮もひとつ息をついて。
    降参でもするように、軽く手をあげた。

    無理やり理論に感情を追いつかせた感じは、否めないけれど。
    風の女王が審判を委ねるというのなら、蓮にだって異論はない。
    実際彼らが来てくれなければ、自分たちの力だってこの身には帰ってこなかったのだろうから。

    悪魔だろうと天使だろうと、縋るよりほかにないのなら。
    その手を取ることは、間違いではないのだと思う。

    「とりあえず、お礼を言うよ」
    「副産物だけどな」
    「それでも良いよ」

    頑なに彼らを助けたわけではないのだと強調する、ピンクの髪の少年。
    それを聞いたらなんとなく頬が緩んで、ようやく蓮も笑う。

    「…ありがと、助かったよ」

    自分たちこそが異端なのだ、どうして彼らを責められよう?
    微笑んだ先に向けられた笑み。
    そこに温度が宿っていないなどとは、言わせるつもりもない。

    「…とりあえず、此処から出ないか」

    空気がほころんだことを見て取ってか。
    長男らしき青年が言う。
    その言葉に頷いて、おおよその出口の方向を組み立てた時だった。

    「!」

    カツン、と響いた足音。
    それは真っ直ぐにこちらに向かってくる。

    「…君たちの、仲間?」
    「まさか。おれたちは三人だけだよ」

    瞬時に緊張の糸を張る。
    各々の武器を確認した、その時だ。

    「手を上げてください、軍部です」

    ――かつり、と。
    一際高い靴音を立てて、『彼ら』が舞台に加わった。





    とりあえず前半戦。
    神様の子供と三兄弟の邂逅です。

    以前書いた「歯車、ひとつ」とはまったく関係ないです。
    ほんと読む人に優しくないサイトですみません…!
    しかも後半戦書いたらまた続かないっていうね。

    …時計塔の金魚姫。は書きたいものを書きたいだけ書くサイトです(開き直った!)

    祝宴の縁。

    ※嘘つき卯月、の続き。



    傍らに、慣れない他人の気配。

    「…っ!?」
    「あ、ごめんね起しちゃった?」

    咄嗟に枕の下の武器を確かめつつ跳ね起きる。
    と、そこに居たのは――

    「蓮…と、風姫…」

    自分たちの生業をこれっぽっちも気にすることなくじゃれついてくる、恋人たち。
    三兄弟にとって、希少で貴重な友人だ。

    「なに…お前ら、なんで…!?」

    かれど青はまるで乙女のように布団を胸まで引き上げ、ベッドの端に逃げる。
    …如何せん女の子という生き物に耐性のない彼は、風姫が普通にベッドサイドに座っていることにちょっと動揺を隠せない。
    しかも、自分が今着ているのは思いっきりジャージだ。
    あわあわと見るからに慌てふためいている青を、風姫が茶化すように見つめる。

    「…なんか、あれだよねー。青くんあたしのこと嫌いだよねー」
    「べ、別にそんなんじゃねぇよっ」
    「だって氷雨ちゃんとは普通に話すじゃない。風姫さん淋しー」
    「いや、あいつは…」

    何と言うか、氷雨はどちらかというと感覚が彼女の恋人である優に近い。
    淡々とした口調や、見返す瞳の温度。
    そういったものが似ているせいか、あまり『オンナノコ』らしくないように思うのだ。

    氷雨は青に対して、人間として以上の興味を持っていない。
    そこまで他人に興味を持たないのはどうかとも思うが、ある意味でそれはひどく楽だ。
    それを視線の端々で感じるからだろう、青は氷雨相手だとさほど気負わなくて済む。

    今まで大人しく二人のコントめいた会話を聞いていた蓮が、不意に口をはさむ。

    「ちょっとー青?風姫は僕のだからね、あげないよ?」
    「お前今までの遣り取り聞いてた!?」

    どこをどうしたらそういう流れになるんだ。
    ツッコミはが追い付かないのは、熱のせいだけじゃない。

    「つぅかいらねーよ別に…!」

    人のモノを奪う趣味はないし。
    そう告げると、けれど蓮は不満げに唇を尖らせた。

    「なぁに、それ。僕の恋人は魅力に欠けるとでも?聞き捨てならないねそれは」
    「(もうやだコイツ扱いにくい!)」

    もしかしたら藍よりタチが悪いかもしれない。
    信じてもいない神に祈るように青はぐったりとうなだれる。

    …自分の周りは個性が豊かすぎる人間しかいないのは、気のせいだろうか?
    もちろん彼もその中の一人なのだけれど。

    ぽん、と蓮が手を打つ。

    「まぁ、前置きはこのくらいにしといて。ちゃんとお見舞いしようか風姫」
    「そうだねー」
    「え、前振りながっ!?」
    「いろいろ買ってきたんだよ。なに買っていいかちょっと分からなかったんだけど…」

    青のツッコミを華麗にスルーして、風姫が自分のカバンを引きよせた。
    彼女のカバンは、肩から提げるトートバック。
    …お見舞いに持ってくるにしては、明らかに、デカイ。

    「いろいろ…?」

    青の頬が、嫌な予感にひきつる。
    なんていうか、藍のイタズラと似たにおいを感じる。
    ただし藍は計算でそれをやるが、彼女の場合は天然だってことで。

    「うん。えっとねー、ポカリとゼリーとプリンとアイスと、あと林檎でしょ?それから苺とね、生姜と…ネギ」
    「おいこらちょっと待て」

    嫌な予感は的中。
    っていうか、ネギがのぞいてる時点で可笑しかったのだ。
    風邪をひいてるのも忘れて突っ込むと、風姫はきょとんと首を傾げる。

    「え、だって風邪ひいたときは水分がいるでしょ?食欲なくてもゼリーとかなら食べられるかなーって。それにビタミンはとった方が良いし、生姜とネギは…なんか、定番…?」

    なんの定番だ。
    お見舞いの定番とか言ったら、彼女にその教育を施した人間をちょっとどうにかしてやりたい。
    それにしたって、お見舞いに持ってくる量じゃないと思う。

    「あ、大丈夫!アイスはちゃんと蒼さんに冷凍庫に入れてもらったから!」
    「問題はそこじゃねぇ」

    どうしよう、どうしたらいいんだろう。
    未だかつて標的とさえこんなにも深い断絶を感じたことはなかったのに。

    何分彼女の容姿が一切の甘味をそいだドールフェイスなので、なんだかギャップについていけない。
    ただ、それを言うともう一方の友人である氷雨だってギャップの人ではあるのだが。
    ほんとうに、二人の性格を入れ替えることができたらしっくりハマるのに…と、そうじゃなくて。

    「ていうか…蓮。お前、止めろよ…!」

    風姫のは天然でも、絶対に蓮は分かっていたはずで。
    目を向けると、くすくすと楽しそうに彼は笑っている。

    「だって、『青くんオレンジと桃だったらどっちのゼリーが好きかな』とか一生懸命悩んでるんだよ?それを無碍にはできないじゃない」
    「お前…!」
    「でねー、結局両方買って来たんだけど」

    大丈夫、どっちも美味しいよ。
    そう言われたら、なんかもうツッコミを放棄するしかなく。
    とりあえず、買ってきてもらったゼリー(桃の果肉入り)をありがたく頂戴する。

    「おいしー?」
    「…うん」
    「良かった」

    疲れた脳に、品の良い甘さが染み込む。
    …なんで疲れてるのかは、考えないことにして。
    これを食べたら、すこし眠ることにしよう。

    「じゃあ風姫、そろそろお暇しようか」
    「あ、うん。じゃあ青くん、お大事にね」
    「…おう」

    適当なタイミングで部屋を出てくれた二人。
    彼らの足音が遠くなるのを聞きながら、青はふと残された問題に気付く。

    「…これ、どうしよう…?」

    これ、つまりお見舞いに貰った大量の品々。
    ポカリに、ゼリーやプリン、果物などなど。
    あと…うん、ネギとか生姜とか。

    「………」

    あとで兄を呼んで、片付けてもらおう。
    さすがにネギと一緒に眠りには落ちたくないし。

    「…まぁ、ただ」

    手段がだいぶ間違っていたけど、方向性としては正しかったわけで。
    酷く自然な顔をして、見舞いと笑う彼らのことを考える。

    本来だったら、伸べられるはずのない手。
    だけどそれに縋ることを、当たり前の顔で彼らは赦すから。

    たまにはこんなのも、悪くはないのかもしれない。
    桃の果肉の甘さばかりが、脳髄にとける。

    (ちなみに晩御飯は焼きネギでした)



    最後マジメな雰囲気にしてみました。
    でもラストの一文で台無しですね★(星じゃねぇ)

    愛されてます、次男。
    ただ、彼らの愛の向け方がちょっと歪んでるだけなんです(笑)
    愛はあるよ、愛しかないよ!!

    さぁどうかその手を伸べて。

    ※彼とカノジョです。彼女ではなく。
    カノジョにメールがきたそうですよ。



    「そういえば、さっきメールがきたんですよ」

    「へぇ、どんなの?」

    「『これはチェーンメールじゃありません』って言いながら『このメールを10人に回してください』って書いてあるメールです」

    「うん、それって明らかにチェーンメールだよね」

    「でもチェーンメールじゃないって本人が言ってますからね」

    「本人って誰?…えーと、『連鎖的に不特定多数に回すよう求める手紙のこと』…某フリー百科事典」

    「それってつまりウィキですよね?」

    「そうとも言うね」

    「そうとしか言いません。…なんでも、某人気グループのメンバーがメールがどこまで繋がるのか競争してるそうですよ」

    「へぇ、また無駄なことを」

    「世の中の大半は無駄でできてるんですよ。哲学って偉大なる無駄から生まれた世界ですよね」

    「…有意義な無駄とそうでない無駄ってあると思わない?」

    「えぇ、まぁ」

    「ところでさ、そのメール。どこまで繋がったかってどうやって調べるの?」

    「………さぁ?」

    「わーお粗末。僕ならもうちょっと巧くやるけどなぁ」

    「パソコンに相当強い貴方と一緒にしたら可哀想ですよ」

    「そう?でも調べる方法を明らかにしないのは失礼だよね」

    「確かにその通りですね。どうするんでしょう…ひとつひとつ辿ります?」

    「恐ろしく時間がかかるけどね。しかも個人情報だだ漏れ」

    「誰のところに一番早く返ってくるかで判定とか?」

    「それって一瞬で終わらせることも可能だよね」

    「うーん…難しいですね、どうしましょう」

    「どうしようかねぇ…」



    「…ところでさ、きみは回したの?そのメール」

    「あ、お帰りなさい先輩」

    「おかえり」

    「ただいま。で、結局どうなの?」

    「回してませんよ?だって面倒くさいじゃないですか(きっぱり)」

    「「…うわぁ」」

    「なんですかその顔は」

    「いや、うん…まぁね、君のことだからそうじゃないかなぁとは思ってたんだけど」

    「でもここまでばっさり切られるとね…」

    「え、回した方が良かったですか?でもわたし『お友達』は少ないんで必然的にお二人にも回すことになりますが」

    「うーん、それはちょっと」

    「っていうか、俺たちも回さないしねー、必然的にここでストップ?」

    「…いったい何なんですかあなたたち」

    「でもまぁとりあえず僕たちはチェーンメールを馬鹿にしてるよね」

    「そうですね。でも良く出来てるヤツは尊敬しますよ」

    「あー、昔『スクロールし続けろ』ってあったねー」

    「それ知ってる。途中で『お前暇人だろ』とか言われるやつだよね」

    「あぁ、懐かしい。あれは好きでした、くだらなくて」

    「…なんか面白いチェーンメール作ってみようかな、これなら回してやる!ってやつ」

    「それ楽しそうですね。どんなのが良いでしょう?」

    「万人受けよりもむしろ分かるやつには分かるっていう感覚の方が良くない?」

    「あぁ、それなら……」


    (ささやかなる懺悔)



    つまるところまぁチェンメ止めたのはわたしです、みたいな。
    だってほら凜さんお友達少ないし!
    つぅかぶっちゃけ面倒くさか…げふんげふん。

    誰かこの『スクロールしろ』ってチェンメ知ってる人いませんかね。
    最後に『このメールを絶対笑ってくれそうなやつ5人に送ってやれ★』ってメール。
    実はあれ大好きでした(笑)

    嘘つき卯月。

    ※仮想世界より、お花見の後の話。
    風邪ひき次男。



    「けほっ…げほげほっ」
    「あーもう、青にーさんってほーんと期待を裏切らないよねー」
    「るせぇ…っごほごほ!」
    「良いから大人しく寝てろ」

    昨日の花見で、酔って薄着のままうとうとしていたのが悪かったらしい。
    お約束に風邪を引いた青は、弟に冷えぴたを貼られ兄にベッドに押し込まれ。
    つまるところ、だいぶ手荒い看病を受けていた。

    「でもまぁ、これでバカじゃないって証明されて良かったんじゃないの?」
    「藍…てめ、治ったら覚えてろ…?」
    「うん、忘れた!」

    それはもう爽やかに笑う弟。
    一回殴ってやろうかとも思ったが、今の彼じゃ多分かすりもしないだろう。
    ぐっと怒りを飲み込んで、不貞腐れたように青はふたりに背を向ける。

    「つか、なんで俺だけ…?」

    花見の席で彼と同じようにほとんど眠りかけていた氷雨は特に体調も崩さず。
    それどころか、つい先ほどまで見舞いに来ていたのだから不公平だ。
    彼女いわく『残念ながらわたしの恋人は過保護なので』とのことだ。

    『膝かけとか、マフラーとか。持って行けって煩いんですもん。結局上着も借りてたし』
    『大事に…されてるんじゃ、ない…か?』
    『青さん、その微妙な顔やめて頂けません?すごく切ないです』
    『えー、と…』
    『…まぁ、良いですけどね』

    告げる時の複雑そうな氷雨の表情がものすごく気になったのだが、突っ込める雰囲気ではなかったので。
    疑問は疑問のまま、青はなんとなく不服そうな顔を隠せない。

    風邪をひくと、感覚が鈍るから嫌なのだ。
    一瞬の判断力が生死を分けるこの世界で、神経を研ぎ澄ませておけないのは痛手だ。
    自分の身すらも守れないかもしれない不安と、焦燥。
    此処は安全だと分かっているのに、すこしだけ怖くなる。

    けれど、彼の心を暴くのはいつだってこの二人なのだ。

    「…とりあえず、薬飲んだら少し眠れ。無理して起きてると長引くぞ」
    「そうだよ、にーさん。大丈夫、なにかあったらすぐ知らせてあげるから」
    「…分かってるよ、」

    兄弟だから。
    それは単純明快で、何より深い理由。
    やっと落ち着いて呼吸を吐きだした青に、藍が華やかに笑う。

    「それに、あんまりぐずってると…」

    強制的に、オトす。
    言外にそう告げられ、青は思わず身震いした。
    …今の寒気は、熱のせいじゃない。

    「あははー、冗談だって!」
    「…お前が言うと冗談に聞こえないからやめてくれ」
    「えー、そう?」
    「藍、そろそろ寝かせてやれ」

    さすがに可哀想になったらしい。
    苦笑した蒼が、藍を促す。

    「おやすみ、青」
    「…オヤスミ」
    「良い夢見れると良いねー」
    「お前が邪魔しなければな」

    軽い足音と、ささやかな温度が離れていく感覚。
    蒼が藍の背を押して部屋を出ていく音を聞きながら、青はそっと目を閉じた。




    とりあえず前半戦…?後半は後日書きます。
    一応お花見の続き物のはず。

    氷雨さんは優が上着とかマフラーで完全防備してたから無事だったんです。
    身体弱い人ってそれなりに準備していくから意外に大丈夫だよね、って話(そうだっけ?)

    最近は気温がぐらぐらしていますので、皆様体調管理はしっかりとね!

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    1990/10/10
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    学生。
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    物書き。
    自己紹介:
    動物に例えたらアルマジロ。
    答えは自分の中にしかないと思い込んでる夢見がちリアリストです。
    前向きにネガティブで基本的に自虐趣味。

    HPは常に赤ラインかもしれない今日この頃。
    最近はいまいちAPにも自信がありません。
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