※仮想世界。
恐ろしく暗いので注意。
ごとり、と。
音がした、自分の後ろで。
「…」
振り返るのが、怖かった。
嫌だ、振りむきたくない。
けれども意志とは裏腹に、ゆっくりと首は後ろを向こうとする。
「っひ、」
息を呑む。
嫌だ、違うこんなのは――嘘だ。
視界に入ったのは、あかいろ。
そこに浮かぶ、深緑のジャケット、白い腕、茶色い髪。
転がった鉄パイプ。
「かす…が…?」
春日氷雨。
ぴくりとも動かない、うつろな瞳だけこちらに向けて。
「っ!!」
思わず引いた足が、何かに当たった。
見下ろせば、彼女と同じ服を着た、男。
淡い茶色の髪が、ぷかぷかと冗談のように血の海に浮かぶ。
冗談、だ。
こんなの、タチの悪い。
優は目を閉じて、けれど顔は生きた人間の色をしていない。
「…う、そだろ…」
ゆるり、目を向ける。
壁際、ごろりと転がっている、むくろ。
白いカッターシャツが赤黒く染まって、それはまるで彼の瞳の色のよう。
「れ、ん…」
蓮。
汚泥に咲く花の名前。
けれどその名を持つ彼が、横たわるのは生臭い赤。
どうしてどうしてどうして。
どうして、こんなことに。
叫びだしたくて目を閉じた。
頭を抱えようとして、ようやく己の手に在るモノに気付く。
「…っ」
二丁の、銃。
それは、彼のもの。
鳥海青の、武器。
顔を上げた。
そうして青ざめる。
血の匂いで気付かなかった。
けれど確かに香るのは、馴染んだ硝煙の。
「…嘘だ、」
氷雨も、優も、蓮も――銃殺、されている。
首、腹、心臓。
撃ち抜かれて血を溢れさせて、冷たくなった。
それをしたのは、 自、 分 ?
「――ヒトゴロシ、」
不意に、甘い声がした。
聞き覚えのある声。
目を向けると、見知った顔がもうひとつ。
「かぜひめ、」
「ヒトゴロシ」
風姫はそう言って、笑う。
青の知らない顔で。
薄く淡く、冷めた笑みを浮かべて。
真っ白いセーラー服、腹の部分が真っ赤に染まる。
「風姫っ」
呼ぶ声に、にっこりと笑って。
もう一度、彼女はくちびるを開いた。
「青くんの、ヒトゴロシ」
「っ!!」
は、と。
目が覚めた。
同時に跳ね起きて、血のにおいを探す。
「…んだ、よ…夢か…」
探した匂いがないことと、ぐっしょりと汗をかいていることに気付く。
嫌な夢をみた、と思う。
耳の奥、まだ彼女の声が残っている。
ヒトゴロシ――そう言って、彼女は笑った。
「…人殺し、か」
それを否定する言葉は、自分にはない。
紛れもなく自分は人を殺したし、これからも殺していくのだろうから。
嗚呼、嗚呼。
そんな自分が、平穏を望むことがそもそもの間違っていたのだろうか。
だったらもう触れない、そう思う反面、それでも縋りたい己に気付く。
あの場所はあんまりに平和すぎて、優しすぎて。
自分の影を浮き彫りにする。
なのにそこに触れていたくて、痛くて痛くて。
足掻く、ずっとずっと、苦しいくらいなのに。
「…」
開いたてのひら。
まだ、銃を握っていた感覚がある。
背筋が冷えて、耳鳴りが酷い。
いつか、これを、向ける日が来るのだろうか?
ああだけど、もしもそんな日が来たとしても。
彼らに向けるくらいなら、俺は迷わず己の頭に向けようと。
早く明日になればいい、と思う。
そうしたらこんな夢、忘れてしまえるのに。
再びもぐりこんだ布団は、やけに冷たくて身震いした。
(01 歪んだ鏡に手を伸ばし、未だに揺らぐ己と出逢う)
お題消化ー。
書き終わってから慌てて探したので、あんまりお題に合ってません(笑)
とりあえず青にしてみた。
こんなん書いてますけど愛はあります、本当です。
って言うか愛しかありません。
次はもうちょっと明るいの書こう…ほんとは普通のシリアスが書きたかったんだ、こんなに暗くするつもりはなかったんだ…。
色々、すみませんでした(土下座)
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