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書きたいものを、書きたいときに、書きたいだけ。お立ち寄りの際は御足下にご注意くださいませ。 はじめましての方は『はじめに』をご一読ください。
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    01 君はプリマヴェーラ。

    ※仮想世界。
    今更ながらに桃花と氷雨のファーストコンタクトを載せてみる。

     

    「…曜日が変わると、雰囲気もなんとなく違うものね」
     
    氷雨の同僚が、風邪をひいた。
    普段この曜日は彼が見回りをすることになっているのだが、そんな理由から翌日担当だった彼女が振り替えで行くことになり。
    一応上司である優の言いつけに素直に頷いて、普段は軍のデスクに向かっている時間に外に出た。
     
    「(…良い天気)」
     
    低気圧とはとにかく相性の悪い彼女。
    晴れているとそれだけでなんとなく嬉しい気がして、少しだけ笑った。
    かつこつと、丁寧に靴音を立てながら見慣れた街中を歩いていく。
     
    「あ、」
     
    思わず、小さく声を上げた。
    意識せず、足すらも止まる。
     
    氷雨の目を奪ったのは、色鮮やかに咲く花々。
    街の片隅にひっそりと開かれた、そこは小さな花屋だった。

    「…可愛いー」

    つい、子供っぽい声が漏れて恥ずかしくなる。
    だけど柔らかな光の灯る店内や、細かなところまで心配りのされたディスプレイ。
    鮮やかに華やかに、けれど決して雑然とした印象を与えることなく配置された花籠は、つい目を引かれるほどに愛らしい。

    普段彼女が見回りに行くときは、定休日らしく閉まっていて。
    この店の前に立つのは、実は今日が初めてだった。
     
    「(…そっか、もうガーベラの季節なんだ)」
     
    多彩な色に染まったたくさんのガーベラに、苦笑をこぼす。
    それと同時に、先ほどまで自分が居た色彩に恵まれない軍部を思い出した。

    灰色のデスク、白い壁、沈んだ色の制服。
    軍人なので奇抜な髪色など在りようもしない。
    そういえば最近目を奪われたのは、青の鮮やかなピンクの髪だったことに思い至った。

    明るい、春の色。
    奇抜な色に染めて刺々しい雰囲気を醸し出してはいるが、本当は彼の髪は酷く柔らかで優しい音を奏でることを知っていた。
    それは自分だけではなく、彼の傍にいる皆が知っているのだけれど。

    くす、と微笑ましい気持ちになりながら、飾られた花に目を落とす。
     
    「(この薄いピンクはエレノア、白地に赤い縁取りは…ポンパドールかな)」
     
    考えればいくつかの名前も浮かぶ。
    忙しさにもまれるうちに、いつの間にか自分が季節に疎くなっていたことに気付いて、少し彼女は恥ずかしくなった。
     
    祖父母が花好きだったため、元来氷雨は植物に関してはそこそこの知識も持っていた。
    なので少し前ならば、彼女もショーウィンドウの中のマネキンが着る衣服などではなく、木々の間に咲く花や、こうして花屋の店先に並ぶ植物で季節の流れを知ることが出来ていたのだ。
    けれど今は、見つけてようやく思い出す始末。
    なんていうか優雅じゃない、そう思って彼女は苦笑した。
     
    「あら、いらっしゃいませ」
     
    その時だ。
    おっとりとした声が奥から聞こえて、氷雨は驚いて居住まいを正した。
    そんな彼女を苦笑しながら、姿を見せたのは店員と思われる女性。
     
    「(綺麗な人、)」
     
    ふわりと首筋で揺れる髪や、あたたかな眼差し。
    大人びているのに、こちらを見る笑顔は可憐な少女のようで。
    花のような人、と聞いて浮かべるのはきっと彼女のような女性が正しいのだろうと氷雨は想う。

    少しロマンチックな言い方が許されるなら、花の妖精。
    色とりどりに咲く花の間からやってきた彼女を見たとき、本当にそう感じたのだ。
    どぎまぎと、氷雨は少しだけ目を伏せる。
     
    「あ…ごめんなさい、お店の前で、立ち止まったりして」
    「ふふ、良いのよ。見て行ってくれて嬉しいわ」
     
    警戒されるか、軽蔑されるか。
    軍の猟犬であるが為の制服を見ても、態度を変えない彼女に氷雨は少しだけ安堵する。
    その可憐な彼女はにっこりと笑って、氷雨を見た。
     
    「女の子の軍人さんなのね?素敵だわ」
    「あ…ありがとう、ございます」
    「お仕事、大変なんでしょう?あまり無理はしないようにね」
     
    穏やかな口調と、笑顔。
    優しい人だ、と心底から思った。
    こんな風に自分たちに微笑みかける人を、氷雨はあまり知らない。
    出逢えたことに感謝して、改めて足もとの花に視線を移した。
     
    「…もう、ガーベラが出ているんですね」
    「えぇ。花は好き?」
    「はい。…最近は、色みのない生活をしていたから。余計に」
     
    氷雨は弱々しく微笑んだ。
    寒々しい、自分の世界。
    そこに花が在ったらきっと心も穏やかなのだろう。
    そうは思うけれど、あまり構ってやれないことを考えると少し躊躇う。
    それに殺風景なデスクに鉢植えや切り花を置いておくのも、なんだかアンバランスだ。
     
    「ふふふ。私の恋人も、なんだか似たようなことを言っていたわ」
    「似たようなこと?」
    「赤と黒しか見ていないから、植物の緑が目に沁みるんですって」
     
    笑う彼女に、つい氷雨も笑った。
    それを見て、彼女はさらに嬉しそうな顔をする。
     
    「軍人さん、笑っていた方が可愛いわ」
    「…照れてしまいます、そんなことを言われると」
     
    軍部の男性陣からの褒め言葉には鉄壁の笑顔で対応できても、なんだかこの可愛らしい彼女からの言葉にはついつい素が出てしまう。
    照れ隠しのように俯いた氷雨に、彼女は言う。
     
    「じゃあ、照れ屋な軍人さんに私からプレゼント」
    「え?」
     
    彼女はガーベラの入ったバケツから、一本抜き出して。
    適当な長さで茎を切り、それをそっと氷雨の髪にさす。
    小振りな淡い、ピンクのガーベラの名前は――ティアラ。
     
    少し離れて氷雨を見ると、彼女は柔らかに笑った。
     
    「ほら、よく似合う」
    「…ありがとうございます」
     
    お引き留めしてしまってごめんなさい、そう言う彼女に首をふり。
    今度は小さな鉢植えを買いに来ることを約束する。
     
    「デスクでも育てられるような花、選んでくださいますか?」
    「えぇ、もちろん。綺麗な色の花が咲くものを取りよせておくわ」
    「嬉しいです」
     
    名残を惜しみつつ別れを告げて、氷雨は中断してしまった見回りを再開する。
    歩きながら、さしてもらったティアラにそっと触れた。
     
    足音が軽くなったのは、きっと気のせいなんかじゃない。
     
     
    (春の日差しと桃の花!)
     
     
     
     
    椎さんに以前送りつけたものの改訂版。
    すっかり忘れていたよ…結構な回数桃花さんを書いているのにまだ載せてなかったという。
    最近まったく更新できてなかったので、慌ててみた。

    もう桃花さんを書くのが楽しすぎます。
    このままファーストコンタクト編を書こうかな…椎さんの日記に在った、蓮を攻撃する晃が書きたくて仕方ないのです。

    夏休みは終わるけど、頑張ろう。

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    1990/10/10
    職業:
    学生。
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    物書き。
    自己紹介:
    動物に例えたらアルマジロ。
    答えは自分の中にしかないと思い込んでる夢見がちリアリストです。
    前向きにネガティブで基本的に自虐趣味。

    HPは常に赤ラインかもしれない今日この頃。
    最近はいまいちAPにも自信がありません。
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