※仮想世界。
みんなで特訓いたしましょう。
「どーしたの?ひーちゃん。浮かない顔だね」
「藍さん…」
鳥海家に遊びに来ていた氷雨が、なんだか憂鬱そうな顔をしているのが気になって。
藍が小首をかしげると、彼女は困った顔をする。
「いえね、この前軍部でちょっとしたテストがあったんですよ」
「テスト?」
早い話が体力テスト軍人バージョンです、といって氷雨は笑った。
武器の使い方、身の守り方。
基礎体力やその他の能力が向上しているかどうかをチェックするのだ。
そういえばこの前筋肉痛がどうのって言ってたなぁ、と藍は思い起こしてうなずいた。
「そのテストがどうかしたの?」
「氷雨は前回より結果が落ちてたんだよねー」
「うぐ、」
にっこりと、氷雨の代わりに答えたのはもちろん優だ。
タチの悪い笑顔を浮かべて、彼女の頬をぷすぷすつつく。
「体力落ちてたしねー?駄目だよ氷雨、ちゃんと訓練しなきゃ」
「うぅ…ごもっともです…」
「それ氷雨ちゃんの?見せて見せてっ」
風姫にねだられて、素直に用紙を差し出した。
中央に書かれたグラフや数値、平均値やコメントなどを記したそれは、あますます体力テストのようだ。
「へー…すごい、こんなこともするんだ」
「なんだそれ?」
「お嬢のか?」
「………軍人のデータを堂々と君たちが見ていいものなのだろうか…?」
わらわらと集まってきた青と蒼に、蓮が呆れたようにつぶやく。
もう最近じゃほとんど思い出さないけれど、一応彼らの立場は正反対にあるといっても過言ではない。
軍人と、殺し屋。
裁く立場と、裁かれる立場。
正と邪、善と悪、光と闇。
一般的な見方をすれば、彼らは間違いなく敵同士だ。
『正義のヒーローになりたかったんだ』
それでも、彼らは。
きっと笑って、きれいに笑って言うのだろう。
勝手なことを言うな、と。
自分たちのことを知りもしないで、正義だ悪だと判断を下されるのは心外だ、と。
だって彼らこそが、紛れもない正義のヒーローなのだから。
「…この結果を見るに、お嬢はあんまり戦闘が得意じゃないんだな」
蒼がぽつりとつぶやいた。
氷雨のグラフは見事にガタガタで、特化したものと苦手なものの差がものすごい。
長所は短時間での情報処理、的確な判断力。
短所は戦闘能力と、体力の低さだ。
「まぁ女子だし、こんなもんじゃねぇの」
「ひーちゃんの場合は武器が武器だしねー」
「そうかもしれませんけど…でもやっぱり悔しいというか」
呻いて顔を伏せた氷雨に、よし、と唐突に蒼が手を打った。
「兄さん?」
「どうしました?」
問われて彼はあっさりと、至極当然に答える。
めったに見られない、穏やかな笑みさえ浮かべて。
「…じゃあ、ちょっとみんなで訓練するか」
「ちょっと待てだから君たち以下略!」
蓮の渾身の突っ込みもむなしく、こうして本来ならばやっちゃいけない特訓が行われることになった、らしい。
(高らかに奏でてみせよう)
久々更新仮想世界。
珍しく次男じゃなくて蓮がツッコミに回りました。
たまには常識的なこともできるんだよ、と主張したい(たまに?)
次回はきっと特訓シーンを書きます。
頑張ろう…!
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