※こばなし。
携帯電話と君。
腕を。
腕を、真っ直ぐに伸ばして。
手の中には、硬く握りしめた携帯電話。
立っているのは橋の上、その下を流れるのはそれなりに深さも速さもある川。
橋から身を乗り出すようにして腕をのばして、のばして。
そして。
「…っ」
手を、開いた。
馴染んだ硬さが、重みが、冷たさがあっという間に消えて、わたしは強く目を閉じる。
ひゅっと吸い込んだ息が肺をさして、痛みに涙すら滲む。
感じたのは一瞬。
すぐにびぃん、と音がしてストラップを巻きつけた腕が上下する。
首に下げる、長いストラップ。
その先に在るのは、たった今手を離したばかりの携帯電話。
「はっ…」
震えた息を、吐きだした。
手の先、携帯電話はゆらゆら揺れて、ゆれて。
まるでわたしを嘲笑うように。
失っていないことに対する安堵、結局捨てられなかったことに対する絶望。
ないまぜになってせり上がって、喉を内側から焦がす。
引き攣れたような嗚咽が漏れて、堪え切れずに口元を覆った。
捨てたくて捨てられなくて、憎くてだけど愛しくて。
さよならの真似事ばかりを繰り返して、わたしは安心を、薄っぺらくて脆弱な安心めいた偽物を手にするのだ。
失うことが、怖いのだと。
愛しいのだと、確認させて。
「…ごめ、んね…っ」
何度も何度も何度も。
繰り返し繰り返し、愚かな儀式を行うわたし。
懺悔の声だけが、今日も川に流れていく。
携帯電話水没の巻。
未遂ですが。
たまに携帯をぶん投げるか叩き壊すか逆ぱかするかして破壊したくなることがあります。
でもそれをしないのは、憎らしい以上に愛おしいからなんだって。
想いたいし、想わせてほしいんです。
でもそれとは無関係にわたしは携帯をよく落としてしまうので(えー)
結構ボロボロなんだな、こいつ…。
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