※彼と彼女。
彼女お誕生日祝い。
あたしの世界はからっぽでした。
世界には何もなく、ただただ茫洋と延々と、どうしようもなく広い空間が広がっているだけでした。
あたし以外の何もなく、けれど世界は決して二分化されることもなく。
何もないことだけが在る、それがあたしの世界でした。
あたしは一人でした。
ずっとずっと、一人でした。
それがあたしには当たり前でした。
絶望的なくらい、当たり前でした。
唯一持っていたのは、奇妙な奇妙な力でした。
おかしな力、それはあたしからたくさんのものを奪います。
舞い上げ、切り裂き、何もかもを破壊する絶対的な力。
あたしにとっては手足のように存在する、ものでした。
あたしは、バケモノの娘です。
人から生まれた、醜い魔物です。
外見だけは皮肉なくらいに綺麗に整えられて生まれたけれど、中身はとても醜悪で、劣悪で、途方もなく最低な代物です。
嗚呼、だけど、それを。
淋しいと思うことすら、知りませんでした。
哀しいと泣くことさえ、分かりませんでした。
理不尽さに怒ることも、絶望して笑うことも、あたしには無縁のものでした。
感情を知らない、あたしは紛れもなくバケモノでした。
広くひろい、何もない世界。
ある日、そこに他人がやってきました。
綺麗な顔をした男の子。
彼はあたしの境界線をあっさりと踏み越えるのです。
日常をかき乱して、あたしのペースなんてお構いなしに心臓を揺らすのです。
当たり前のように隣に居て、笑って、からっぽの空間をあっという間に満たしていくのです。
あたしを叱り、あたしの為に泣き、あたしと一緒に笑います。
そんあことをする人を、あたしは知りもしませんでした。
体温は上がり、世界は色めき、耳に届く音は心地よく。
何もないと思っていた世界は、本当は色彩に恵まれた場所でした。
気付いたのは、くるりと季節が変わったころ。
そうして進み続ける時間の中、あたしの世界は今もなお。
いつまでだって、彩られているのです。
「ねぇ、」
「なに?」
「……生まれてきてくれて、ありがとう」
ほら、またひとつ。
君がそう言ってくれるから、あたしはかつての自分にキスが出来るの。
愛した世界、そこに居るのはいつだって、君。
(ハッピーバースディ ディア マイドール!!)
滑り込みアウトです、今回もです。
今日(もう昨日)は彼女、風姫さんの誕生日でした。
10月2日、トニーの日です。
誰だトニーって(笑)
「~でした」「~なのです」って書き方がしたかった…とりあえず満足。
ほんとはわたしと同い年ですが、諸事情により永遠の17歳をやってもらってます←
もう五年?六年?七年?くらい一緒に居る風姫さん。
お誕生日おめでとう、なお話でした。
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