「なんか…アレだよね」
「アレ?どれ?」
「不意打ちで投げかけられる温度のある言葉って、やけに心にしみるよねっていう話」
「あー…オリジナル弱いもんね、そういう一言に」
「なんかね。怒鳴られても泣かなかったのに、慰められたり労られたりした途端に泣けてくるのは何でかな、って」
「んー…まぁその答え自体はさして難しいものじゃないと思うんだけど」
「けど?」
「…これ言うと、オリジナル怒るかなー、とか」
「…や、別に怒りはしないと思うよ?」
「あーうん、つーかオリジナル基本的に怒らないしね。まぁほら、何て言うか」
「なんだよ」
「…オリジナルは外かっちりコーティングしてるけど、内側は柔いからって話」
「…ごめん、何の話?」
「つまりは心の鍵の問題?開けて、内側晒しちゃうとダイレクトに何でも伝わるんだよね」
「…それは、分かるけど」
「…錠前ってさぁ。外からは鍵ないと開かないけど、内側からだと普通に外せば開くわけじゃない」
「あぁうん。っていうかそれ中から開かないとどっちが表か分かったもんじゃないよね?」
「うん、だからそういう事」
「へ?」
「オリジナルは外からの攻撃には耐えられても、内側から触れられるとどうしようもなくなっちゃうんだよ」
「…えっと、」
「いつも、自分のこと最低って嘲笑って、それが本当なんだって信じて。その言葉でオリジナルは、心を…あたしを、守ってるんだよ」
「だって…最初から最低ラインに置いとけば、これ以上傷付かない気が…傷付けない気が、するんだもの」
「ん、分かってるよ。…自分は最低って思うことは、オリジナルにとっては鍵にあたるんだよね。だから外側からの攻撃じゃその鍵は開けられない。だってオリジナルは傷付く用意をしてるんだから」
「…うん」
「来るぞくるぞって構えてると、ぶれないもんなんだよねぇ当たり前なんだけど」
「まぁそのために構えてるわけですし」
「だけど、思いもよらなかった言葉は不意打ちで鍵を開けちゃうわけ。否定し続けた自分を、誰かに優しくされることで肯定されるの。そうするとオリジナルはもうパニックで、どうして良いか分からなくなるんだと思うよ」
「…?」
「ほら、ずっと暗いとこに居ると、明るいとこに出ると眩しくってどうしようもないじゃない。あんな感じ。認めてもらえるわけがない、愛してもらえるわけがない。そう思い込んでたのに、いとも容易くその鍵が外されて」
「ある意味でそれってアイデンティティの崩壊だよね」
「あ、近いかも。『否定し続けてやっと見つけたあたしを、壊されちゃったらどうしたら良いの?』って。逆の意味でのプライドの崩壊みたいな」
「…普通、逆だよね。自分すげぇ、って思ってたのを壊されてあわあわするんじゃないの?」
「うん、普通はそうだと思うよ。オリジナルは自虐的すぎるんだよ」
「…弱い、のかなぁ。あたしは、」
「んー…弱いっていうか。仕方ないんじゃない?ウィークポイントをつつく鍵は誰にだってあるよ。オリジナルの場合はそれが誰かの優しい言葉ってだけで」
「…優しい言葉が鍵、ね。なんとなく、分かる気はするけど」
「否定し続けて突き放した自分に、暴動起こされてるんだよ、きっと。もっとちゃんと愛してよ、大事にしてよってね」
「…きみが言うとなんか、複雑なんですけど…」
「あはは。これがあたしなりの愛し方なのー」
「うわっ、すっごい歪んでるよそれ!」
「何よぅオリジナルこそー。傷付けるのが守るのと同義なんて、不器用もいいとこだって」
「んー…それはアレだよ、あたしだからだよ。他人にはやらないよ…多分」
「多分か。…まぁ、お互い依存症だしねぇあたし達」
「ねー。甘えてるのは百も承知なんだけど」
「良いんだよ、それで。だって結局さぁ、最終的にオリジナルを甘やかしてあげられるのはあたしなんだもん。これは誰にも譲れない」
「…ふふ、独占欲つよいなぁ。さすがあたしの心」
「当たり前。だってオリジナルはあたしのだもん」
「もちろん。全部あげるから全部ちょうだい、っていうのが可能なのは、あたし達だけだもんね」
「そうだよ。オリジナルが望む限り、あたしはずっとオリジナルと一緒」
「そうだね。きみが願う限り、あたしはずっときみと一緒」
「…それは、一生?」
「一生。あたしが終わるまで、ずっとずっと」
(当たり前に捧ぐ、)
(一生、の願いと誓いの声)
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