※カレとカノジョ、こちらも黄金週間。
普通のお勤め人よりは、ちょっと短いゴールデンウィーク。
まぁゴールデンっていうかシルバーくらいの感覚ではあるのだけど、ここ数日はちょこっとしたお休みだ。
買い物に付き合って、彼にそう言われたら、断る理由なんてどこにもない。
わたし自身は恋人を自分の買い物に付き合わせてしまうのは忍びなくて(だって女の子は買い物が長いのだから)、なんとなく敬遠してしまいがちなのだけれど。
でも、彼の買い物に付き合うのは、個人的にすごく好き。
「何買うんですか?」
「夏物のカーディガンが欲しいんだよね、職場寒いから」
軍はエコにも配慮してますよ、というアピールに、エアコンの設定温度は低め。
ただ、それでも一日書類に追われてデスクから動かない、なんて状態だとけっこう冷えるのだ。
だからわたしも、夏でも膝かけは欠かせないしカーディガンも常備。
そう言えばこの人もあまり寒さには強くなかったな、と苦笑した。
「何色をお探しで?」
「あんまり派手な色は着られないよねー…まぁ、無難に紺とか?」
「ですよねぇ」
お目当ての売り場は、時々休みの日に行く雑貨屋さんのすぐ近く。
夏向けのアイテムがたくさん入荷してるな、と通り過ぎる時に考えた。
「羽織ものだとこのあたりですか?」
「そうだねー。どうしよっかな、」
いくつかカーディガンを合わせる彼を見ながら、すこし笑う。
線が細くて品の良い顔立ちをしたこの人は、こういうVネックのカーディガンにワイシャツを着ると学生みたいで。
もう制服とは縁遠い年齢のハズなのに、それが奇妙に似合ってしまう。
これに学生鞄持ってたら、きっと今でも高校生に紛れ込めるわ、想像したらなんだか楽しい。
「…今、なーんか失礼なこと考えたでしょう」
「え?ふふ」
もちろん、彼の年齢はわたしよりも上。
ほんとうは大人だって事、ちゃーんと分かっている。
でも、だからこそかもしれない。
こんな風に幼げに見える横顔を、わたしは少し安堵してみている。
「なーにー?言わないと、怒るよ?」
「ふふ、やめてくださーい」
しらばっくれてそっぽを向く。
頭を小突かれて、きらめくような幸福に微笑んだ。
たまにはこんな風に、買い物デートも悪くないな。
「これにしようかな。会計してくるから、隣の雑貨屋さんでも見ておいでよ」
「んー…じゃあ、そうしようかな」
結局買ったのは、薄手の黒いカーディガン。
レジに向かう後姿をすこし見送って、わたしは勧めてもらったとおり、雑貨屋さんを覗くことにした。
「(おー…夏物かわいいなー…)」
目を引いたのは、キラキラと鮮やかに光る髪飾りの類。
なかでも、涼しげに青く透き通った、花の形のバレッタがすごく可愛いと思う。
「(バレッタ…うーん、ヘアゴムよりは結んだ跡が髪に付かないから、便利だよねー…)」
候補に挙げつつ、目を移していく。
洋服と違って、こういうアクセサリーってフィーリング勝負だと思っているので、きっとあのバレッタで決まりだろうな。
そう思っていたのだけれど。
「…!!」
バレッタのおかれた棚の、すこし上。
わたしの心臓を鷲掴みにしたのは、生成りのレースで縁取られた可愛らしいカチューシャ。
はしごレースのそれは、わたしの好みにストライクで。
「(可愛い…!!)」
きっと、あぁきっとこれを付けたらわたしの見た目年齢はぐっと下がる。
可憐で素朴で、あたたかみのあるそれは仕事のできるキャリアウーマンが付けるようなものじゃないのも、もちろん承知。
でも、でもどうしようすっごく可愛い。
「(…くっ、でもなぁ…!!)」
あぁよく考えて、わたしが目指すのはなんだっけ?
年上の恋人に相応しい、落ち着きと余裕と大人っぽさを兼ね備えた女性だったはず。
だったら今、このカチューシャを選んでしまうのは明らかな敗北宣言だわ。
「(すっごく可愛いけど、でもバレッタの方がほら、使いやすいし…!)」
色んな言い訳をしながら、一度手にしたカチューシャをラックに戻した。
最初に見ていた青い花のバレッタを取り上げて、レジに向かう。
「いらっしゃいませ」
提示された金額をお財布から取り出して、手渡そうとしたその時だ。
ふっと後ろから腕がのびて、わたしがさっき散々迷ったカチューシャをレジに置く。
「すみません、これも」
「はい、かしこまりました」
「へ、ちょ、」
犯人なんて、見なくても分かる。
頭をめぐらせれば先輩は笑って、カチューシャ分の代金をレジに置いた。
…カチューシャの代金ぴったりで出してくるあたりが、憎たらしいです先輩。
「ありがとうございました、またお越しくださいませ」
にこやかな声に見送られて店を出た。
空が青くて、空気は乾いてあつい。
それから腕の中に、バレッタとカチューシャが入った袋。
大事でだいじで、そっと抱きしめる。
「…ありがとう、ございます」
嬉しいのに、ほんとうはすごくすごく嬉しいのに。
素直に笑顔を向けられないわたしは、一回くらい怒られた方が良いと思う。
なのに彼は、わたしをどこまでだって幸せにする笑顔を見せる。
「んー?だって、それ付けた君を、俺が見たかっただけだし」
…甘やかされている、と思う。
それはもう、ものすごく。
丁寧に囲われた腕の中、わたしはその甘さに思わず一度目を閉じる。
あいしてる、と。
心の中でだけ、はららかに告げるその言葉を、きっとこの人は残らず拾い上げているのだろう。
「ねぇだから、付けてみてよ」
乞われて、袋の中からカチューシャを出した。
シールをはがして、そっと髪を押さえるようにつける。
ふれたレースに、浮き足立つような心地を覚えた。
「うん、やっぱりよく似合う」
笑った顔に、今度こそ笑みを返して。
飛びつくような勢いで、彼の腕に自分のそれをからめた。
(どんな王冠も敵わない!)
黄金週間、カレとカノジョバージョン。
話に出てきたカチューシャは、今日わたしが買ったヤツです(笑)
一目ぼれでした…すっごい可愛いんですよ!(分かったよ)
あぁあ…黄金週間もう半分終わってるよ…!!
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