※カレとカノジョ。
淋しがりカノジョのお話。
なんで、かしら。
白々しく明るいケータイの液晶画面を見ながら考える。
どうして、なのかな。
繋がらなきゃただのオモチャだってことくらい、分かってはいるのだけど。
「…もう、十二時か」
見上げた時計は、日付がもうじき変わることを知らせている。
手の中のケータイも同じ時刻を表示していて、当たり前のようにかなしくなった。
淋しい、です。
呟いた声はあまりに薄っぺらくて透明で、まるで現実味のない声だった。
わたしの声じゃないみたいで、少しだけ笑える。
淋しい、さみしい。
そうは思うけれど、だからといって涙も出なくて、縋る手段も思いつかなくて。
夜の真ん中で、ぽっかりと穴をくり抜いたようなケータイの画面を見つめてみる。
別にケータイが鳴らないことが淋しいんじゃなくて、悲しいんじゃなくて。
繋がっていないことが、苦しいわけでもなくて。
ただ、どうしてかしら。
わたしだけが、置いてきぼりにされてしまったような気がするのは。
心臓が痛くて、泣きだしたいのにちっとも潤わないわたしの瞳が憎らしかった。
かなしい気持ちばっかりが、たまっていくのが分かってしまう。
涙にして溶かせないのは苦しいことだと、久しぶりに思い出した。
「…そう思うこと自体、おこがましいのかもしれないけど」
こういう時に、あの人に。
「淋しいわ」って縋れたら、もうちょっと違う夜になっているのかも知れないけれど。
わたしにそんな芸当はできないし、そもそもそんな甘い声、仕事でもなきゃでるわけがない。
つくづく不器用だとは思うけど、今更どうにもならないし。
「…そろそろ、寝なくちゃ」
淋しくなるから、最近は夜がきらいです。
わたしは朝が苦手で、優しい夜の方がずっと好きだったはずなのに。
味方だったはずの夜をきらいになってしまったら、わたしはどこに身を置けばいいのかしら。
ひんやりした夜の空気のせいか、普段は考えないようなことばかり考えてしまう。
センチメンタルなんてらしくないな、わざと口に出してみて笑った。
立ち上がって、カーテンを引いた。
思いついて隙間から見上げた空には、白っぽい月が光る。
その光だって紛い物なんだよと、昔誰かが言っていた気がする。
「っ!」
その時だ。
ベッドサイドに放置していたケータイが、高らかに鳴り響く。
それはこの世界でたったひとり、わたしが特別なメロディを捧げた人からの。
きっちり五秒間鳴って沈黙したケータイを、ゆっくりゆっくり取り上げる。
「…メールだ」
差出人は、もちろんあの人。
彼からのメールを開く瞬間は、何時も少しだけ怖い。
それでも数度真ん中のボタンを押すと、あっけなくメールは開かれた。
件名はなし。
本文はたった一行で、写真が添付されている。
――それは、しろい月の写真。
「…っ」
わたしが見ていたのと、同じもの。
しろく浮かぶ月、それは酷く綺麗だと思った。
あの人の目から見た世界は、こんなにもうつくしいのかと感動すら覚えた。
月が綺麗だよと。
それだけを告げるメール。
だけどその一言は、わたしの冷え固まった心臓をあっという間に溶かしていく。
どうして、どうしてですか。
貴方の声は、いつだってわたしの心を揺らします。
不器用に足踏みばかりを繰り返す、弱い本音すら見透かしているのでしょうか。
痛みばかりを訴えて、そのくせ泣かせてもくれなかったのに。
たったこれだけで涙が落ちて、どうしようもなくなった。
「…?」
もう一度音楽を奏でるケータイ。
さらに追加で送られてきたメールを開いて、わたしは少しわらう。
『おやすみ、また明日』
わたしの逡巡すら掬いあげるあの人に、嗚呼わたしはきっといつまで経っても敵わない。
それでも良いと思えるあたり、わたしの世界も彩られているのでしょう。
「…おやすみなさい」
呟きと同じ言葉を返信して、わたしは揺らいだ視界をぬぐう。
おやすみなさい、わたしと貴方の世界に向けて。
きっと明日最初に逢う貴方は、わたしを見つけて笑ってくれるだろうから。
(世界に君を、そうして唄を)
明るい?え、これ明るくなってるのかな…!?
とりあえずほんのり暗めループから抜け出してみたつもり。
それにしてもノリが少女漫画な気がする…や、少女漫画はめったに読まないんですが(笑)
ちょっとカノジョが素直すぎました。
こいつはたぶんもっとツンです。
でもなんとなく、さみしい気持ちを見透かされると泣きたくなってしまうよねって思ったり。
さみしがりです、きっと、みんな。
でも上手く言えないまんま溜めこんでしまって、ふとした一言に心臓の柔らかい部分に触れられるとどうしようもなくなってしまうのかな、って。
なんか、ね。
かなしい時はたぶん、泣けた方が良いんだよって話です(どんなシメだ)
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