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※階段の神様。
「そういえば、セツキ先輩はこの寒いのになんで屋上に?」
ふ、と。
思い出したように掠めた疑問。
顔をあげると。少し困ったような顔に出逢って驚いた。
「えっと~…」
「なんですか急に…っくしゅ!!」
言いたくないなら無理に言わなくても。
そう言おうとした矢先、情けないくしゃみが飛び出した。
…忘れてたけど、寒い。
指先が、今にもデジカメを取り落としそうなくらいに冷えていることに気付く。
「あぁあぁ…もー、そんな格好で屋上でるからー!」
「いや…でも俺セーター着てるし、」
「ほらほら、風邪ひく前にはやく戻りなさい」
でも、と言いかけた言葉を飲み込む。
確かにこのまま外に居たら、ほんとに風邪を引きそうだ。
「…ねぇ、絆くん」
「はい?」
扉の前まで来たところで、肩を突かれた。
「…また、来てくれる?」
振り返らないまま聞いた声が、なんだか妙に淋しそうで。
頭で考えるよりも先に、俺は答えを出していた。
「また来ます、絶対」
背中で、ふわりと微笑がほどける気配がする。
「嬉しい。ありがとう」
「今度はちゃんと、あったかい格好で来ますよ」
「そうだね、それが良いよ」
「先輩も、セーターくらい着た方がいいですよ?風邪ひきます」
この時期にセーラー服だけという苦行みたいな格好の彼女。
クラスメイト達はすでに上にカーディガンを着こんだり、マフラーに顔をうずめたりしているのに、その恰好はものすごく寒そうだ。
けれど彼女はふふ、と笑う。
「女の子は中にいろいろ仕込んでるのよ」
「そういうもんですか?」
「そういうものです。さ、早く戻らないと」
ぐ、と背中を押されて、扉の向こうに押し出される。
けれど、それは俺だけで。
「先輩は?」
「私は、もう少しだけ」
「でも、」
ゆるりと首を振って、彼女は笑う。
このまま中に戻る気はないらしい。
「…風邪ひかないでくださいね」
諦めて、苦笑した。
彼女が残ると言うならば、俺にどうこういう権利はないし。
あっさりした引き際に彼女はすこし驚いたような顔をしたが、すぐにありがとう、と言って扉を細くする。
妙に白い光の中、姿は影のようになり、声だけが鮮明に響く。
「またね、絆くん」
「…えぇ、また」
短いやり取りの後、灰色の重たい扉がばたん、と閉まった。
急に暗くなった視界に、翻る濃紺がだぶる。
「…中学生かよ」
肩をひとつすくめて、階段を駆け降りた。
(影法師の恋)
階段の神様。でした。
最初の出会いにどんだけ時間かけるんだ…。落ち着けわたし。
なんとなく屋上って憧れがあります。
高校のときはよくお弁当食べたりとかしてました。
でもなんていうか、屋上ってちょっと特別な感じがします。
普段はそんなに出ないからかな。
※階段の神様。
「それで、良い写真は撮れたの?」
楽しそうに楽しそうに。
何もかもが心を浮き足立てせて仕方無いんだとでもいうような、表情。
そんな顔で覗きこまれたら、こちらだってつい微笑んでしまいたくなる。
「えぇ、それなりには。……元の持ち主よりは、よっぽどセンスが良いんじゃないかとは思うんですけどね」
「元の持ち主?」
不思議そうな顔に、このデジカメが姉からの貰い物だということを話す。
写真を撮るのが好きなくせに、ヘタクソだから諦めたらしい。
そう言うと、彼女はくすくすと笑った。
「うーん、確かにこういうのってセンスに頼る部分も大きいんだろうねぇ…」
「姉が撮る写真って、なんかビミョーにズレてるんですよ…中途半端っていうか」
「ふふ、じゃあ上手に撮ってお姉さんにプレゼントしてあげたら?」
「そうですね」
一度だけ、姉の暮らす寮に入れてもらったことがある。
パソコンの接続をしてくれとのお達しで、本来ならば男子禁制の女子寮に足を踏み入れたのだ。
白い壁、簡素なベッドと机。
チェストの上に置かれたピンクのふちの鏡とケア用品のカゴだけが、かろうじてここが女の子の部屋なんだということを表している。
『うっわ、姉さんの部屋ちょう殺風景。年頃の女の子の部屋がこれで良いの?』
『うるさいわね、寮でそんな好き勝手できるわけないでしょ』
『だからってさー…もうちょっとなんかあるだろー…?』
実家の部屋には、ぬいぐるみやら可愛いライトやらを置いてるくせに。
まるで色んなものを削ぎ落とすように振り払うように、姉は頑なに口を引き結んだまま部屋の壁を見つめていたことを覚えてる。
「絆くん?」
「え?」
呼ばれて我に返った。
慌てて苦笑して、なんでもないですと答える。
「そうですね、ちゃんと額にでも入れて送ってやろうかな」
「羨ましいわ、そんな風にじぶんのこと大事にしてくれる弟が居るなんて」
彼女はひどく眩しそうに目を細めた。
それはたぶん、手に入らないものを見つめる顔。
今度は俺が首をかしげた。
「菅原、先輩?」
「せつき」
「は?」
問いには答えず、彼女はきっぱりと宣言する。
意味が分からずさらに首をひねると、それが可笑しかったのかころころと笑われてしまった。
ひとしきり笑ったあと、彼女は真っ直ぐ俺の目を見る。
「セツキって呼んで。菅原先輩、って長いから嫌なの」
「…えぇと」
「ダメ?絆くん」
………その顔は反則だろう。
なんだこの人…分かってやってるなら相当な小悪魔か女優だぞこれ。
「…分かりました、セツキ先輩」
「わぁい、ありがとーっ」
心の中でひらひらと白旗を振って、俺はよく晴れた冬空を見上げた。
(あぁ、なんて白の映える、)
階段の神様。でした。
うーん、何て言うかセツキさんの本領発揮(笑)
セツキが美人なのと、絆もオトシゴロってことで赦してやってください。
ほんとは「セツ」って呼ばせたかったんですが(真夏のシンデレラではセツだった)、セツ先輩ってなんか語呂が悪い気がしたんだ…。
そんなんで第四話でした。
※階段の神様。
「今日は職員会議だから、生徒は早く帰らなくちゃいけないんじゃないの?」
微笑んだまま、彼女は問う。
「あー…まぁ、そうなんですけど…」
「あと、フェンスには登っちゃだめだよ。危ないから」
ダメだ、と言いながらも叱る口調ではまるでなく、どちらかというと俺の行動を楽しんでいるような声だ。
上履きの縁の色が緑だから、三年…俺よりひとつ上か、と考える。
やけにその上履きは白くて、買ったばかりのようだ。
「先輩こそ、帰らなくていいんですか?」
「私は良いの」
「(…なんつー言い訳だ)」
適当感満載の言い訳に、突っ込みを入れる気力すら湧かない。
まぁバレなきゃいいんだろう、と思ってよしとする。
たん、と軽い足音を立てて、彼女は俺に歩み寄る。
紺色のセーラー服から覗く手足や顔は白く、どこか人間離れしたような雰囲気だ。
どこかで見たことがあるような気がして、内心首を傾げる。
二歩近づいたところで彼女は手にしたデジカメを見つけて、楽しそうに目を輝かせた。
「わぁ、それ可愛い。デジカメ?」
赤くて小さくて、いかにも女の子が好みそうなデザイン。
くれた相手が相手だから、当然なのだけれど。
軽く掲げて見せると、興味津津な顔で見上げられた。
「えぇ。…持ち出したの今日が初めてなんで、全然撮れてないんですけど」
「あー、それで屋上だったんだ。ここからの眺め、綺麗だもんね」
そう言って彼女はにっこりと破顔する。
綺麗な顔立ちをしていたから大人っぽく見えていたけれど、笑うとたちまち年相応の顔になる。
姉とは正反対、と思ってこっそり苦笑する。
その苦笑を見つけられたらしい。
彼女は不思議そうに首を傾げたけれど、すぐに再び笑顔を見せた。
「私、菅原 雪姫(すがわら せつき)。君は?」
あっさりと、なんでもないことのように。
普通に考えたら、こんなところで初対面の先輩に、名前を教える理由も教えられる理由も、存在しないのだけど。
決して不快ではないやり方で距離を詰められて、俺は問われるままに口を開く。
「春日、絆(かすが きずな)…です」
…可愛らしい響きの自分の名前が、実を言うとあまり好きではなかった。
かすが、と言うどこかおっとりした苗字と相まって、名簿で見た時に絶対『春日さん』と呼ばれるし。
一番ひどかったのは小学校の頃、好きだった女の子に『絆くんって、女の子みたい』と言われたときだ。
そりゃ小学校の時は女子の方が成長早いだろうよ、と家に帰ってだいぶ凹んだ記憶がある。
「絆くん、か」
この人はどんな反応をするだろう。
可愛い名前だと苦笑するか、それとも笑うだろうか。
見つめた顔は、確かに笑みを乗せたのだけれど。
「綺麗な名前だね。呼びやすいし、親しみやすい」
それは、今まで言われたことのない、回答だった。
ぱしりと瞬いた目、そこに彼女は華やかに笑う。
「初めまして、春日 絆くん。これから――よろしくね」
その『よろしく』は。
残念なことに、とてもとても短い期間だけのものだったのだけれど。
それでも確かに、あの時俺はその言葉に幸福を覚えたんだ。
(雪の君と結ぶ縁)
第三話。
あまり雪姫さんが変人にならなかったな…うぅむ(何それ)
わたしはちっさい頃は名前でからかわれる側だったので、名前を褒めてもらうとめちゃくちゃ嬉しくなります。
名前は大事なんだよ。
その人をかたちづくるモノだから。
漢字の意味とかね、音とかね。
ちゃんと素敵な、願いがあるんです。
名前はなんだっけ、最初にもらう愛情だとかなんとか。
…何を語りたかったんだろう?(えー)