※カレとカノジョ、桜企画。
満開です。
「見事ですね」
「うん、本当に」
満開の桜並木の下は、平日のせいか人はまばらだ。
ゆっくりと縫うように足を進めて、時折立ち止まって。
桜を見上げる君を見ているのは、実はなかなかに楽しいのだ。
誇らしげに枝を伸ばした桜。
蒼空の下でもきっと鮮やかに映えるのだろうけれど、彼女の希望で敢えて夕暮れ時を選んだ。
やわらかな藤色の空に描かれた桜は、なんだか着物のようだと思う。
うたうように君が笑う。
「あぁでも、確かにこの桜の下でなら死んでもいいかもしれない」
「西行?だっけ」
「そうです」
終わりを迎えるなら、桜の下で。
その死はどこか甘美ですらある。
張り巡らされた根の下には、死体があるとは聞くけれど。
間際に彼らの声に耳を傾けていられたら、きっと淋しくも怖くもない。
そこまで考えて、子供じみた空想だと嗤った。
「…桜の花は血を吸っているからこんな色をしているんでしたっけ」
折しも彼女も同じことを考えていたらしい。
俺を見上げた瞳の中に、自分とよく似た色を見つけた。
微笑めばそれが答えで、彼女も俺に微笑で答える。
「…じゃあ、桜の下の死体がもっと多ければ、もっと紅いのかもしれませんね」
料理の味付けでも考えるような声だ。
心底から疑問に思っているような。
さらされた横顔は、あどけなさすら漂う。
「…気になる?」
「わりと。どうしてそういう言い伝えになったのかっていうのも含めてですが」
じゃあ。
呟いて、彼女の腕を引いた。
驚いて見上げてくる瞳。
単純に綺麗で、つい見とれる。
「(…嗚呼、此処にあったな)」
忙しく過ぎていく日々の中。
置き忘れてしまったようで、失ってしまったようで。
それすらも忘れていくような、感覚。
きっと、答えはこれなんだ。
「…試してあげるよ、どうなるか」
「…桜が、赤くなるか?」
「そう。一緒に埋まってあげる」
他人が聞いたら、気が違っているとでもいうかもしれない。
考えてみればおかしな約束だ。
一緒に埋まってあげるなんて、まるで心中じゃないか。
しかも発端が「桜が染まるかが知りたい」だなんて、さっきの空想より子供じみている。
だけど、それで良いんだ。
それが良いんだ、俺にとってはこれが最高の。
ふたりして春の亡霊になるんだったら、悪くない。
「…ときどき、とんでもないことを言いますね」
「嫌い?こういうのは」
「いいえ、」
笑った顔に、承諾を知る。
俺は君に甘いと彼女は言うけれど、君だって十分俺に甘いよ。
君の願いを聞くようでいて、これはおれの我儘でしかない。
それをあっさりと赦してしまうのだ、君だって人のことを言えない。
「真っ赤になったら、素敵ですね」
「そうだね、きっと楽しい」
捕らえた腕は、そのままに。
終りの見えない桜並木に、すでに亡霊になったような心地さえした。
(季節をひとつしか知らない花よ、)
(咲き誇りこの世界を染めておくれ)
桜企画…あれこれ第何回?
もう分かりません、だめですこいつ(笑)
久々にこっち更新、かな…?
なんかもう最近脳内からいろいろ溢れて来ててどうしたらいいですかな感じです。
でもどうもしません!!(開き直った)
桜、あといくつか書きたいのが…間に合うかな…。
早くしないと散ってしまいますよ。
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