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書きたいものを、書きたいときに、書きたいだけ。お立ち寄りの際は御足下にご注意くださいませ。 はじめましての方は『はじめに』をご一読ください。
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    溶け落ちる舞台で。

    ※「氷上の喜劇」の続き。



    間近で響いた靴音。
    躍り出た『彼ら』は、舞台を駆ける「猟犬」。
    真っ直ぐに向け合った互いの武器が、鈍く光る。

    「氷雨さん…?それに、優さんも」

    蓮が先ず声を上げた。
    最初に彼が想い浮かべた、心当たりのある軍部の人間がこの二人だ。

    春日 氷雨と五十嵐 優。
    まだ年若いながらも優秀な軍人で、蓮は父を通じてこの二人を知っていた。
    優がにこりと、軍人にしてはずいぶんと上品な顔を笑みで彩る。

    「ご無事でしたか」
    「ねぇ、待ってこの人たちは、」

    言いかけて口を開くが、笑顔でそれを封じられる。
    第一、蓮は彼ら三人を語る言葉を持っていないことに気付いて口をつぐんだ。
    おぼろげな残像すら結べず、無力さに唇をかむ。

    不意に、氷雨が鉄パイプをかざしたまま訝るような声を上げた。

    「貴方…パーティの…?」

    見つめた先に居たのは、黒髪の青年。
    そしてこちらは悪いことに、『顔見知り』であった。
    ひと月ほど前に行われたパーティ会場。
    突然煙が上がってパニックに陥ったそこで、氷雨は彼に会っていた。

    彼――狙った標的を一度たりとも仕留め損ねたことはないという、稀代の殺し屋の兄弟。
    その長男である、鳥海 蒼と。
    続く弟は青、末の弟は藍。
    当然、彼と彼女にとっては敵であるはずの。

    「…貴方がたのこと、調べさせていただきました」
    「おや、それは嬉しいなお嬢さん」
    「ふざけないでいただけます?」

    返す声は、硬い。
    それは三人の目指すものを、心のどこかで認めているからかもしれないけれど。
    聞こえないふりをして、氷雨は三人をにらんだ。

    「…蓮様と風姫様を助けてくれたことには、感謝するけどねぇ」

    場違いに穏やかな声は、優のもの。
    柔和な笑顔を浮かべたまま、けれど彼の銃の先は蒼に向いたままだ。
    そしてそこに返されているのは、蒼の刀。
    互いに武器を向け合ったまま、にっこりと笑う。

    「一応今回は人命救助をしたつもりだが?」
    「救助の為に人を殺したら、意味がないと想わない?」

    ただし、それをされても文句を言えない人間だったのは事実。
    分かっているけれど、命がすべて平等であると説かなければいけない立場にいるのだ。
    こうして糾弾することしかできない己は、なんと弱いことか。

    …今回。
    こんな手段に出た人間は、恥ずべきことに軍の上層部にいる。
    上層部には蓮の父親の名前があるのだ、それを知っているからこその行動。
    自分の手を汚さずに舞台の向こう側で糸を引いているのは、優や氷雨の頭上にいる人間だと知っていた。

    「(…夢見た軍人には、程遠いね)」

    優は喉奥で笑った。
    軍は民の味方、正義を重んじ人の為に在るもの。
    そう信じてこの道を選んだ、だけどそんなの、嘘でしかない。

    真実を事実にできず、虚構に塗り固められた物語だけを告げ。
    それが彼らの存在意義になり変わっていた。

    「…ひとつ、質問をしても良いかな」

    武器は下ろさずに、優が問う。
    隣の氷雨が微かに眉を寄せたが、彼は微笑んだままだ。

    「参考までに聞きたいんだけど。どうして、こんなことをしたの?」

    本当に間違っているのはだれか、知っているのだろう?
    そう問うような、優の口調。

    誰が間違っていてだれが正しいのか。
    何が正義で、何が悪なのか。
    その答は、きっと誰もが持っている。

    「…そうだな」

    弟たちの視線を受けて、蒼は笑った。

    「正義のヒーローになりたかったから、かな」

    ふざけた応え。
    けれど彼の二人の弟は、確かに笑った。
    それを見ていた氷雨の顔が、泣きだしそうに歪む。

    やり方は間違っていることを知っている。
    だけど、これより他に取れる手段があっただろうか。

    ――気が触れていると、笑いたければ笑えば良い。

    「…正義のヒーロー、ね」

    嗚呼、嗚呼。
    失った正しさを見つけた気がして、優は悲しいくらいだった。
    そうして自分はなくしてしまったのか、その答すらもう見つからない。
    蒼がゆっくりと首を傾げる。

    「なぁ軍人さん。自分からも一つ、質問しても?」
    「俺に応えられるものならね」

    なら、と前置きされる。
    だけど優は、向けられる問いを知っているような心地がした。
    頭の中でそっくりそのまま、彼の言葉をシャドウのようになぞる。

    「なぁ、どうしてお前たちは軍人になった?」

    敢えて投げかけられたのは、複数形での形。
    氷雨が耐えきれないように眼を伏せた。
    細かく震えた睫毛、彼女には少しだけ酷かもしれない問い。
    項垂れた横顔を眺めて、優は口を開いた。

    「…そうだね。正義のヒーローになりたかったから、だよ」

    ――本当は、本当は。
    正義のヒーローに、なりたかったんだ。
    誰かの為だと胸を張って言えることを、したかったんだ。

    「(ごめん、ね)」

    夢を見ていた。
    この世界が本当に、清らかで正しいのだという夢を。
    それを守るために戦えるのだと、本気で信じていた。

    その想いに、嘘はない。
    ただ思っていたよりも、自分がいる場所が汚れていただけで。
    自分たちの手が、気付いたら汚れていただけで。

    「なれなかったけどね。俺は、…俺たちは」

    優は笑った。
    そして、蒼に向けていた銃をゆっくりと下ろす。

    「…何を?」
    「別に?」

    それどころか、あっさりと銃を戻してしまう。
    じっと見つめていた蓮と風姫が息をのみ、三兄弟たちも目を見張る。
    咎めるように氷雨が声をあげた。

    「優、さん?」

    けれどその声は、どこか弱い。
    だって彼女も知ってるのだ、正義を夢見た自分達が正義の為に出来る、限界を。
    正義の御旗のもとにいる自分たちこそが、正義からかけ離れた場所にいることを。

    軍が本当に正義であるならば、こんなところに『彼ら』はいない。

    「…はい氷雨は何も聞いてなーいっ」

    突然、ふざけた調子で優がそう言って、氷雨の耳を塞いだ。

    「え、ちょ、優さんっ!?何して…」
    「申し訳ありませんね、蓮様。このことはどうぞご内密に」
    「…だいたい話は読めた」

    蓮が苦笑する。
    それを了承の合図に、優は自分の後ろの窓を目線で示した。
    彼らがいる部屋のすぐ下には、張り出した屋根がある。
    そこに上手く降りられれば、楽に地面に降りることが可能だ。
    おそらくここが一番手軽で安全な脱出ルートだが、それを知っているのは軍の人間だけだった。

    「この窓からなら、楽に外に出られるよ。今なら見張りもいないし」
    「…教えちゃって、言いわけ?」

    背後にあるのは、嵌め殺しの窓。
    それを示す優に、三兄弟が訝るように眼を細くした。
    けれど優は笑って、同じ言葉を繰り返す。

    「早く逃げなよ。人が来る」
    「…それで、良いのかよ?軍人のくせに」
    「…優さん、」

    不意に、氷雨が耳をふさぐ優の手にふれた。
    察して手をどかすと、彼女は手にしていた鉄パイプを握りなおして。
    何をするかと思っていると、いきなりそれを振りかぶった。

    「うわっ!?」

    砕け落ちる窓ガラス。
    叩き割るというよりは突き破ったせいか、音は鈍く耳に響いて。
    見た目に似合わない行動を取った彼女を見つめると、顔をそむけたまま吐き捨てられる。
    それが彼女に出来る精一杯なのだと、理解するのは容易かった。

    願った正義は、まだこの手の中に在るのだろうか?

    「…早くお逃げになったら如何ですか」

    正義を夢見たヒーローは、此処にも。
    ちいさく苦笑をこぼして、蒼は弟たちを促す。

    「行くぞ」
    「「了解」」

    窓に足をかけると、彼らの背後を声が追う。

    「またね、ヒーローさん」

    笑ったのは風姫だ。
    振り返れば、蓮も隣で唇に指を立てていて。
    はまったピースの音は、誰もが聞いていたことを知る。

    遠くなる足音を聞きながら、優はふっと笑った。

    「さて、蓮様に風姫様。ちょっとその辺に座って茫然としててもらっていいですか?」

    つまりは口裏を合わせろってことか。
    合点がいった蓮は肩をすくめて、言われたとおりに風姫と二人、床にぺたりと座りこむ。

    「あー、泣いててあげようか?怖かったよって」
    「目薬、お使いになられます?」
    「あ、あたし貸して欲しい」

    氷雨の手から目薬を受け取って、風姫が目尻にそれを注す。
    思い切り眉根を寄せれば、見る者誰もが胸を痛めるような泣き顔の完成だ。
    それをかばうように氷雨が肩を抱いたところで、ようやく彼らの援軍の足音が聞こえてくる。

    知らず彼らは、祈るように目を伏せていた。
    どうかヒーローよ、君たちの目指すところにこそ正義が在ればいいと。

    蓮と風姫の顔から、表情が消える。
    それを見てすぅ、と優と氷雨は息を吸い込んだ。
    出来る限り精一杯の、心配そうな表情を作って肩をゆする。

    「――大丈夫ですか、しっかりしてください!」

    愛すべき我らがヒーローの為に。
    思いおこしたら笑ってしまうような茶番を、演じてみせましょう。



    お…終わった…。
    すごい書きたかったのに書き始めたらもうグダグダです。
    そのうちさりげなく手直しとか加えておきたいです。
    こっそりと、えぇこっそりと。

    「歯車」と関係ないとか言いながらちょっとだけ関係させてみました。
    でもたぶん書いても書かなくても問題ないレベルなんだぜ…!!

    とりあえず根詰め過ぎたのでそろそろ眠いです。
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    1990/10/10
    職業:
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    物書き。
    自己紹介:
    動物に例えたらアルマジロ。
    答えは自分の中にしかないと思い込んでる夢見がちリアリストです。
    前向きにネガティブで基本的に自虐趣味。

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