※階段の神様。
それは、あまりに陳腐でありふれた、愛の告白。
彼女は心の底から驚いた顔で、俺を見つめる。
色彩に恵まれなかった彼女の後ろ、冬晴れの空だけが鮮やかに蒼い。
それだけで許せるような気に、ほんの少しだけ浸る。
一度眼を閉じて、ひらいて。
彼女に一歩だけ、近づく。
「…絆くん、ちゃんと起きてる?」
「ひどいこと言いますね」
一世一代の告白を。
苦笑するけれど、まだ理解が出来ないような顔で見返された。
そりゃあ、まぁ。
常識的に考えたら、おかしいのは俺だろうけど。
でも、だれ一人幸せに出来ない常識なんて、そんなの捨ててしまえばいいと思うんだ。
「…私は、ヒトじゃないんだよ?」
「知ってます」
「いつ居なくなるか分からない。あるいはずっとずっと、絆くんを縛るかもしれない」
「それも、承知の上です」
そんな覚悟は、とうに決めた。
何時か被る痛みより、曖昧なまま消える境界線の方が俺はいやだよ。
まっすぐ見返した先、泣き出しそうに君はわらう。
「意味、わかんない。だって私はもう死んでるんだよ?」
「それは理由になりませんよ」
「……同情ならいらないから」
「同情で告白なんてできません」
淡々と、向かい合ったまま声を投げる。
目は、逸らさない。
挑むように互いを見つめたままだ。
躊躇うように数度唇を開きかけて、彼女は問う。
「………なんで、あたしなの」
「そんなの、セツキ先輩が好きだからに決まってるじゃないですか」
間髪入れずに叫んだ。
嗚呼、そうだよ。
俺はあなたが、雪姫先輩がすきなんですよ。
誰が何と言おうと、例えそれが間違いでも。
俺は、あなたが。
「…ばか、じゃないの」
ふわりと、ほどけるように彼女は笑う。
「そうですね」
「普通、考えないよ。幽霊と恋愛しようだなんて」
「好きになった人がたまたま幽霊だっただけですよ」
きっといつか俺は泣くだろう。
それでもこの選択だけは、後悔する気が起きないよ。
あなたを好きになったこと、それだけは嘘にしたくない。
「……そろそろ諦める気になりました?」
「…意外にしつこいんだね絆くん」
「ご存じありませんでした?」
姉を真似たにこやかな笑顔。
ようやく根負けしたように、彼女は俺に近づいた。
一歩、また一歩。
じりじりと距離を詰めたと思ったら、次の瞬間いきなり飛びつかれた。
「うぁっ!?」
「……っ」
不意打ちに驚いてよろめいた。
すぐに体勢を立て直すと、自分とそう変わらない位置にある頭が肩口に押しつけられた。
冷えてはいるけれど、それは確かに体温を持っていて。
クラスの女の子たちと、なんら変わらないはずなのに。
――嗚呼、きみ、は。
「……ねぇ、絆くん?」
「はい」
わたしも、すきだよ。
涙交じりに返された答え。
俺は笑おうとして、それよりも先に視界がぶれた。
「……はい、」
間違いだらけの俺たちの恋は、こうして密やかに始まった。
(あいしてる、の魔法を)
階段の神様。でした。
何時か絶対泣くって分かってるのに、絆は無謀だなぁ、と思ったり思わなかったり。
でも彼が自分で選んだ答えなので、きっと後悔はしないのでしょう。
いまさらですがセツキにはちゃんと足はあります。
透けてたりとかもしません。
見た目は幽霊っぽくないです、大丈夫です(何が)
そのうちちょっとした違いみたいのが書けたらなぁと思ってます、はい。
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