忍者ブログ
書きたいものを、書きたいときに、書きたいだけ。お立ち寄りの際は御足下にご注意くださいませ。 はじめましての方は『はじめに』をご一読ください。
09
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  • 管理画面

    [PR]

    ×

    [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

    神様の桜。

    彼女は春が嫌いだ。

    散り逝く桜の花も、甘く穏やかな日差しも。
    それらはあまりに美しすぎて儚すぎて、何時だって彼女を拒絶する。
    化け物の子供を。
    世界に憎まれた、彼女を。

    彼女は春が嫌いだ。

    その絢爛豪華なひとときは酷く脆くて、彼女がさして力を込めずとも容易く壊れてしまう。
    そして耳元で嗤うのだ、破壊しか生まない己を。
    馴染むことすら許されない、異端の身体を。

    彼女は春が、嫌いだ。

    何故なら春は、彼女が彼女を捨てた季節。



    「ねぇ、どうしたの?」

    呼びかけられてはっとする。
    弾かれたように顔を上げれば、彼の気遣うような眼差しが自分に注がれていて。
    ようやく自分が、彼の家で桜を見ていたことを思い出す。

    「…ごめん、ちょっと考えことしてた」

    そう言って、誤魔化すように窓の外に目を向けた。
    夕闇に霞み始めた空、うつくしい春の象徴がそこに静かに佇んでいる。

    「何を考えていたの?」
    「ちょっとだけ、昔のこと」

    自分がもっと、もっと幼かったころのこと。
    弱くて臆病な女の子だったころのことだ。

    もう捨てたはずだったのに、時折彼女の中で(彼女)が泣くのだ。
    気付いて気付いて、思いだしてと。
    そんな事を考えてしまうのがもう可笑しなことなのにと、笑う。

    「…綺麗」

    呟いて、目を細めた。
    弱い風にもその枝を揺らし、雪のように花びらを降らせる桜。
    けれど、彼女はこの花があまり好きではない。

    「…だけど、はやく夏にならないかしら」

    渡された紅茶を一口すすって。
    もっと乱暴でもっと煌めきに満ちた季節を望む。
    花冷えの空気に晒された身体に、熱い紅茶がひりつくようにして染み込んでいく。

    「なぁに、それ」

    彼が微笑した。

    「君は、夏が嫌いじゃなかった?」
    「…暑いのはちょっと苦手」

    だって、彼女は夏に弱い。
    焦げ付く暑さも、強い日差しも。
    生命力にあふれた夏の匂いも、肌に纏わりつく湿った空気も。
    みんなみんな苦手な彼女は、夏の盛りには不健康に青い空気の中でしか生きられない。

    「でも、春は好きじゃないの」
    「…どうして?」

    彼は尋ねて、眼前の桜を見上げた。
    どこまでも白に近い、薄紅。
    雪景色と見紛うほどに儚げなその花は、人形めいた美貌の彼女によく似合う。

    なのに、彼女は春が好きではないというのだ。
    世界の中心に彼女を据え置いた彼は、彼女に愛されなかったこの季節を哀れに思う。

    ふと、彼女が唇を尖らせた。

    「…だって、春には桜が咲くじゃない」
    「可笑しなことを言うね?」

    彼はもう一度笑った。
    春に桜が咲くのは当然だ、季節が進む限り、必ずこの花は同じ季節に咲く。
    けれど彼女は真面目な表情で続ける。

    「でも、春が儚くて淋しいのは桜があるせいじゃない?」
    「そうかもしれないね」
    「…あたしは、儚いものは嫌いなの。だって、」

    だって、あたしはそれを――壊してしまう。
    見上げた瞳に、はらはらと散る桜の花びらが映り込む。

    「…」
    「あたしが一度ささやけば、きっとこの花なんて一瞬で散るもの」

    彼女は風の女王。
    君の前では、この花は無力に等しい。

    否、桜だけではないのだろう。
    世界は彼女の足元にひれ伏したも同じこと。
    愚かで愛しい女神の前に、この世のすべては膝を折る。

    「…ごめん。変なこと言ったね」

    彼女が明るく笑った。

    「ちょっと感傷的になってるみたい。ごめんね、忘れて」

    春の気配に、惑わされただけ。
    明日になってしまえば、きっと忘れてしまえるから。
    真っ直ぐな彼の瞳から逃げるように、そっと目を逸らす。

    「…確かに、君は一瞬で春を終わらせることができるけれど」

    けれど、声は耳に飛び込んで。
    思わず彼女は身を固くした。
    耳元に、彼の指先が触れる。

    「…」
    「だけど、君はそれをしない。そうだろう?」

    掌の中のカップを奪われる。
    顔を上げると、彼は柔らかに微笑む。
    内緒話でも告げるように、寄せた額は確かな温度を持っていて。

    「その力を行使しないのは、君が春を愛している証拠なんじゃないかな」

    散り落ちた桜の花を、彼女の髪にさした。
    似合うねと笑えば、つられて彼女も少しだけ笑う。

    「今だって君はこうして春を愛して見送って。だからね、君は破壊神にはなりえないんだよ」

    ふれた掌は、春そのもののように甘やかに冷たくて。
    春の匂いが取り巻いて、ここだけが隔離されているようだった。

    夕暮れに霞む庭。
    切り離された世界の中に在るのは、春に愛された彼らだけ。




    桜企画、彼と彼女です。
    でも実はリサイクルなんだぜ!!

    甘いなー、甘いなーほんと。
    なんでこの二人はたまーにこうやって甘くなるんだろう。
    照れてしまいます、こういうのは。

    そろそろ散り始めるころでしょうか?桜が散るのはうつくしいからそれも楽しみですね。
    PR

    お名前
    タイトル
    文字色
    URL
    コメント
    パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
    非公開コメント
    この記事にトラックバックする:
    [93]  [92]  [91]  [90]  [89]  [88]  [87]  [86]  [85]  [84]  [83
    カレンダー
    08 2024/09 10
    S M T W T F S
    1 2 3 4 5 6 7
    8 9 10 11 12 13 14
    15 16 17 18 19 20 21
    22 23 24 25 26 27 28
    29 30
    フリーエリア
    最新CM
    [10/18 椎]
    [10/16 椎]
    [06/21 椎]
    [05/25 椎]
    [10/31 椎]
    最新記事
    (02/01)
    (01/18)
    (01/11)
    (12/16)
    (12/01)
    最新TB
    プロフィール
    HN:
    祈月 凜。
    年齢:
    33
    性別:
    女性
    誕生日:
    1990/10/10
    職業:
    学生。
    趣味:
    物書き。
    自己紹介:
    動物に例えたらアルマジロ。
    答えは自分の中にしかないと思い込んでる夢見がちリアリストです。
    前向きにネガティブで基本的に自虐趣味。

    HPは常に赤ラインかもしれない今日この頃。
    最近はいまいちAPにも自信がありません。
    MPだけで生き延びることは可能ですか?

    御用の方は以下のメールフォームからお願いします。


    Powered by NINJA TOOLS




    バーコード
    ブログ内検索
    P R
    カウンター
    アクセス解析


        ◆ graphics by アンの小箱 ◆ designed by Anne ◆

        忍者ブログ [PR]