※仮想世界にて。
氷雨と藍のお話です。
「あら、」
「あ、氷雨ちゃん」
珍しい場所で珍しい人物に会うものだ。
藍と氷雨は互いに軽く目を見張ってから、手を挙げる。
平日の昼過ぎの、ショッピング街。
職に就いている氷雨がこの時間に買い物をしていることも、女性向けの店が立ち並ぶ一角に藍がいることも珍しい光景だ。
そのまま別れるのも忍びなく、二人は人の合間を縫うようにして歩み寄る。
「珍しいね氷雨ちゃん」
「今日はお休みなんで。そういう藍さんこそ、どうしてこんな場所に?」
もっともな疑問に彼は笑って。
普通の女の子ならば少なからずドキッとするような、鮮やかな笑顔を浮かべてみせる。
「んー、今日はおれも暇でさ。だから可愛い女の子でもナンパしちゃおっかなーって」
「…そのうち刺されても知りませんよ?」
一体何人の女の子が犠牲になったことやら。
嘆くように氷雨は天を仰ぐ。
藍が彼女の後ろ、誰かを探すように目を向けた。
「あれ、今日…優さんは?」
なんだかんだで仲の良い恋人だ、休みであれば二人でデートでもしていそうなものだが。
今日は彼女ひとりだけのようで、右側は寒々しく空いている。
「女の子の買い物に付き合わせられませんよ」
気付いて氷雨はくすりと微かな笑顔を向けた。
女の子とは、買い物になにかと時間がかかる生き物なのだ。
幾つかの品物を見比べてみたり、また元の店に戻ってみたり。
それでいて結局買わなかったり、あるいは全然違う品物を買ってみたり。
とかく時間と体力を必要とする女の子の買い物に付き合うのは、なかなか厳しいものだろう。
「へぇ…?」
だけどそれは一般論。
これほど人によるものはないような気がする。
いつだって余裕を含んだ目をした優を思い出して、藍は腑に落ちない顔をした。
「疲れさせちゃうし、悪いじゃないですか」
「ふーん。優さんなら気にしないと思うけどねー」
「わたしが気にするんです」
彼のことだから、買い物に悩む彼女を微笑ましげに眺めるだろうけど。
それはどうにも氷雨のプライドが許さないらしい。
見た目によらず頑固で強情な友人に、藍は笑みを隠せない。
「…なんです?」
「ううん、別にー」
まったく君は素直じゃない。
自分こそ到底素直といえる性格はしていないのに、藍はそう呼びかける。
当然不服そうな顔でこちらを見上げた氷雨に、にっこり笑った。
「じゃあ、おれが買い物付き合ってあげるよ」
「へ?」
そう言うと、返事も聞かず氷雨の腕を取る。
「ちょ、藍さん?」
「明らかにひとりはつまんないって顔してたよ。だからおれが付き合ってあげる」
「でも、」
「おれなら青にーさんと違って良いアドバイス、してあげられると思うよ?…例えば、」
そこで、にやりと笑って。
明らかにイロイロ内包した笑顔に、一瞬警戒する。
彼がこんな顔をするときは、だいたいにしてあんまり良くないことを考えているときなのだ。
「例えば、優さん好みのお洋服、とか。教えられるけど?」
「う、」
ほら、やっぱり。
氷雨は思うが、提示された内容は蹴るにはあまりに惜しい。
どんな格好をしても、彼はにっこりと笑って「可愛い」という。
なおかつちゃんと見ていると思わせる丁寧な誉め言葉を添えて。
だから未だに氷雨は優の好みを知らないのだ。
ただ乗ってしまえば後々からかわれるのは必至で、彼女は似合わない唸り声をもらす。
「…ねぇ氷雨ちゃん、おれってどんだけ信用ないの?」
「それは藍さんの今までの行動その他諸々のせいですよ」
「へー、そういうこと言う?」
「うわぁ悪そうな顔っ」
大げさな身振りで一歩引いた彼女を、藍は苦笑まじりに見た。
年相応な笑い方。
いつもこうやって笑っていれば可愛いのに、と氷雨は思う。
「良いから、ほら。それに今日のおれの予定は可愛い女の子連れて歩くことだったし」
「えーと、わたしこれどこに突っ込めば?」
「だから氷雨ちゃんなら資格じゅーぶん、利害関係は一致したんだから行くよっ」
もう一度手を取りなおして、今度こそ藍は歩き出す。
一瞬悩むような間があったが、大人しく彼女もついてきた。
「…たまに藍さんってイイ男ですよね?」
「たまに、は余計だよ」
「ふふ」
失敬な、と藍は思うが氷雨の笑い声に溜飲を下げる。
いつもこうやって笑っていれば可愛いのに、氷雨が聞いたらものすごく微妙な顔をしそうなセリフを考えて。
「…お互い様かなぁ」
「どうかしました?」
「んーん、何でも」
ふざけて、からかって。
憎まれ口なんて日常茶飯事。
「「…(あぁ、だけど)」」
君の隣は、なかなかに居心地がよく。
わかっているから笑うよ、何もかも見透かした目を互いに向けて。
(さぁ、お買い物に参りましょうか)
ケータイでぽちぽち打ってたんで、編集するまで未選択になってますがお許しを。
たぶんやり方はあるんだろうなぁ…探します。
関係ないですが肩こりが酷くて泣きそうです\(^o^)/
…肩こりはロマンがないよ(何の話)
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