※彼と彼女。
心配性な彼のお話。
「こら」
「あ、」
奪われる。
抗議するつもりで振り返って、けれどあたしを見下ろす顔が思ったよりも不機嫌そうなことに驚いた。
口を噤む。
そのまま首を傾げると、やけに大きなため息をつかれた。
「…なに」
「ちゃんとご飯は食べるように、って言ったでしょ」
「…食べてるよぉ」
「きゅうりとアイスと氷はご飯とは言わない」
…ばれてるし。
証拠隠滅しとけばよかったなぁ、と内心舌を出した。
もう一度彼はため息をついて、あたしの正面に座った。
「…あのね。僕は心配してるんだよ」
「…分かってるよ」
「ただでさえ食が細いんだから、こんなことしてたらいつ倒れるか分かったもんじゃない」
あたしの頬に触れる、指。
おぼろげに、あつい、と思う。
低いひくい温度をもったあたしの指先とは、比べ物にならないくらい。
その身に宿すのが、炎だからだろうか。
心臓を焦がし続ける炎。
「…大丈夫だよ」
「それでも」
自分だって、そんなに食べる方じゃないくせに。
不満が顔に出たのか、頬にふれたままの指が形を変えてあたしの頬を引っ張った。
「…いひゃい」
「痛くないでしょ」
痛くは、ないけど。
めいっぱい甘やかされて手加減されてるから。
それでも彼は、すぐに手を離した。
離れていく体温が、少しだけおしいと思う。
「…ご飯、食べよう」
呟かれた声に、そう言えばお腹が空いていたと思った。
意識したら、たまらない飢餓感。
そりゃそうだ、二日間ろくなものを食べていなかったんだから、お腹だってすくだろう。
これでよく倒れなかったなと他人事のように考えて、床に置かれた彼の手に自分のそれを重ねた。
「ごめん、冷蔵庫何もない」
「そんなとこだろうと思った」
やっと笑った。
苦笑顔だけど。
彼は立ち上がって、重ねていた手を取ってあたしも立たせた。
ふわん、と頼りない足元。
怒られるかな。
「何か、食べに行こう。ちゃんと栄養のありそうなやつ」
こんな栄養素の低いものじゃなくてね、と言って、彼はあたしからうばったきゅうりを示した。
…かじりかけ。
どうしようかな、と思っていると、そのまま彼はきゅうりを口に運ぶ。
「似合わなーい」
「うるさいな」
お坊ちゃまなのに、きゅうりの丸かじり。
こんなに似合わないのも初めてだ。
「だって勿体ないでしょ」
「そうだけど」
「君に食べさせたらなんかダメな気がする」
言いながらきゅうりを食べ終えて(そう言えばこの人味噌とか塩とかつけてないけど良いのかな)、今度こそ二人して玄関に足を向けた。
きゅ、と鳴いたフローリングが冷ややかで、心地よい。
「何が食べたい?」
「あったかいもの」
「んー…了解」
繋いだままでいたら、温度は溶けるのだろうか。
それまで君は、あたしを一緒に居てくれるのだろうか。
問いかけはしない。
答えはたぶん、そこにあるから。
「行こう。一緒に、食べよう」
「…うん、」
ランプのない食事を、ご一緒に。
きゅうり食べながら書いてみました(そんな)
お腹すいたんだぜ…でも家の中に食べ物がないという。
どんな状況だ!
あとタイトルのクラリアに意味はないです。
なんだクラリアって。
彼女はとにかく華奢なので、彼はいつも心配なのです。
華奢っていうか、薄い?なんか人間味のない、人形っぽい身体をしてます、彼女は。
顔立ちも人形めいてるので、たまに本当に生きてるのかよく分からなくなる人。
彼もちょっと小柄なタイプ。
細いし。
でもそれなりに鍛えてはいるんです、あんま筋肉付かないけど。
そんな訳で、何か食べるものを調達してきます(笑)
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