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書きたいものを、書きたいときに、書きたいだけ。お立ち寄りの際は御足下にご注意くださいませ。 はじめましての方は『はじめに』をご一読ください。
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    蝶々結び。

    ※彼と彼女。


    とんとん、とん。
    セロリを細く切って、鍋に放り込む。
    包丁を操る手つきは慣れていて、どこにも危なっかしい要素はない。

    とん、とんとんとん。
    そのままでは食べられないセロリを、トマトと一緒にくたくたになるまで煮込んでスープにする。
    最近彼女が発見した方法で、トマト味なら苦手な野菜もそれなりには食べられるのだと誇らしげに胸を張っていた。

    今日の野菜は、セロリと小さく切ったブロッコリー。
    それからベーコンだとか、賞味期限の近いウインナーだとか。
    全部材料を鍋に入れると、湯むきしてこれも細かく切っておいたトマトも突っ込んだ。
    水を足して、火にかけて。
    あとは煮込んで、味を整えれば完成…なのだが。

    「はい、あとは任せた」
    「ん、」

    彼女はそう言って、おたまを僕に手渡す。
    君の仕事はここまでで、味付けはいつも僕の役目。
    一人暮らしが長い割には、どういうわけか彼女に味付けのセンスはない。

    「これだけ手際よく作っといて、なーんでダメなんだろうねぇ…」
    「それはあたしが知りたいよ」

    軽やかに動く包丁、迷いのない手つき。
    彼女いわく「包丁の使い方は家庭科で習ったから楽勝」らしい。
    頭の良い彼女らしい回答で、思わず苦笑したのを覚えていた。

    思うに彼女は、食べることにもその延長線上にある生きることにもあまり興味がない。
    食べ物はただのエネルギー源だし、それ以上の働きはない。
    好き嫌いを直そうとしないのも、直したことで手に入れるものに大した魅力を感じていないからだ。

    それでも僕は、彼女が僕の味付けを頼ることにささやかな誇りを感じているのだ。
    そう言ったら笑われるのは、目に見えているけれど。

    「なんでか薄ぼんやりした味になるんだよねー…」

    エプロンをはずしながら、彼女が独り言のように呟いた。
    振り返った先では真剣な顔で考え込む姿があって、それが可愛くてつい笑う。

    「調味料入れる時の思い切りが足りないんじゃないの」
    「でも入れ過ぎたらもっと困るじゃない」
    「入れなさすぎるもの同じレベルだよ」

    塩コショウを振って、味見をして。
    思いついてバターをひとかけ落とした。
    狙ったとおりの穏やかな味、これなら君も喜ぶだろう。
    火を少し弱くして、僕もエプロンを外した。

    「あとは煮込めば完成」
    「わーいっありがとう!」
    「どういたしまして」

    エプロンを彼女に手渡すと、なぜかそのままじっと顔を見つめられる。
    促すために首を傾げると、思案するような声が返ってきた。

    「…なんか、すっかり違和感なくなったねぇ」
    「…これのこと?」

    指差したのは、さっきまで身に着けていた青いチェックのエプロン。
    彼女から借りたものだ。
    男が付けるには少々可愛らしすぎるデザインだけど(控え目ながらレースもついてるし)ここで何か作る度に借りているから、確かにもう抵抗はない。

    「まぁ、しょっちゅう着けてればね」
    「最初はちょっとかわいそうかなーって思ったんだけど、もう良いかなこのままで」
    「なに、代替案でもあったの?」
    「代替案、っていうか…君が着けても平気なエプロン、一枚くらい買い足そうかなって思ってた」
    「過去形?」
    「うーん、現在進行形?」

    スライスしたフランスパンをオーブントースターに並べる。
    スープも、いい香りが漂ってきた。

    「でもなんか違和感ないし。似合ってるし、良いかなって」
    「うーん…レース付きエプロンを似合うって言われるのは、複雑なんだけど…」
    「褒めてる褒めてる」
    「…でもそうだな、どうせなら僕は」
    「?」

    グラスと、切って盛りつけておいたフルーツがテーブルに並ぶ。
    生活感のないこの部屋が、唯一人間の気配に満たされる時だ。
    白い深皿を受け取って、コンロの前に立った。

    「お揃いの方が、嬉しいんだけどな?」

    鮮やかなコントラスト。
    眩しさに目を細めたのは、僕か君か。
    少し間をおいて、息をこぼすように君が笑う。

    「…新婚さんですか?」
    「それも狙ってる」

    スープを真ん中に、焼けたパンを添えて。
    柔らかに灯された熱と、二人きりの食卓。
    ――だけどそれが欲しかったんだ。

    テーブルについて、君が上目づかいに僕を見る。

    「あたしの趣味で選んでいいの?」
    「お任せするよ」
    「…めちゃくちゃ可愛いのとかでも?」
    「それ相応の覚悟があるならね」

    そっと目を伏せたところを見ると、まぁそれなりのものを選んでくるだろうと予想。
    たまに彼女はとんでもないイタズラを、全力で仕掛けてくるのだ。
    …学校で見せるクールビューティーの仮面はどこいった、と小一時間ほど問い詰めたくなるくらいに子供っぽい横顔で。
    ぱん、と彼女が手を合わせた音で我に返った。

    「美味しそう。いただきますっ」
    「はい、召し上がれ。僕も、いただきます」
    「どうぞー」

    なかなか美味しくできたとは思うけど、それでも食べてもらうまでは不安が残って。
    だけどほんの少し覗くそれを打ち消すように、君はわらうんだ。

    「おいしー。やっぱり味付け任せて正解だよねぇ」
    「それは光栄」

    ゆらぐ湯気の向こう。
    霞むのはいつかの未来の光景のよう。

    それでも向かい合わせた君だけは、褪せることがないようにと。

    (こうふくな食卓)



    …そういえば最近セロリのスープ食べてないなぁ…(しょぼん)
    セロリは嫌いですが母が作るそのスープに入ってるセロリだけは好きです。
    そして決してわたしが作ったわけでは、ない(!)

    余談ですが彼は基本的に器用で要領がいいので、何に関してもそれなりにできてしまう人。
    料理とかお裁縫も得意です。
    坊ちゃんだから作る必要ないのに。

    彼女は頭は良いけど経験が絶対的に足りないので(こいつは興味がないからやらない人)なんかイマイチ。
    なんかこう、まずくないけど美味しくもないんだ…!
    でもわたしよりはマシ(言っちゃったよこいつ)
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    1990/10/10
    職業:
    学生。
    趣味:
    物書き。
    自己紹介:
    動物に例えたらアルマジロ。
    答えは自分の中にしかないと思い込んでる夢見がちリアリストです。
    前向きにネガティブで基本的に自虐趣味。

    HPは常に赤ラインかもしれない今日この頃。
    最近はいまいちAPにも自信がありません。
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