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書きたいものを、書きたいときに、書きたいだけ。お立ち寄りの際は御足下にご注意くださいませ。 はじめましての方は『はじめに』をご一読ください。
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    祝宴の縁。

    ※嘘つき卯月、の続き。



    傍らに、慣れない他人の気配。

    「…っ!?」
    「あ、ごめんね起しちゃった?」

    咄嗟に枕の下の武器を確かめつつ跳ね起きる。
    と、そこに居たのは――

    「蓮…と、風姫…」

    自分たちの生業をこれっぽっちも気にすることなくじゃれついてくる、恋人たち。
    三兄弟にとって、希少で貴重な友人だ。

    「なに…お前ら、なんで…!?」

    かれど青はまるで乙女のように布団を胸まで引き上げ、ベッドの端に逃げる。
    …如何せん女の子という生き物に耐性のない彼は、風姫が普通にベッドサイドに座っていることにちょっと動揺を隠せない。
    しかも、自分が今着ているのは思いっきりジャージだ。
    あわあわと見るからに慌てふためいている青を、風姫が茶化すように見つめる。

    「…なんか、あれだよねー。青くんあたしのこと嫌いだよねー」
    「べ、別にそんなんじゃねぇよっ」
    「だって氷雨ちゃんとは普通に話すじゃない。風姫さん淋しー」
    「いや、あいつは…」

    何と言うか、氷雨はどちらかというと感覚が彼女の恋人である優に近い。
    淡々とした口調や、見返す瞳の温度。
    そういったものが似ているせいか、あまり『オンナノコ』らしくないように思うのだ。

    氷雨は青に対して、人間として以上の興味を持っていない。
    そこまで他人に興味を持たないのはどうかとも思うが、ある意味でそれはひどく楽だ。
    それを視線の端々で感じるからだろう、青は氷雨相手だとさほど気負わなくて済む。

    今まで大人しく二人のコントめいた会話を聞いていた蓮が、不意に口をはさむ。

    「ちょっとー青?風姫は僕のだからね、あげないよ?」
    「お前今までの遣り取り聞いてた!?」

    どこをどうしたらそういう流れになるんだ。
    ツッコミはが追い付かないのは、熱のせいだけじゃない。

    「つぅかいらねーよ別に…!」

    人のモノを奪う趣味はないし。
    そう告げると、けれど蓮は不満げに唇を尖らせた。

    「なぁに、それ。僕の恋人は魅力に欠けるとでも?聞き捨てならないねそれは」
    「(もうやだコイツ扱いにくい!)」

    もしかしたら藍よりタチが悪いかもしれない。
    信じてもいない神に祈るように青はぐったりとうなだれる。

    …自分の周りは個性が豊かすぎる人間しかいないのは、気のせいだろうか?
    もちろん彼もその中の一人なのだけれど。

    ぽん、と蓮が手を打つ。

    「まぁ、前置きはこのくらいにしといて。ちゃんとお見舞いしようか風姫」
    「そうだねー」
    「え、前振りながっ!?」
    「いろいろ買ってきたんだよ。なに買っていいかちょっと分からなかったんだけど…」

    青のツッコミを華麗にスルーして、風姫が自分のカバンを引きよせた。
    彼女のカバンは、肩から提げるトートバック。
    …お見舞いに持ってくるにしては、明らかに、デカイ。

    「いろいろ…?」

    青の頬が、嫌な予感にひきつる。
    なんていうか、藍のイタズラと似たにおいを感じる。
    ただし藍は計算でそれをやるが、彼女の場合は天然だってことで。

    「うん。えっとねー、ポカリとゼリーとプリンとアイスと、あと林檎でしょ?それから苺とね、生姜と…ネギ」
    「おいこらちょっと待て」

    嫌な予感は的中。
    っていうか、ネギがのぞいてる時点で可笑しかったのだ。
    風邪をひいてるのも忘れて突っ込むと、風姫はきょとんと首を傾げる。

    「え、だって風邪ひいたときは水分がいるでしょ?食欲なくてもゼリーとかなら食べられるかなーって。それにビタミンはとった方が良いし、生姜とネギは…なんか、定番…?」

    なんの定番だ。
    お見舞いの定番とか言ったら、彼女にその教育を施した人間をちょっとどうにかしてやりたい。
    それにしたって、お見舞いに持ってくる量じゃないと思う。

    「あ、大丈夫!アイスはちゃんと蒼さんに冷凍庫に入れてもらったから!」
    「問題はそこじゃねぇ」

    どうしよう、どうしたらいいんだろう。
    未だかつて標的とさえこんなにも深い断絶を感じたことはなかったのに。

    何分彼女の容姿が一切の甘味をそいだドールフェイスなので、なんだかギャップについていけない。
    ただ、それを言うともう一方の友人である氷雨だってギャップの人ではあるのだが。
    ほんとうに、二人の性格を入れ替えることができたらしっくりハマるのに…と、そうじゃなくて。

    「ていうか…蓮。お前、止めろよ…!」

    風姫のは天然でも、絶対に蓮は分かっていたはずで。
    目を向けると、くすくすと楽しそうに彼は笑っている。

    「だって、『青くんオレンジと桃だったらどっちのゼリーが好きかな』とか一生懸命悩んでるんだよ?それを無碍にはできないじゃない」
    「お前…!」
    「でねー、結局両方買って来たんだけど」

    大丈夫、どっちも美味しいよ。
    そう言われたら、なんかもうツッコミを放棄するしかなく。
    とりあえず、買ってきてもらったゼリー(桃の果肉入り)をありがたく頂戴する。

    「おいしー?」
    「…うん」
    「良かった」

    疲れた脳に、品の良い甘さが染み込む。
    …なんで疲れてるのかは、考えないことにして。
    これを食べたら、すこし眠ることにしよう。

    「じゃあ風姫、そろそろお暇しようか」
    「あ、うん。じゃあ青くん、お大事にね」
    「…おう」

    適当なタイミングで部屋を出てくれた二人。
    彼らの足音が遠くなるのを聞きながら、青はふと残された問題に気付く。

    「…これ、どうしよう…?」

    これ、つまりお見舞いに貰った大量の品々。
    ポカリに、ゼリーやプリン、果物などなど。
    あと…うん、ネギとか生姜とか。

    「………」

    あとで兄を呼んで、片付けてもらおう。
    さすがにネギと一緒に眠りには落ちたくないし。

    「…まぁ、ただ」

    手段がだいぶ間違っていたけど、方向性としては正しかったわけで。
    酷く自然な顔をして、見舞いと笑う彼らのことを考える。

    本来だったら、伸べられるはずのない手。
    だけどそれに縋ることを、当たり前の顔で彼らは赦すから。

    たまにはこんなのも、悪くはないのかもしれない。
    桃の果肉の甘さばかりが、脳髄にとける。

    (ちなみに晩御飯は焼きネギでした)



    最後マジメな雰囲気にしてみました。
    でもラストの一文で台無しですね★(星じゃねぇ)

    愛されてます、次男。
    ただ、彼らの愛の向け方がちょっと歪んでるだけなんです(笑)
    愛はあるよ、愛しかないよ!!
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    1990/10/10
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    物書き。
    自己紹介:
    動物に例えたらアルマジロ。
    答えは自分の中にしかないと思い込んでる夢見がちリアリストです。
    前向きにネガティブで基本的に自虐趣味。

    HPは常に赤ラインかもしれない今日この頃。
    最近はいまいちAPにも自信がありません。
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