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書きたいものを、書きたいときに、書きたいだけ。お立ち寄りの際は御足下にご注意くださいませ。 はじめましての方は『はじめに』をご一読ください。
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    ホーリー・スクエア。

    ※カレとカノジョ。



    気付いたら、唇を噛んでいた。
    さらに気付くと、わたしは組んだ腕に触れる指先をゆっくりとだけど休ませることなく動かしていた。
    あぁ、と嘆息する。
    なんだってわたしは、仕事終わりにこんな思いをしなくちゃいけないのかしら。

    「もうちょっとだから、待ってて」

    こんな思い、をさせている張本人が、にこりと微笑んでわたしを見る。
    別に、待っていること自体は構わないのだ。
    待つことがそれほど苦になる性質でもないし。
    たぶん、待ち合わせの時刻から二時間すぎるくらいまでならわたしは相手を待てる。

    ただその間、まったくの手持無沙汰、ということこそが問題なのだ。

    「…なにかお手伝いすることはありませんか」
    「何もないよ。もう少しだけだから、待ってて?」

    何度目になるか分からない問い。
    何度目になるか分からない答え。

    わたしは本当にこれっぽっちもやることがない状態で、恋人が料理を終えるのを待たされている。
    手伝わせてくれない、というよりも何もさせてくれないのだ。
    お皿を並べることは勿論、テーブルの上を片付けることだって。
    …さすがに、全部任せてわたしは優雅に読書、なんて真似はとてもじゃないけど出来ない。
    だから実質、わたしは本当に何もせずにただ座って待っているだけなのだ。

    「……」

    するべき人の手元に、するべきことがあるのは幸福。
    わたしは、少なくとも今は本気でそう思う。
    読むべき人の元に活字、聞くべき人のところに音。
    そう言う風に、ちゃんと物事がただしく納まっている状態が、好ましい。

    「うーん…」
    「待ちくたびれた?ごめんね」
    「いえ、そうでなくて…」

    口をつぐんで、さらにもう何度目か分からない問いかけをした。

    もう半ばあきらめたけれど。
    どうしてわたしは、一切何にも手を貸さず、恋人が料理を作る背中を眺めているのだろうか。

    「…あの、先輩」
    「ん、なに?」
    「今日って何かの記念日でしたっけ?」

    …これで「付き合って一周年でしょ」とか言われたらわたし相当アレな恋人なんだけど。
    いくらなんでも記念日を忘れたりはしない…と、思う。
    だけどわたしの誕生日でもないし、先輩の誕生日でもないし…。

    「ううん、何にも」
    「…ですよねー……」

    良かった…のかな、いやあんまり良くはないかも。
    状況は変わってないし。
    困ったなぁ、なんの手伝いもしないというのは逆に落ち着かない。

    「できたよ」

    かち、とコンロを止める音がして、先輩がこちらに戻ってくる。
    腰を浮かしかけたが、すぐにそれも阻止された。

    「はい、どうぞ」

    盛りつけから何から、なんかもう本当に全部やらせてしまった。
    せめて後片付けくらいは、と思うけれど、含みのあるこの笑顔から察するにそれも難しいかもしれない。

    「美味しそう」

    出されたのはロールキャベツ。
    ほかほかと湯気が立って、おいしそうだ。
    素直に感想をもらしたわたしににっこりと笑いかけて、先輩はどうぞ、とカラトリーを渡してくれる。

    「…食べないの?」
    「……いただきます」

    小さく手を合わせて、ひとくち食べる。
    …あ、おいしい。
    もしかしたら、わたしが作るよりも。

    「どう?」
    「おいしいです」
    「それは良かった」

    そう言って先輩も食べ始める。
    唇をちょっと尖らせて冷ますしぐさがなんだか可愛い。
    二口三口食べたところで、わたしは改めて顔を彼に向けた。

    「ところで先輩、どうして急に料理なんて作ったんです?」

    湯気の向こう、彼は笑う。
    わたしの目を真っ直ぐに見て。

    「んー、ただ俺がロールキャベツ食べたかっただけだよ」

    嘘だなぁ、と思う。
    この人は、真っ直ぐに目を見て嘘が吐けるひとなのだ。
    というか、真っ直ぐに目を見て話すときは大体嘘だ、残念なことに。

    「それでしたら二人で作った方が早いでしょうに」
    「なんとなく、だよ。…俺が理由なしに動いたら可笑しい?」
    「えぇ」
    「…せめて間を置こうよ」

    苦笑する。
    そうして目線は外れて、彼はスープ皿に顔を向けた。

    「単に手持無沙汰でそわそわする君が見たかったから、とかは?」
    「あぁ、それなら信憑性がありますね…」
    「うわぁ恋人に対するこの容赦のなさ!」

    大げさな言葉に笑いあう。
    …ほんとはそんな事、あんまり(あくまでもあんまり)思ってはいないのだけど。
    それでもなお彼を見つめていると、諦めたように先輩は肩をすくめた。

    「…最近、」
    「はい?」
    「胃が痛い、って言ってたじゃないか」
    「…いいました、ね。そんなこと」

    思い出す。
    わたしの身体は残念なことにそんなに丈夫ではなくて、というかむしろ脆弱なほうで。
    すぐに不調をきたしてしまう、情けないことに。
    大抵それは消化器官に表れて、わたしの胃は二三日も気を張った状態が続くと、たちまち消化不良を起こすのだ。
    夏バテ気味ならそれはなおさらで、ここ最近なんとなくまともな食事を取っていないことも思い出した。

    もうちょっと頑張ってよ。
    タフに生きようぜ、わたしの身体。

    「わりと男性向けに作られてる寮の食事よりも、こっちで作った方がいいんじゃないかな、と思ってね」
    「…はぁ、」
    「知ってる?キャベツって胃に優しいんだよ」

    淡々と話す彼の声は、半分くらいしか頭に入らない。
    えぇと、それってつまり――わたしの為?

    「…それくらい気付いてくれる?」
    「え、あ、はいすみません」
    「良いけどね、別に」

    湯気を纏ったロールキャベツ。
    丁寧に煮込まれて、優しい味がする。
    つかれた胃に、それは考えなくても優しいと分かる。

    「…ありがとう、ございます」
    「ま、部下の健康に目を配るのも上司の仕事だからね」
    「それだけですか?」
    「それが一割で、あとは恋人としての心配とかその他諸々エトセトラエトセトラ」

    冗談めかして答えるのは、本音だと思っていいだろう。
    そんなに素直な人種じゃないから、本当のことを言う時はすこしの嘘を混ぜなくちゃいけないのだ。
    嘘に少しの本当か、というのは置いといて。

    「…おいしい、」

    俯いたら泣いてしまいそうで、わたしは真っ直ぐ顔を上げた。
    今すぐこの人に抱きついてしまいたい気持ちも、一緒に飲みこんで。

    「はやく元気になって、心配してるんだから」

    それもこの人は、見透かしているのかもしれないけれど。
    ふわりと鼻をかすめたスープの香り、あまりに幸福で目を伏せた。




    ロールキャベツは美味しいよねっていう。
    わたしの家じゃあまり作りませんが。

    最近暑くてちょっとバテ気味なカノジョでした。
    夏はでもどうしたって食欲落ちるよね…っていうか食事の回数減りますよね、朝起きるの遅いから。
    …夏休みだからって気を抜きすぎだろうっていう話ですが。

    カノジョも彼女もわりと脆い身体をしてそうです、しょっちゅう倒れてそうです。
    っていうかちょう健康で趣味はランニングです、みたいな彼女らをわたしは見たくない(笑)

    みなさまも夏バテにはお気を付けください!
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    1990/10/10
    職業:
    学生。
    趣味:
    物書き。
    自己紹介:
    動物に例えたらアルマジロ。
    答えは自分の中にしかないと思い込んでる夢見がちリアリストです。
    前向きにネガティブで基本的に自虐趣味。

    HPは常に赤ラインかもしれない今日この頃。
    最近はいまいちAPにも自信がありません。
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