※シリアスバージョン出会い編。
蒼兄さんと氷雨さんの邂逅。
「あなた…何、ですか…?」
意識とは無関係に足が竦むのを、止められない。
カノジョ――氷雨は、今すぐ目を逸らしてしまいたいのを必死に堪えて小さく喉を鳴らした。
「…何、とはずいぶんだな、お嬢さん」
彼女の視線を受けて、髪の長い男がくすりと笑う。
それすらも彼女の恐怖心を細やかに撫でていくようで。
本能で、怖いと思った。
相手の実力が見た目どおりとは、到底思えないからだ。
狼が羊の皮をかぶっているような。
あまりにも強烈な、違和感。
目の前にいるのに、気配が妙に希薄なのだ。
笑う膝を叱咤して、努めて冷静な声を出す。
「失礼を。…ですが一般人は、もう外に避難したはずですよ」
「あんまり人が多いから、別の出口を探してたんだよ」
「別の出口、ですか…?」
パーティ会場で、いきなり煙が上がった。
警報機が鳴り響き、一瞬にして騒然となった会場。
出口に殺到した人間をやっとのことで外に誘導して、氷雨は再び場内に戻って来たのだ。
スプリンクラーが作動し、ずぶ濡れになった会場はもう自分の仲間が封鎖したはずだった。
だからここには軍部の人間であるという証がなければ入れない。
なのに――彼は平然と、此処にいたのだ。
この…異様な雰囲気を纏った、男。
…否、一見しただけでは彼は普通の青年にしか見えない。
けれど、普通でない場所に普通の顔をして立っているのは、それだけで異常で。
すべて理解した上でなおも普通の人間のように振る舞える彼らの事が、彼女は恐ろしくてたまらない。
「(…普通じゃ、ないわ)」
あれだけの騒動の中、平然と此処に残っていられることが。
直後の会場はまさに地獄絵図。
恐怖とパニック、何が起きているか分からない不安と焦燥。
それらが混ざり合って、収集がつかなくなっていたのだ。
それなのに――どうしてここにいられる?
上がった煙の原因すらも、まだ分かっていないというのに。
「お嬢さんこそ、何をしてるんだ?こんなところで」
人好きのする笑顔とともに問われる。
微笑むとその顔は予想外にあどけなく、自分とさほど年も変わらないように思えた。
もっとも、それで油断できる人間がいたらお目にかかりたいものだけれど。。
「…わたしは、軍人ですから」
彼女は今日ここの警備の為に派遣された軍人だ。
要人が出席するため、万全の注意をと言い渡されていた。
…もっとも、彼女は扉の前に居たため騒動に気付いたのは少し遅れてからだったのだが。
にこ、と青年は楽しそうに笑う。
「軍人さんにこんな可愛らしいお嬢さんがいるとはな」
「…それは、どうも」
言いながら、そっと隠してある銃に触れた。
あまり射撃の腕に自信はないけれど、この距離なら。
そう考えてはみるけれど、絶対に自分では彼に傷一つ付けられないだろうという嫌な予感だけはしていた。
「(…此処から、ださなきゃ)」
彼の身を案じているのではない。
このままこの男を放っておいたら、とんでもないことになるような気がしたのだ。
嫌な予感というのはたいがい当たるものだ、幸か不幸かは分からないけれど。
「出口ですよね?でしたらどうぞこちらへ――」
言って、身を返しかけた刹那だった。
唐突に、照明が落とされる。
「っ!?」
何も見えない。
暗闇に恐怖を誘われて、首筋に鳥肌が立つのを感じた。
彷徨う掌、不意に耳元に声が飛び込む。
「…すまないな」
「え、」
ちいさな謝罪と、頬に触れる風。
逃げられたのだと理解して、顔から血の気が引いていく。
掴まえなくちゃ、咄嗟に腕を伸ばすが、つかむものは宙ばかり。
「待って、」
次の瞬間、光が戻ってきた。
急な明暗の変化についていけず、目を瞑り顔を覆う。
それでも無理やりに目をこじ開けて、あたりを見回すが。
そこに居たのは、彼女ひとり。
「っ…、どこ、に…?」
どこに行ったの。
広い会場にはもう彼女しかいなくて、隠れる場所もないはずで。
あんな短い時間で、ねぇどこに行けるって言うの?
「…探さなきゃ、」
唇を噛んで、床を蹴って。
走り出した彼女の背後。
――そうして、歯車がひとつ噛み合った。
(廻る、巡る、作られた運命の輪が)
(笑うのは運命の女王か、それとも)
だいいちだーん。
なんかも、書きたいものが溢れすぎて形になりません。
もっと巧く書ける気が…いや、わたしの文章力じゃたかがしれてるけども!!
そのうち書き直しますが、とりあえずは萌えが暴走したってことで赦してください…!!
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