※階段の神様。閑話。
「かれ」が居なくなった教室で、彼女はゆっくりと首をかしげた。
広い教室にひとりきり、遠くなる足音に耳を澄ませながら。
やがてそれが聞こえなくなって、それからゆっくりと目を伏せる。
「かのじょ」によく似たかんばせで。
祈るようにつぶやいた言葉は、誰も知らない。
誰にも見つけられることなく泣く子どもを、かのじょはいとも容易く見つけた。
何でもないことのように、手を伸ばして微笑んで。
誰も触れることのなかったその手と、繋いだ。
時間を共有することのなかった姉妹のように。
不器用に、いびつに、けれども穏やかに緩やかに。
重なり合ったふたつの影。
かのじょの背を追うように、彼女は成長する。
追いつけないことが幸せだった。
先を歩く背中を見ていることが、幸福だった。
凛とうつくしく、優しげな空気をはらむその背を見つめることが、彼女には嬉しかったのだ。
嗚呼、なのに、それなのに。
ある日かのじょの時間は止まり。
彼女の時間は変わらず進む。
どうしてだろう。
あんなにはっきりと見えていた背中が、もう見えない。
急に空恐ろしい気持ちになって振り向くと、いつの間に追い抜いてしまったのだろう。
自分の後ろに、立ち尽くすかのじょが居た。
微笑んだまま凍りつく。
どうして、どうしてどうして。
嗚呼、あたし、は。
あの人、を――。
神様がもしも居るのなら。
彼女はそっと唇でつぶやく。
ねぇ神様、あたしの父よ。
どうか一度だけ、魔法をかけて。
閉じた瞼で見つめた背中。
変わらずうつくしく、そのことに少しだけ笑った。
(やがて光をむすぶころ、)
階段の神様。の閑話です。
風姫と雪姫のお話。
それにしても最近の放置っぷりに驚いた。
がんばれ…もうちょっとお話が書きたい。
しかしなかなか思うように書けない…うぬぬ。
でも久々に楽しく書けました。
つくづく自分はシリアス書きなんだとおもいます。
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