※カレとカノジョ。
記憶に絡めとられる。
たまたま入った、コスメや雑貨なんかが置いてある小さなお店。
見るともなしに眺めていると、不意に記憶がくるくると巻き戻る感覚に陥る。
何が引き金になったのか、眉を寄せた瞬間に甘やかな桃の匂いが鼻先をかすめた。
振り返ると、わたしの後ろで女の子がふたりはしゃいだようにかわるがわる香水を手にとっている。
その中のひとつが、しゅっと音を立てて空気中に振りまかれた。
途端、仄かに香る桃の匂い。
「(…嗚呼、)」
色あせたようなシュガーピンクの小瓶に入ったそれ。
わたしが彼女たちくらいの年の頃――つい二年ほど前の話だけど――欲しくてたまらなかった香りだった。
「(…まだ売ってたんだ)」
期間限定の香水だったのだと思う。
その時はぐずぐずと迷っているうちに売り切れてしまった。
そういえば今も、あの時と同じ季節だとやっと気付いた。
笑いさざめきながら別の一角に移っていった彼女らのあとを追うように、わたしはそのピンク色の小瓶を手に取った。
リボンをかたどった小瓶も可愛くて、それも欲しい理由の一つだったっけ。
いかにも女子高生が欲しがりそうなデザインだなぁ、と今更ながらに思う。
そうやって、冷静に考えることが出来るわたしは、あの頃より確実にオトナになっていて。
二年前のわたしが欲しかった香水にも、心が惹かれることもない。
淋しいわけじゃないのに、心臓のあたりがすこしだけ痛む。
「…何言ってるんだか」
それに、わたしにはもうこの香りは似合わない。
年齢自体はさほど変わっていないけど、あの頃は学生で今は社会人なのだ。
まだまだへなちょこだけど、それでも仕事をする女にこの甘い香りはふさわしくない。
だから――さよなら、だ。
ことん、と小瓶を棚に戻した。
指先に残る桃の香りに微笑んで、わたしはそこに背を向ける。
少女だったわたしが、穏やかに目を伏せるのを視界の端でとらえた。
(桃源郷には帰れないよ)
香水が好きです。
でもあんまりつけません(何故)
瓶自体が可愛いから、なんか集めたくなるよねっていう。
なんかイメージしてたのとはちょっとズレてしまった…まぁ良いか。
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