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書きたいものを、書きたいときに、書きたいだけ。お立ち寄りの際は御足下にご注意くださいませ。 はじめましての方は『はじめに』をご一読ください。
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    嵌らないピースふたつ。

    ※仮想世界にて。
    氷雨と藍のお話です。



    「あら、」
    「あ、氷雨ちゃん」

    珍しい場所で珍しい人物に会うものだ。
    藍と氷雨は互いに軽く目を見張ってから、手を挙げる。

    平日の昼過ぎの、ショッピング街。
    職に就いている氷雨がこの時間に買い物をしていることも、女性向けの店が立ち並ぶ一角に藍がいることも珍しい光景だ。
    そのまま別れるのも忍びなく、二人は人の合間を縫うようにして歩み寄る。

    「珍しいね氷雨ちゃん」
    「今日はお休みなんで。そういう藍さんこそ、どうしてこんな場所に?」

    もっともな疑問に彼は笑って。
    普通の女の子ならば少なからずドキッとするような、鮮やかな笑顔を浮かべてみせる。

    「んー、今日はおれも暇でさ。だから可愛い女の子でもナンパしちゃおっかなーって」
    「…そのうち刺されても知りませんよ?」

    一体何人の女の子が犠牲になったことやら。
    嘆くように氷雨は天を仰ぐ。
    藍が彼女の後ろ、誰かを探すように目を向けた。

    「あれ、今日…優さんは?」

    なんだかんだで仲の良い恋人だ、休みであれば二人でデートでもしていそうなものだが。
    今日は彼女ひとりだけのようで、右側は寒々しく空いている。

    「女の子の買い物に付き合わせられませんよ」

    気付いて氷雨はくすりと微かな笑顔を向けた。
    女の子とは、買い物になにかと時間がかかる生き物なのだ。
    幾つかの品物を見比べてみたり、また元の店に戻ってみたり。
    それでいて結局買わなかったり、あるいは全然違う品物を買ってみたり。
    とかく時間と体力を必要とする女の子の買い物に付き合うのは、なかなか厳しいものだろう。

    「へぇ…?」

    だけどそれは一般論。
    これほど人によるものはないような気がする。
    いつだって余裕を含んだ目をした優を思い出して、藍は腑に落ちない顔をした。

    「疲れさせちゃうし、悪いじゃないですか」
    「ふーん。優さんなら気にしないと思うけどねー」
    「わたしが気にするんです」

    彼のことだから、買い物に悩む彼女を微笑ましげに眺めるだろうけど。
    それはどうにも氷雨のプライドが許さないらしい。
    見た目によらず頑固で強情な友人に、藍は笑みを隠せない。

    「…なんです?」
    「ううん、別にー」

    まったく君は素直じゃない。
    自分こそ到底素直といえる性格はしていないのに、藍はそう呼びかける。

    当然不服そうな顔でこちらを見上げた氷雨に、にっこり笑った。

    「じゃあ、おれが買い物付き合ってあげるよ」
    「へ?」

    そう言うと、返事も聞かず氷雨の腕を取る。

    「ちょ、藍さん?」
    「明らかにひとりはつまんないって顔してたよ。だからおれが付き合ってあげる」
    「でも、」
    「おれなら青にーさんと違って良いアドバイス、してあげられると思うよ?…例えば、」

    そこで、にやりと笑って。
    明らかにイロイロ内包した笑顔に、一瞬警戒する。

    彼がこんな顔をするときは、だいたいにしてあんまり良くないことを考えているときなのだ。

    「例えば、優さん好みのお洋服、とか。教えられるけど?」
    「う、」

    ほら、やっぱり。
    氷雨は思うが、提示された内容は蹴るにはあまりに惜しい。
    どんな格好をしても、彼はにっこりと笑って「可愛い」という。
    なおかつちゃんと見ていると思わせる丁寧な誉め言葉を添えて。
    だから未だに氷雨は優の好みを知らないのだ。

    ただ乗ってしまえば後々からかわれるのは必至で、彼女は似合わない唸り声をもらす。

    「…ねぇ氷雨ちゃん、おれってどんだけ信用ないの?」
    「それは藍さんの今までの行動その他諸々のせいですよ」
    「へー、そういうこと言う?」
    「うわぁ悪そうな顔っ」

    大げさな身振りで一歩引いた彼女を、藍は苦笑まじりに見た。
    年相応な笑い方。
    いつもこうやって笑っていれば可愛いのに、と氷雨は思う。

    「良いから、ほら。それに今日のおれの予定は可愛い女の子連れて歩くことだったし」
    「えーと、わたしこれどこに突っ込めば?」
    「だから氷雨ちゃんなら資格じゅーぶん、利害関係は一致したんだから行くよっ」

    もう一度手を取りなおして、今度こそ藍は歩き出す。
    一瞬悩むような間があったが、大人しく彼女もついてきた。

    「…たまに藍さんってイイ男ですよね?」
    「たまに、は余計だよ」
    「ふふ」

    失敬な、と藍は思うが氷雨の笑い声に溜飲を下げる。
    いつもこうやって笑っていれば可愛いのに、氷雨が聞いたらものすごく微妙な顔をしそうなセリフを考えて。

    「…お互い様かなぁ」
    「どうかしました?」
    「んーん、何でも」

    ふざけて、からかって。
    憎まれ口なんて日常茶飯事。

    「「…(あぁ、だけど)」」

    君の隣は、なかなかに居心地がよく。
    わかっているから笑うよ、何もかも見透かした目を互いに向けて。

    (さぁ、お買い物に参りましょうか)




    ケータイでぽちぽち打ってたんで、編集するまで未選択になってますがお許しを。
    たぶんやり方はあるんだろうなぁ…探します。

    関係ないですが肩こりが酷くて泣きそうです\(^o^)/
    …肩こりはロマンがないよ(何の話)
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    神様の桜。

    彼女は春が嫌いだ。

    散り逝く桜の花も、甘く穏やかな日差しも。
    それらはあまりに美しすぎて儚すぎて、何時だって彼女を拒絶する。
    化け物の子供を。
    世界に憎まれた、彼女を。

    彼女は春が嫌いだ。

    その絢爛豪華なひとときは酷く脆くて、彼女がさして力を込めずとも容易く壊れてしまう。
    そして耳元で嗤うのだ、破壊しか生まない己を。
    馴染むことすら許されない、異端の身体を。

    彼女は春が、嫌いだ。

    何故なら春は、彼女が彼女を捨てた季節。



    「ねぇ、どうしたの?」

    呼びかけられてはっとする。
    弾かれたように顔を上げれば、彼の気遣うような眼差しが自分に注がれていて。
    ようやく自分が、彼の家で桜を見ていたことを思い出す。

    「…ごめん、ちょっと考えことしてた」

    そう言って、誤魔化すように窓の外に目を向けた。
    夕闇に霞み始めた空、うつくしい春の象徴がそこに静かに佇んでいる。

    「何を考えていたの?」
    「ちょっとだけ、昔のこと」

    自分がもっと、もっと幼かったころのこと。
    弱くて臆病な女の子だったころのことだ。

    もう捨てたはずだったのに、時折彼女の中で(彼女)が泣くのだ。
    気付いて気付いて、思いだしてと。
    そんな事を考えてしまうのがもう可笑しなことなのにと、笑う。

    「…綺麗」

    呟いて、目を細めた。
    弱い風にもその枝を揺らし、雪のように花びらを降らせる桜。
    けれど、彼女はこの花があまり好きではない。

    「…だけど、はやく夏にならないかしら」

    渡された紅茶を一口すすって。
    もっと乱暴でもっと煌めきに満ちた季節を望む。
    花冷えの空気に晒された身体に、熱い紅茶がひりつくようにして染み込んでいく。

    「なぁに、それ」

    彼が微笑した。

    「君は、夏が嫌いじゃなかった?」
    「…暑いのはちょっと苦手」

    だって、彼女は夏に弱い。
    焦げ付く暑さも、強い日差しも。
    生命力にあふれた夏の匂いも、肌に纏わりつく湿った空気も。
    みんなみんな苦手な彼女は、夏の盛りには不健康に青い空気の中でしか生きられない。

    「でも、春は好きじゃないの」
    「…どうして?」

    彼は尋ねて、眼前の桜を見上げた。
    どこまでも白に近い、薄紅。
    雪景色と見紛うほどに儚げなその花は、人形めいた美貌の彼女によく似合う。

    なのに、彼女は春が好きではないというのだ。
    世界の中心に彼女を据え置いた彼は、彼女に愛されなかったこの季節を哀れに思う。

    ふと、彼女が唇を尖らせた。

    「…だって、春には桜が咲くじゃない」
    「可笑しなことを言うね?」

    彼はもう一度笑った。
    春に桜が咲くのは当然だ、季節が進む限り、必ずこの花は同じ季節に咲く。
    けれど彼女は真面目な表情で続ける。

    「でも、春が儚くて淋しいのは桜があるせいじゃない?」
    「そうかもしれないね」
    「…あたしは、儚いものは嫌いなの。だって、」

    だって、あたしはそれを――壊してしまう。
    見上げた瞳に、はらはらと散る桜の花びらが映り込む。

    「…」
    「あたしが一度ささやけば、きっとこの花なんて一瞬で散るもの」

    彼女は風の女王。
    君の前では、この花は無力に等しい。

    否、桜だけではないのだろう。
    世界は彼女の足元にひれ伏したも同じこと。
    愚かで愛しい女神の前に、この世のすべては膝を折る。

    「…ごめん。変なこと言ったね」

    彼女が明るく笑った。

    「ちょっと感傷的になってるみたい。ごめんね、忘れて」

    春の気配に、惑わされただけ。
    明日になってしまえば、きっと忘れてしまえるから。
    真っ直ぐな彼の瞳から逃げるように、そっと目を逸らす。

    「…確かに、君は一瞬で春を終わらせることができるけれど」

    けれど、声は耳に飛び込んで。
    思わず彼女は身を固くした。
    耳元に、彼の指先が触れる。

    「…」
    「だけど、君はそれをしない。そうだろう?」

    掌の中のカップを奪われる。
    顔を上げると、彼は柔らかに微笑む。
    内緒話でも告げるように、寄せた額は確かな温度を持っていて。

    「その力を行使しないのは、君が春を愛している証拠なんじゃないかな」

    散り落ちた桜の花を、彼女の髪にさした。
    似合うねと笑えば、つられて彼女も少しだけ笑う。

    「今だって君はこうして春を愛して見送って。だからね、君は破壊神にはなりえないんだよ」

    ふれた掌は、春そのもののように甘やかに冷たくて。
    春の匂いが取り巻いて、ここだけが隔離されているようだった。

    夕暮れに霞む庭。
    切り離された世界の中に在るのは、春に愛された彼らだけ。




    桜企画、彼と彼女です。
    でも実はリサイクルなんだぜ!!

    甘いなー、甘いなーほんと。
    なんでこの二人はたまーにこうやって甘くなるんだろう。
    照れてしまいます、こういうのは。

    そろそろ散り始めるころでしょうか?桜が散るのはうつくしいからそれも楽しみですね。

    無二の春。

    ※カレとカノジョ、桜企画。
    満開です。


    「見事ですね」
    「うん、本当に」

    満開の桜並木の下は、平日のせいか人はまばらだ。
    ゆっくりと縫うように足を進めて、時折立ち止まって。
    桜を見上げる君を見ているのは、実はなかなかに楽しいのだ。

    誇らしげに枝を伸ばした桜。
    蒼空の下でもきっと鮮やかに映えるのだろうけれど、彼女の希望で敢えて夕暮れ時を選んだ。
    やわらかな藤色の空に描かれた桜は、なんだか着物のようだと思う。

    うたうように君が笑う。

    「あぁでも、確かにこの桜の下でなら死んでもいいかもしれない」
    「西行?だっけ」
    「そうです」

    終わりを迎えるなら、桜の下で。
    その死はどこか甘美ですらある。

    張り巡らされた根の下には、死体があるとは聞くけれど。
    間際に彼らの声に耳を傾けていられたら、きっと淋しくも怖くもない。
    そこまで考えて、子供じみた空想だと嗤った。

    「…桜の花は血を吸っているからこんな色をしているんでしたっけ」

    折しも彼女も同じことを考えていたらしい。
    俺を見上げた瞳の中に、自分とよく似た色を見つけた。
    微笑めばそれが答えで、彼女も俺に微笑で答える。

    「…じゃあ、桜の下の死体がもっと多ければ、もっと紅いのかもしれませんね」

    料理の味付けでも考えるような声だ。
    心底から疑問に思っているような。
    さらされた横顔は、あどけなさすら漂う。

    「…気になる?」
    「わりと。どうしてそういう言い伝えになったのかっていうのも含めてですが」

    じゃあ。
    呟いて、彼女の腕を引いた。

    驚いて見上げてくる瞳。
    単純に綺麗で、つい見とれる。

    「(…嗚呼、此処にあったな)」

    忙しく過ぎていく日々の中。
    置き忘れてしまったようで、失ってしまったようで。
    それすらも忘れていくような、感覚。

    きっと、答えはこれなんだ。

    「…試してあげるよ、どうなるか」
    「…桜が、赤くなるか?」
    「そう。一緒に埋まってあげる」

    他人が聞いたら、気が違っているとでもいうかもしれない。
    考えてみればおかしな約束だ。
    一緒に埋まってあげるなんて、まるで心中じゃないか。
    しかも発端が「桜が染まるかが知りたい」だなんて、さっきの空想より子供じみている。

    だけど、それで良いんだ。
    それが良いんだ、俺にとってはこれが最高の。

    ふたりして春の亡霊になるんだったら、悪くない。

    「…ときどき、とんでもないことを言いますね」
    「嫌い?こういうのは」
    「いいえ、」

    笑った顔に、承諾を知る。
    俺は君に甘いと彼女は言うけれど、君だって十分俺に甘いよ。

    君の願いを聞くようでいて、これはおれの我儘でしかない。
    それをあっさりと赦してしまうのだ、君だって人のことを言えない。

    「真っ赤になったら、素敵ですね」
    「そうだね、きっと楽しい」

    捕らえた腕は、そのままに。
    終りの見えない桜並木に、すでに亡霊になったような心地さえした。

    (季節をひとつしか知らない花よ、)

    (咲き誇りこの世界を染めておくれ)



    桜企画…あれこれ第何回?
    もう分かりません、だめですこいつ(笑)

    久々にこっち更新、かな…?
    なんかもう最近脳内からいろいろ溢れて来ててどうしたらいいですかな感じです。
    でもどうもしません!!(開き直った)

    桜、あといくつか書きたいのが…間に合うかな…。
    早くしないと散ってしまいますよ。

    春の宴に。

    ※お花見ネタ。
    前回のお話とは関係ありません。


    ひらりひらり。
    はらりはらり。
     
    舞い落ちる桜の花びらが、掲げた杯の中に落ちて。
    澄んだ美酒を、あわい桜の色に染める。
     
    今宵は宴。
    春の亡霊だって、きっと微笑むような夜。
     
    +++
     
    「ちょ、藍てめぇ!それ俺のたこ焼きだっつーの!!」
     
    最後に残ったたこ焼きを弟に奪われて、青は叫び声を上げた。
    それをものともせず、藍はつんと顔を背ける。
     
    「知らなーい。だって名前書いてないしー」
    「たこ焼きに名前が書けるかぁ!」
    「そこはほら、頑張りなよ。にーさんならできるって!」
     
    騒がしく(青が一方的に騒いでいるだけなのだが)言い合いを始める兄弟たちを見上げて、蓮が迷惑そうに二人の足元のカップを寄せる。
     
    「ちょっとー、二人とも暴れて飲み物倒さないでよ?」
    「蓮さん、気にするところはそこでしょうか?」
     
    微妙にずれた発言に氷雨がツッコミを入れるが、蓮は優雅に笑うだけ。
    分かっているんだなと察した氷雨は肩をすくめて、手の中のカップを揺らした。
    二人の頭上、青が投げた空の紙カップが横切る。
     
    「つぅか藍お前いっつも最後の一個奪いやがって…!」
    「えー、にーさん細かい。そんな細かいこと気にしてるとはげるよ?」
    「はげねーよ!」
    「あ、ほらこの辺がちょっと薄く…」
    「えっ、嘘!?」
     
    はげに過剰反応するのは男の性。
    咄嗟に指さされたあたりを押さえた青、それを見て藍が高らかに笑う。
     
    「うっそだよー。なーに本気にしてんだよにーさんっ」
    「藍…お前…!!ぜってー泣かす!」
    「なーに、やる気?受けて立つよっ」
    「ちょっと、お二方?落ち着いてくださいよ、危ないですし…」
     
    氷雨が立ち上がりかけるが、聞く耳持たず。
    いまにも取っ組み合いの喧嘩が始まると思われたのだが。
     
    「もー、二人とも!」
    「「!!」」
     
    ぱこん、ぱこんと軽い音が二回。
    振りかえった二人を怒ったような眼で見つめていたのは、今まで大人しく酒を飲んでいた風姫だ。
    彼女は腰に手を当てて、さながら母親のように二人を叱りつける。
     
    「めっ!!」
    「…はい」
    「すんませんでした…」
    「分かればよろしい」
    「あー…普段怒らない人間が怒ると、それだけで脅威だよねー」
     
    その様子を見ていた蓮が、ふすりと笑う。
    最初からぜんぶ分かっていたような表情。
    これ見たさに蓮が二人を止めなかったのだと分かって、氷雨は心底からため息をついた。
    切なそうな表情で空を仰いで、さながら悲劇のヒロインのように呟く。
     
    「…どうしてわたしの周りってこんなに性格の悪い人間が多いのかしら?」
    「ねぇ氷雨さん、類友って知ってる?」
    「あら、存じ上げませんけれど」
     
    にっこりと笑った顔はまるで鏡。
    風姫、藍、青の三人は、何も言わずにそっと目を逸らした。
     
    お前らがまさにその言葉を体現している。
    …そんなこと、口が裂けても言えないけれど。
     
    +++
     
    「やー、若いって良いねぇ」
    「…優も十分若いだろう?」
     
    それをさらに一段離れたところで見ていたのは、年長組の二人。
    優と蒼だ。
    ふたりは微笑ましい(かもしれない)光景に、目を細める。
     
    「ふふ、そうでもないよ。もうおっさんだよ?俺」
    「そうか?そうは思えないが」
    「…どーせ俺は童顔ですよっ」
    「そんなことは言ってないさ」
     
    童顔、というよりは品の良い綺麗な顔立ちをしているせいだろう。
    なんとなく青二才、という印象を与えがちな優は、実は大人びた顔立ちの蒼が羨ましかったりもするのだ。
    桜色の酒をすすり、微笑んだ口元はあわく。
     
    「でも、なんだか夢みたいだな」
    「夢?」
    「こうやって、桜の下で酒飲みかわしてると」
     
    言われてみれば、確かにそうだと優も思う。
    朧な月が桜越しに光り、冷やされた風に花が散って。
    すべてが一吹きでかき消えそうな世界。
    嗚呼美しいな、とぼんやり思う。
     
    「…俺としては、この場所にこうしてみんなでいられることが夢みたいだけどね」
    「あぁ…そうだな」
     
    本来であれば、交わることのなかった世界。
    それがこうして交差して、柔らかな音楽を奏でるのだから。
    なんとも素晴らしい話ではないか?
    居るかも分からない神に、感謝してやってもいいと思えるくらいには。
     
    「…乾杯とか、する?」
    「そうだな、この世界に」
     
    合わせた杯に、二人で笑って。
    それから、落ち着きを取り戻した他の面々に目をやる。
     
    「…あのさー、いっこ疑問なんだけど」
    「どうした?」
     
    まぁ、さすがにこの二人は二十歳を超えているだけあって。
    彼らが酒を手にしている様子には違和感がない。
    すい、と丁寧なしぐさで杯を空けて、優が問うた。
     
    「…俺たち以外、みんな未成年のはずだよ、ね…?」
     
    めぐらせた眼差しは、すでに諦めすら映している。
     
    「あ、見てみて。水面に月が映ってる」
    「ほんとだ。綺麗だね」
    「こういうの、月を呑むって言うんだっけ?風流だよねー」
     
    視線の先。
    そこはさっきまでの騒がしさが嘘のように、穏やかさを取り戻している。

    「美味しい」
    「ね」

    それこそ水でも飲むようにさらりと酒を飲みつつ談笑しているのは、風姫と蓮と藍の三人。
    …断わっておくと、こいつらはこのメンバーの中で最年少。
    当然のことながら法律上酒を飲んではいけない年齢のはずだが、彼らは気にした様子もない。
    先ほどから顔色ひとつ変えずに、結構な度数のアルコールを淡々と消費している。
     
    「…酔うって概念がないのかもしれないな」
    「そんなあっさりと…!」
     
    残念な蒼の回答に、優はそっと眼を伏せた。
    けれど、本来だったら真っ先にこれをいさめるべきは軍人である優だったりもする。
    自分のことはがっつり棚に上げているのは公然の秘密だ。
    …良い子はマネしちゃいけません、えぇ絶対に。
     
    「…おや、」
     
    さらに視線をスライドさせて、蒼が意外そうな声を漏らした。
     
    「ん?…あー…」
     
    同じものを見て、優も笑った。
    さっきから急に声が聞こえなくなったとは思っていたが、あぁまさに予想通り。
    二人が膝を抱えて、幼い子供のように無防備な横顔をさらしている。
     
    「…氷雨ー?ここで寝ちゃだめだよーさすがに」
    「寝ませんよー…」
     
    「…青、起きろ。酔いつぶれるにはまだ早いぞ」
    「うっせー…酔ってねぇよ…」
     
    ぼんやりと、眠たげに。
    明らかに酔いのまわった眼をして、氷雨と青は頼りなく頭を揺らした。
    一応受け答えはしているけれど、次第に生返事になっていくであろうことはたやすく予想がつく。
     
    「…え、何これ?つぅか、誰?」
     
    藍が頬を引き攣らせたのも無理はない。
    氷雨の鉄壁笑顔の仮面も、青のくるくるとよく変わる表情も。
    今はすっかりなりを潜めていて、まるで別人だ。
    恐ろしいものでも見るような表情で、藍はそっと後ずさりする。
     
    「…なに、この二人ってお酒弱いの?」
    「えー、なんか可愛いねぇ」
     
    逆に、蓮と風姫が新鮮そうに笑う。
    もっとも不気味なくらい酒に強い二人から見たら、酔うこと自体が不思議なのかもしれない。

    「んー、強くはない、ってとこ?」
    「だな」
     
    ものすごく意外なことに、この二人はアルコールに強くはない。
    …まぁ周りが強すぎるというのもあるけれど。
    それでも、平均よりはずっと弱い体質なのだろう。
    今日だって、楽に杯数を重ねている藍たちの隣で、二人はそれぞれ一本か二本飲んだ程度だ。
     
    微笑ましい、とはきっとこういう事を言うのだと思う。
    慣れた手つきで、蒼は弟の頭を撫でてやる。
     
    「…とりあえず、こいつらが風邪ひかないうちに帰ろうか」
    「あ、じゃあ車呼ぼうか。うちに来なよ、それ抱えて帰るの大変でしょう?」
     
    わりと庶民的なので(今日だってさきいかとか食べてた)忘れがちだが、一応蓮は良いところのおぼっちゃまだ。
    さらりと出てきた車を呼び付ける発言に、思わず藍と優が目を丸くする。
     
    「わー…初めて聞いた、そのせりふ…」
    「ドラマの中だけだと思ってたよ」
    「…なに、今のって僕バカにされた?もしかして」
     
    一度不満げな顔をするけれど、すぐにそれをほどく。
    怒ってなどいないのだ、ただこのやり取りが楽しいだけで。
    けれど、電話でいちばん良い車で迎えに来るように言ってやろうと思ったのは内緒だ。
     
    「ほら、氷雨?おいでー、おんぶしてあげるから」
    「歩けます…だいじょぶ…」
    「うん、歩けないよねー無理しないのー」
     
    「離せよ…一人で歩けるッつの…」
    「ねぇ蒼兄さん、中途半端に意識あるとうざいからこれ、オトして良い?」
    「………やめてやれ」
    「今の間は何?」
     
    「…ねぇ、蓮?」
    「なに?」
    「…きれいね」
     
    それぞれの会話に耳を傾けていた風姫が、楽しそうに微笑んで顔を上げた。
    つられて蓮も微笑みを返し、彼女の見ている世界を見つめる。

    「…そうだね、とても」

    眼前に広がる世界。
    桜は万開で、月は高く。
    空気すらも甘くて、どこか優しくて。

    「(あぁ、願っても良いのなら)」

    彼らを取り巻くすべてが、幸福で在ればいいと思うのだ。
     
    +++
     
    ひらひら、はらはら。
    風に舞い上げられた桜の花が、雪のように降り注いで。
     
    微笑んだ彼の耳元。
    春の亡霊が、囁いた。

    (果てなき春の宴)



    …なっがー!(お前)
    なんかネタいっぱい詰め込んだらすごい長くなった…でも後悔はしてない。
    椎さんがすごいプッシュしてたお花見ネタです。
    この時機逃したらもう書けないからね!必死だったよ。

    歯車、ひとつ。

    ※シリアスバージョン出会い編。
    蒼兄さんと氷雨さんの邂逅。




    「あなた…何、ですか…?」

    意識とは無関係に足が竦むのを、止められない。
    カノジョ――氷雨は、今すぐ目を逸らしてしまいたいのを必死に堪えて小さく喉を鳴らした。

    「…何、とはずいぶんだな、お嬢さん」 

    彼女の視線を受けて、髪の長い男がくすりと笑う。
    それすらも彼女の恐怖心を細やかに撫でていくようで。
    本能で、怖いと思った。
    相手の実力が見た目どおりとは、到底思えないからだ。

    狼が羊の皮をかぶっているような。
    あまりにも強烈な、違和感。
    目の前にいるのに、気配が妙に希薄なのだ。

    笑う膝を叱咤して、努めて冷静な声を出す。

    「失礼を。…ですが一般人は、もう外に避難したはずですよ」
    「あんまり人が多いから、別の出口を探してたんだよ」
    「別の出口、ですか…?」

    パーティ会場で、いきなり煙が上がった。
    警報機が鳴り響き、一瞬にして騒然となった会場。
    出口に殺到した人間をやっとのことで外に誘導して、氷雨は再び場内に戻って来たのだ。

    スプリンクラーが作動し、ずぶ濡れになった会場はもう自分の仲間が封鎖したはずだった。
    だからここには軍部の人間であるという証がなければ入れない。
    なのに――彼は平然と、此処にいたのだ。

    この…異様な雰囲気を纏った、男。
    …否、一見しただけでは彼は普通の青年にしか見えない。
    けれど、普通でない場所に普通の顔をして立っているのは、それだけで異常で。
    すべて理解した上でなおも普通の人間のように振る舞える彼らの事が、彼女は恐ろしくてたまらない。

    「(…普通じゃ、ないわ)」

    あれだけの騒動の中、平然と此処に残っていられることが。
    直後の会場はまさに地獄絵図。
    恐怖とパニック、何が起きているか分からない不安と焦燥。
    それらが混ざり合って、収集がつかなくなっていたのだ。
    それなのに――どうしてここにいられる?
    上がった煙の原因すらも、まだ分かっていないというのに。

    「お嬢さんこそ、何をしてるんだ?こんなところで」

    人好きのする笑顔とともに問われる。
    微笑むとその顔は予想外にあどけなく、自分とさほど年も変わらないように思えた。
    もっとも、それで油断できる人間がいたらお目にかかりたいものだけれど。。

    「…わたしは、軍人ですから」

    彼女は今日ここの警備の為に派遣された軍人だ。
    要人が出席するため、万全の注意をと言い渡されていた。
    …もっとも、彼女は扉の前に居たため騒動に気付いたのは少し遅れてからだったのだが。
    にこ、と青年は楽しそうに笑う。

    「軍人さんにこんな可愛らしいお嬢さんがいるとはな」
    「…それは、どうも」

    言いながら、そっと隠してある銃に触れた。
    あまり射撃の腕に自信はないけれど、この距離なら。
    そう考えてはみるけれど、絶対に自分では彼に傷一つ付けられないだろうという嫌な予感だけはしていた。

    「(…此処から、ださなきゃ)」

    彼の身を案じているのではない。
    このままこの男を放っておいたら、とんでもないことになるような気がしたのだ。
    嫌な予感というのはたいがい当たるものだ、幸か不幸かは分からないけれど。

    「出口ですよね?でしたらどうぞこちらへ――」

    言って、身を返しかけた刹那だった。
    唐突に、照明が落とされる。

    「っ!?」

    何も見えない。
    暗闇に恐怖を誘われて、首筋に鳥肌が立つのを感じた。
    彷徨う掌、不意に耳元に声が飛び込む。

    「…すまないな」
    「え、」

    ちいさな謝罪と、頬に触れる風。
    逃げられたのだと理解して、顔から血の気が引いていく。
    掴まえなくちゃ、咄嗟に腕を伸ばすが、つかむものは宙ばかり。

    「待って、」

    次の瞬間、光が戻ってきた。
    急な明暗の変化についていけず、目を瞑り顔を覆う。
    それでも無理やりに目をこじ開けて、あたりを見回すが。

    そこに居たのは、彼女ひとり。

    「っ…、どこ、に…?」

    どこに行ったの。
    広い会場にはもう彼女しかいなくて、隠れる場所もないはずで。
    あんな短い時間で、ねぇどこに行けるって言うの?

    「…探さなきゃ、」

    唇を噛んで、床を蹴って。
    走り出した彼女の背後。
    ――そうして、歯車がひとつ噛み合った。

    (廻る、巡る、作られた運命の輪が)

    (笑うのは運命の女王か、それとも)



    だいいちだーん。
    なんかも、書きたいものが溢れすぎて形になりません。
    もっと巧く書ける気が…いや、わたしの文章力じゃたかがしれてるけども!!

    そのうち書き直しますが、とりあえずは萌えが暴走したってことで赦してください…!!

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    物書き。
    自己紹介:
    動物に例えたらアルマジロ。
    答えは自分の中にしかないと思い込んでる夢見がちリアリストです。
    前向きにネガティブで基本的に自虐趣味。

    HPは常に赤ラインかもしれない今日この頃。
    最近はいまいちAPにも自信がありません。
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