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※カレとカノジョ。
ぱちん、と音を立てて開くのは透き通った小さなケース。
中にはいくつかの錠剤、その中から彼女は器用に数個を選び出して掌にのせた。
ペットボトルを傾けて、水でそれを胃に流し込むさまを、なんとなく眼で追った。
「…あれだよね」
「はい?」
意外なことに、視線に疎い彼女。
呼ばれてやっと気づいたらしく、無防備に首をかしげて俺を見下ろす。
ちゃぷ、とペットボトルの水が揺れた。
「サプリの摂りかたとして、間違ってるよね君の飲み方は…」
「あー…」
彼女がいま胃に落としたのは、所謂サプリメントというやつで。
ビタミン、鉄、カルシウム。
だけど彼女はそれらを常用はしていないという。
「そういうのって、ある程度続けて飲まなきゃいけないんじゃないっけ」
「そうなんですけどねぇ…」
不調を感じた時にそれに合わせてサプリを取る。
間違ってはいないのかもしれないけれど、正しくもない気がする。
というか、そもそもあんまりサプリには頼り過ぎない方が良い、というのはよく聞く話だ。
「今のは?」
「カルシウムです」
苛々するのはカルシウムが足りないから。
気の進まない仕事の前後や、トラブルのあと。
彼女はまるで仕事の延長のような顔をして、白いそれを飲み込む。
「なんか、飲むと大丈夫な気がするんですよねぇ」
「過信はよくないよ?」
「うーん、実際の効果を信じてるっていうんじゃなくて。何て言うんでしょう、飲むとその行為自体に安心するっていうのかな。余裕が出来るって言うか…」
言いたいことは、分からないでもないのだけれど。
ある意味で子供じみたおましないのようですらある、その行為。
今から彼女は俺のさらに上の階級に位置する誰かのところに行くらしい。
何があったのかは知らないけれど、彼女はそいつが大嫌いだ。
そろそろ行かなくちゃいけない時間のハズなのに、君は幼げな横顔をさらして俯く。
「…気が進まない?」
「…」
沈黙は肯定。
俺は苦笑して彼女の髪に指先を通す。
青い花のバレッタが、蛍光灯の光を返して薄く光った。
「戻ってきたら、美味しいミルクティー御馳走してあげるからさ」
「…先輩が淹れてくれたやつ?」
「もちろん」
俺の淹れる紅茶が好きだと君は笑う。
それを嬉しく思うのは当然で、だから俺も笑うんだ。
「理不尽なこと言われたなら、俺が呪っとくし」
「さらっと怖いこと言いますね」
「だけど、サプリなんかよりはずっと君の精神に好影響だと思わない?」
そんな薄っぺらで、お手軽なサプリメントよりも。
ずっと君を笑わせてあげる自信があるよ。
「…そう、ですね」
指先で弾いたケース、そうして彼女は苦笑する。
それでもさっきよりは、うんと晴れやかな表情で。
ペットボトルを机に置くと、まっすぐに顎を上げて胸を張る。
「ん、元気出た?」
「…もー、仕方ない、な」
こうして、君が。
丁寧に見つめようとすることは、間違いなく美徳なのだと。
いつか君がその価値に気付いた時に、告げてやろうと思っている。
「じゃあ、頑張ってきましょうか、ね」
「良い子だ。行っておいで」
柔らかにそれでも強かに煌めく君の眼に。
出来ることなら讃辞を捧げたいと。
いつだって思っていることは、まだ言ってやらないよ。
(上司と恋人の隙間)
サプリとかって飲むの忘れちゃうよね、って話です(違うよ)
飲まないよりはマシだろうということでいくつか保持しているのですが、気付くと飲み忘れます。
しかもわたしはカノジョみたいに持ち歩かないので、なおさら忘れます。
もうわたしクオリティだよねっていう←
カレとカノジョはこうやって中途半端な立ち位置を繰り返していればいいと思っています。