※階段の神様。
息を吸い込むと、舞い上がった埃が肺に入ってきそうだ。
カーディガンの袖で口元を覆って、一気に階段を駆け上がる。
ポケットの中のデジカメが、弾むようにゆれる。
「っと…」
屋上に続く北階段の、最後の一段を強く踏んだ。
気候のいいときは屋上もここも弁当を持った生徒で賑わっているのだけれど、十一月も終わりに近づくとさすがに寄り付く生徒はいないらしい。
寒いもんな、うん。
俺も理由がなきゃ絶対来ないよ。
重たい扉を開けると、北風が思いっきり吹きつける。
「さっむ…!!」
やばいやばいやばい、これ絶対凍る。
十一月でこれじゃ、今年の冬俺生きて行けるだろうか。
予想以上の寒さに一瞬ひるみそうになるけれど、なんとか奮い立たせて外に出た。
出てから、寒さに負けて扉を閉めなくてよかったと思う。
出迎えたのは、望んだ景色だ。
うちの学校は、緩やかな坂道を登ったところに建っている。
そのため、見晴らしがなかなかに良いのだ。
晴れた空の下、遠くまで家々が連なっているのが一望できる。
しかもこの辺は高級住宅街というやつで、目に入る外装なんかも凝っていて楽しい。
姉から貰ったデジカメで、此処からの眺めを撮ってみたくなったのだ。
「うっわ冷てぇ…!」
フェンスをつかむと、あまりの冷たさに背筋まで寒気が走る。
…とりあえず、二三枚撮ったらすぐ帰ろう。
なんかあったかい飲み物でも買って、飲みながら帰ろう…!!
「よい、しょっと」
写真を撮るにはフェンスが邪魔だ。
ちょっと危ないかな、とは思ったけど、少しだけフェンスをよじ登ってしまおう。
小さな網目に爪先をひっかけて、上半身を乗り出す。
「んー…これズームってどうすんだ?」
パシャパシャ、と数枚シャッターを切った。
とりあえず下りようか、と思った時、不意に背後に気配を感じた。
「――え、」
「何してるの?」
笑いを含んだ声。
振り返って、俺は一瞬呼吸を忘れた。
こちらを見つめていたのは、女子生徒。
肩より少し下で切り揃えられた髪が、冷えた音を立てた。
「え、と…」
「危ないよ、そんなとこに上ってると」
重みのない声。
素直に従って地面に足を下ろすと、彼女はにっこりと笑った。
その瞬間に、今度こそ呼吸を奪われる。
真冬の冴えた空、冷たいコンクリートの舞台。
時間を忘れた君と、俺。
(錆びた歯車が廻る、まわる)
階段の神様その2。
今回はちょっと短めです。
十一月の終わりってどのくらい寒いのかよく覚えてません。
すごく寒かった気がするんですが、わたしが寒がりだっただけじゃね?と思ってみたり。
そしてフェンスよじ登りはマネしちゃだめだぞ!
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