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※階段の神様。
「今日は職員会議だから、生徒は早く帰らなくちゃいけないんじゃないの?」
微笑んだまま、彼女は問う。
「あー…まぁ、そうなんですけど…」
「あと、フェンスには登っちゃだめだよ。危ないから」
ダメだ、と言いながらも叱る口調ではまるでなく、どちらかというと俺の行動を楽しんでいるような声だ。
上履きの縁の色が緑だから、三年…俺よりひとつ上か、と考える。
やけにその上履きは白くて、買ったばかりのようだ。
「先輩こそ、帰らなくていいんですか?」
「私は良いの」
「(…なんつー言い訳だ)」
適当感満載の言い訳に、突っ込みを入れる気力すら湧かない。
まぁバレなきゃいいんだろう、と思ってよしとする。
たん、と軽い足音を立てて、彼女は俺に歩み寄る。
紺色のセーラー服から覗く手足や顔は白く、どこか人間離れしたような雰囲気だ。
どこかで見たことがあるような気がして、内心首を傾げる。
二歩近づいたところで彼女は手にしたデジカメを見つけて、楽しそうに目を輝かせた。
「わぁ、それ可愛い。デジカメ?」
赤くて小さくて、いかにも女の子が好みそうなデザイン。
くれた相手が相手だから、当然なのだけれど。
軽く掲げて見せると、興味津津な顔で見上げられた。
「えぇ。…持ち出したの今日が初めてなんで、全然撮れてないんですけど」
「あー、それで屋上だったんだ。ここからの眺め、綺麗だもんね」
そう言って彼女はにっこりと破顔する。
綺麗な顔立ちをしていたから大人っぽく見えていたけれど、笑うとたちまち年相応の顔になる。
姉とは正反対、と思ってこっそり苦笑する。
その苦笑を見つけられたらしい。
彼女は不思議そうに首を傾げたけれど、すぐに再び笑顔を見せた。
「私、菅原 雪姫(すがわら せつき)。君は?」
あっさりと、なんでもないことのように。
普通に考えたら、こんなところで初対面の先輩に、名前を教える理由も教えられる理由も、存在しないのだけど。
決して不快ではないやり方で距離を詰められて、俺は問われるままに口を開く。
「春日、絆(かすが きずな)…です」
…可愛らしい響きの自分の名前が、実を言うとあまり好きではなかった。
かすが、と言うどこかおっとりした苗字と相まって、名簿で見た時に絶対『春日さん』と呼ばれるし。
一番ひどかったのは小学校の頃、好きだった女の子に『絆くんって、女の子みたい』と言われたときだ。
そりゃ小学校の時は女子の方が成長早いだろうよ、と家に帰ってだいぶ凹んだ記憶がある。
「絆くん、か」
この人はどんな反応をするだろう。
可愛い名前だと苦笑するか、それとも笑うだろうか。
見つめた顔は、確かに笑みを乗せたのだけれど。
「綺麗な名前だね。呼びやすいし、親しみやすい」
それは、今まで言われたことのない、回答だった。
ぱしりと瞬いた目、そこに彼女は華やかに笑う。
「初めまして、春日 絆くん。これから――よろしくね」
その『よろしく』は。
残念なことに、とてもとても短い期間だけのものだったのだけれど。
それでも確かに、あの時俺はその言葉に幸福を覚えたんだ。
(雪の君と結ぶ縁)
第三話。
あまり雪姫さんが変人にならなかったな…うぅむ(何それ)
わたしはちっさい頃は名前でからかわれる側だったので、名前を褒めてもらうとめちゃくちゃ嬉しくなります。
名前は大事なんだよ。
その人をかたちづくるモノだから。
漢字の意味とかね、音とかね。
ちゃんと素敵な、願いがあるんです。
名前はなんだっけ、最初にもらう愛情だとかなんとか。
…何を語りたかったんだろう?(えー)