※仮想世界。
コットンキャンディ、の続き。
ひよことふく助。
「…氷雨さん」
「はい」
「これ…何なの」
ケータイを目の高さに掲げてみせる。
ぶらん、とそこからぶら下がるのは大量のひよこ。
なんでもこないだ氷雨さんがクレーンゲームでものすごい量ゲットしてきた…らしい。
きょとん、と不思議そうな顔をして、氷雨さんは当たり前のように答える。
「ひよこですよ」
「それは分かるけど…なんでこんなたくさん…」
ぴよぴよぴよ、ぴよ。
飾り気のない黒のケータイに、たくさんの黄色いひよこ。
さきほど有無を言わさずつけられたものだ。
「えー、良いじゃない蓮、可愛いよぉ」
「あぁうん…風姫、君はね…」
風姫のケータイ(ちなみにライムグリーン)にも同じく大量のひよこが連なっている。
なんかもう、ケータイよりひよこ軍団のほうがでかい。
「どっちが本体か分からないよ…」
「可愛いのにー。ねぇ楚夜ちゃん、可愛いよねー、ひよこ」
「うん…私は、嫌いじゃない、」
「私も可愛いから好きよー」
「桃花さんがそう言ってくれると嬉しいです」
きゃいきゃい、と戯れる女性陣は微笑ましい。
微笑ましいけど、やっぱりこのひよこは彼女らのケータイについているからこそ可愛いと思うんだ。
女子ならまだいいけど。
僕一応男なんですけど。
色々言いたいことはあるものの、とりあえず呑み込んでひよこをつつく。
「…」
ぐる、と部屋のなかを見回すと、全員のケータイ、つまり男性陣も含めてに同じようにひよこ軍団が居座っている。
なんかもう…なんかもう…。
とりあえず蒼さんとか青のケータイにひよこがついてるのが妙な笑いを誘う。
「…なぁお嬢、なんで俺までつけさせられてるんだ」
「お裾わけですよ」
「ひよこのお裾わけか」
「良いじゃない蒼さん、可愛いわ」
「…そうか」
桃花さんににっこりと微笑まれ、蒼さんはあっさり議論を飲み込んだ。
良いのかそれで。
恋は盲目というか…いや、この場合惚れた弱みか…。
まぁ桃花さんはこのパーティのなかだったら最強だもんなぁ、と本人以外の全員が納得するであろうことを思った。
だって僕、桃花さんとは戦える気がしないし。
こないだ風姫にそれを言ったら、「あたしも絶対無理ー」と返されたしね。
神様の子供が二人も揃って、何してんだかとは思ったり思わなかったり。
「晃とー、あと藍はまぁ良いとして…」
「えへー、似合う?似合う?」
「うん、似合うよ」
照れたように晃がケータイを揺らす。
このまま女子に混じってもあんまり違和感ないよな…ある意味才能かもしれない。
そして風姫のケータイといい、晃の髪色といい…ひよこ色に黄緑ってやたら似合う気がする。
「え、蓮くんおれも一応高校生男子なんだけど」
「大丈夫だよ藍、似合ってるよ」
「えぇぇえぇぇ…!?なんかすっげぇ投げやり…!」
「だって藍パソコンにもステッカー貼ってるでしょ」
「そうだけどぉ~…」
藍が仕事道具であるパソコンに、わざと目立つステッカーを張るのにはちゃんと意味がある。
もちろん僕もそれは知っているのだが、困りはてた藍の顔が面白いので知らぬ振り。
楚夜さんや桃花さん、晃がいる場では、仕事のことを口にできないのはもちろん承知の上だ。
ぶすぅ、と藍がむくれた。
「蓮くんちょー性格悪い」
「あはっ、知ってる」
「お前らはまだそれなりに女顔だから良いけどさ、俺とかどうすんだよ…!!」
さりげなく失礼なことを言ったのは青だ。
ちょっと待て、誰が女顔だ。
ぐったりと見るからに疲れた顔で、青はケータイを氷雨さんに突き出す。
「…春日、これ取っちゃダメか」
「あら青さん、何を仰るんです?」
「いやだって、さすがにどうよコレ…俺高3男子なんですけど」
「大丈夫ですよ可愛いですよ」
「可愛いことが問題なんだよ!」
ぎゃん、と青が吠える。
まぁ…確かにね、男としてちょっと恥ずかしいものがるけどね…。
でもそれ言ったら、僕たちとはちょと離れたところでケータイいじってる優さんとかどうなるの。
もうさも当然と言わんばかりにひよこぶら下げてるよ?
氷雨さんが姉のような顔で青を見つめた。
「えぇー…じゃあ青さん、ふく助つけます?」
「は?ふく助?」
「軍部のマスコットキャラクターです。ご覧になります?」
そう言って氷雨さんは鞄から小さな茶色っぽい物体を取り出して、青に向かって放り投げる。
ただ青はケータイと飲み物を持っていたため、受け止めきれずにそれは床に転がった。
「なに?これ」
「蓮、何それ?見せて見せてー」
拾い上げて、こちらに向ける。
うわぁ、と風姫がものすごい微妙な声を上げた。
「あー………」
「風姫さん?なぁに、それ」
「楚夜ちゃん、桃花さん…これ…」
「あぁ……」
「あらぁ…」
ことごとく微妙な反応。
うん…だって、ものすっごい微妙なんだ…。
軍服を着た、ふくろうのぬいぐるみ。
それふだけならまだ可愛らしい、で済むのかもしれないけれど、このふく助の場合、目が…。
「うつろ…だね…」
「うん…」
虚ろとしか言いようのない黒い大きな瞳が、まっすぐにこちらを見つめている。
ぬいぐるみってそんなに表情はないものだけど、それでもこれは怖すぎる。
無言で青に差し出すと、しばし沈黙したのちそっと彼はぬいぐるみを氷雨さんに返した。
「…すみません、ひよこで良いです」
「そうですか?」
可愛いのに、といささか不満げに呟く年上の友人が、本気で分からなくなりました。
(ひよことふくろう)
なっげぇ…!!
仮想世界は登場人物が多いからいつもぐだぐだだよ…。
絞ればいいのかしら。
前回の続きでした。
とりあえずふく助が書けたので満足。
椎さんが日記でふく助描いてくれたから、ビジュアルが知りたい人は要チェックだよ!
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