※階段の神様。
「――おれ、には」
つぶやいた。
にぎりしめた拳が震える。
「俺には、わからない、けど」
どうしたら良いのかなんて、分からない。
だって信じ込んでいた世界の理が、根底からひっくり返ってしまったんだ。
無力に非力に立ち尽くして、それでも呑み込むしかない現実だけは妙にくっきりと浮かび上がって。
そもそも間違いというのなら最初の出逢いからだろう、だってこれは本来ならばあり得ない邂逅だったのだから。
触れた手も笑う顔もやわらかな声も。
何もかもが間違いで、虚構で、嘘で。
切り捨てるならば、それ以外の何物でもないんだ。
「でも、だけど」
嗚呼、ねぇだけど。
失いたくないのは、本当なんだ。
あなたがこんなにも悲しそうな顔をするのだって、見たくないんだ。
どうにかして笑ってほしくて、そのために何かしたくて。
そう思うことは、嘘にはなりえないと思うんだ。
「――だから、」
顔を上げる。
もう良いよ、迷わないよ。
ぜんぶ抱えて、さいごまで走るよ。
「きずな、くん?」
ぼんやりと、よく分かっていないような顔で首をかしげた彼女に、俺は微笑む。
上手に笑えてるかは、分からないけど。
それでもできるだけ穏やかに、わらう。
「良いよ、良いんですよ、もう」
「良いって…なに、が?」
「ぜんぶ」
そうだよ、もう良いんだ。
立ってる場所が違っても、生きてる場所が違っても。
――俺は、あなたが、好きです。
(決意には程遠く、けれどもそれは熱を帯び)
ほぼ勢いだけで書いてみた階段の神様。第八話。
英断とは呼べないような解答、それでも必死で彼に選んでもらいました。
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